海寮 | ナノ



VI



「…引き受けるんじゃなかった」
授業には出ず、ベッドの上で副寮長備品のノートパソコンを広げ、無茶振りのパンフ制作を進める。元データはあるから今年度分に差し替えるだけだが、細かい名称変更だの、画像差し替えだの、意外と大仕事だ。一番ややこしいのは、いたる所にある年度と日時。すべて直したつもりでも文字校で出てきてしまう。あぁ自分以外の目が欲しい。
…あ、去年とまるっきり同じだと在庫チェックとかで勘違いしやすいか。色だけでもマイナーチェンジして差別化した方がいいな。...あぁ、やることが増えた。

「ロックウェールくーーーーん!!!」
「うわっ!」

ノックもなしに私のへやに飛び込んできたのは半泣きの学園長だった。私の部屋のドアはそろそろ壊れるかもしれない。

「あーなんてことでしょう!!まさか階段から落ちるなんて!!昨日は私あのあとすぐに出張に出ちゃいまして、お見舞いに行けず申し訳ありません!!」
「いえ、もう元気なんで、大丈夫です」
「病院には行きましたか?!処置はしたと聞きましたが、経過は!」
「足挫いてるのと、たんこぶがあるくらいです」
「全く、意外と元気そうでよかったです!」
テンション高いな。学園長。

出張土産だという茶菓子を頂いて、二人でお茶にする。チョコレートだ。お茶は学園長手ずから入れてくれたので、なんだか申し訳ない。

「いやーそれにしても私が君にあんな事を頼んでしまったばかりに。大事にならなくて本当によかったです」
「ん?」
「ん?ってミイラとりがミイラになっちゃったじゃないですか」
「…え?」
ミイラとりが、ミイラ…?なんのことだ?そもそも学園長に何か頼まれていたか?

うーん?と頭を捻っていると、学園長があぁもしかしてと呟いた。

「ロックウェールくん。私の目を見て頂けますか?」
「目?」

仮面の奥に光る、金色の、目。

「あぁやはり。強い衝撃を受けて直前の記憶が飛んでいるんですね。もう大丈夫です。私が戻して差し上げましょう」
「え。…ぅ、あ…?」

金の瞳の先に、意識が、引きずり込まれた。




「!」
私が見える。
ここは、私が落ちた階段…
…何か持ってる、書類?
階段を、下ろうとして、それで…

『っうわぁっ!?』
『リドル!危ないっ!』
『え?』
『ッ!!』
『…ぁ』

『ッ!...ろ、ロックウェール!大丈夫か!?』 

あぁ…!
そうだ!私はあの時、クローバーと落ちたんだ!!
それにあの書類!あれは学生一覧だ。
調べるのに使うからって、学園長にもらって…それで、

「あぁっ!!!」

そうだ…!マジフト大会有力選手傷害事件…!!私はそのヤマを追っていて、巻き込まれたのか!!なんで忘れてた!それに、さっきの記憶…!

「学生の記憶喪失も治してしまうなんて、私、有能な上に優しすぎませんか?」
「えぇ、有能で優しいですよ。…他にもいろいろ見えました」
「おや」

クローバーを見上げた時に、視界の端で、獣人の塊が見えた。というか周りにサバナクロー生が異様に多かった。あの階段は二年と三年の教室をつなぐ階段、食堂へ続く道でもないのに、昼休み、あの寮生の偏りはどう考えてもおかしい。絶対に何かある。

「学園長、ありがとうございます。私調べることができました」

作成途中のデータを保存し、パソコンを閉じる。もうすぐ昼休みになる。もし寮ぐるみのものだとしたら慎重に動かなくてはいけないけど、下級生にカマをかけることぐらい出来るだろう。ユウ達ももう動いてるかもしれない、はやる気持ちのまま、ベッドから立ち上がろうとして、
「いッ!!」
右足に激痛が走った。そうだった。捻っていたんだった。

「おや、これ結構腫れてますよ。昨日よく冷やさなかったでしょう」
「そういえば、固定はしたけど冷やさなかったような、」
「仕方ありませんねえ」

学園長はゆるんだ包帯を魔法でまき直し、さらに氷の魔法で局部を冷やしてくれた。

「…学園長って、優しいんですね」
「えぇ!私、とびきり優しいんです」




top


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -