海寮 | ナノ



V



翌日。
「珊瑚ちゃーーん!」
おそらく四人分の朝食が乗った大皿片手に、敬語が使えない方のリーチが扉を蹴りつけて入ってきた。
「おはよう昨日いっぱい血ぃ出たんだって大丈夫?頭稚魚になってない?」
「頭稚魚ってなんだ…今お前のせいで頭が痛いわ」
「昨日のラウンジの残りでサンドウィッチ作ったんだぁジェイド達も来るから一緒に食べよ、あ!机ちっさ!のりきらねーじゃん!」
「聞けよ」
なんでお前ら兄弟は私の話を聞かないんだ。
「フロイド!先に行くなと…あぁ、ロックウェールさんおはようございます。昨日は大変でしたね。お体の具合はいかがですか?」
「アズール、消費期限の近いスパークリングジュースを持ってきましたよ」
「あぁいいですね」
「珊瑚ちゃんこの机ちっせえから魔法で組み替えんね。ジェイド椅子たんねーんだけど」
「わかりました。アズールの私室から運んできましょう」
「なぜ僕の部屋からなんですか」
「近いからです」

なんだ、これは。
あれよあれよと整えられた朝食に、ラウンジの運営状況や報告、マジフト大会運営の経過など、モーニングミーティングが始まった。あーでもないこーでもないと、小難しい話がされるの中、用意されたサンドウィッチを食べる。
「...うま、」
パンに具材を挟むだけなのに、自分で作るのとなんでこんなに違うだろうな。このサラダもドレッシングから作ってるのか?うま…。ラウンジの新メニューの試食に呼ばれる時とかも思ってたけど、こいつらの料理、やっぱり美味しいな。
ラウンジの運営とかマジフト大会のこととか、アーシェングロットは寮運営に私が関わることを嫌う。だからたまにやって欲しいと頼まれることしかしていない。ミーティングも意見を求められることの方が少なく、ただ飯食いのようで少し嫌だが、いつもあの笑顔で押し切られるし、実際私が居なくても寮運営は円滑に進んでいる。
小難しい話が終わって、アーシェングロットは私を見た。
「本日は自室療養ですよね。お昼も何かお持ちします」
「え」
「リクエストはありますか?」
「い、いいよ。朝食もご馳走になってるのに。学校からわざわざ戻ってくるつもりか?」
「えぇ、そんなに手間ではありませんし」
「購買までだったらそんなに遠くないし、お昼くらい自分で、」
「僕としましては、」
少しだけ声を張り上げて、アーシェングロットは私を見つめる。
「我が副寮長の怪我が長引いて、ひいては寮全体の評価が下がる事を危惧しているのですが…」
「うっ」
「大人しく、ここにいて下さいますよね?」
「…わかったよ」
ただでさえお飾りの副寮長なのに、寮の評価が下がるとまで言われてしまえばうなずくしかない。アーシェングロットはものすごく笑顔だ。

「もちろん対価は頂きますよ。こちら、今度のマジフト大会の出店リストなんですが、去年あなたの作ったパンフレットの評判がよかったので、作成していだけますか?」
「…それはかまわないけど、それっていつまで?」
「明日です」
「は、」
「本当は昨日お伝えする予定だったのですが、あんなことがあったので…」
「いや、どっちにしろ急だな!というかまだ大会当日まで時間あるよな。そんな急ぎで欲しいのか?」
「早期入稿割引がありまして」
「……」
「昨年度のデータの上書きなら間に合うのではないかと」
「う、わぁ」
アーシェングロットはなんでもないように、きょとんとしている。こいつ、自分が優秀で仕事が速いからってそういうこと言うのか。いや、そういえばラウンジのメニューのデザインやった時も似たような無茶振りがあったな。応えちゃったからか。いやだって初めて副寮長として頼られた時だし、張り切っちゃったんだよな。
「…厳しいですか」
「え」
「うちの副寮長ならできると思ったのですが…」

わざとらしく肩を下ろし、瞼を伏せるアーシェングロット。
リーチ達はニヤニヤとこちらを見ていた。

「…わ、わかったよ」
「ありがとうございます!」
「珊瑚ちゃんチョロいねぇー」
「ふふふ」




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