海寮 | ナノ



III



翌日。
珍しくアーシェングロットが副寮長としての仕事をよこしたので、各副寮長を探す。普段の私はお飾りの副寮長だ。久しぶりの仕事なのでちゃんとするとしようか。まずは......、

鏡舎で、ある寮の鏡の前に立つ。
サッと身嗜みを整えて…髪の毛よし、寮服よし、メイクも崩れてない。いざポムフィオーレへ。
「ハント」
「やぁ!!透明の人トンスターホンじゃないか!」
「あら、珍しい子が来たわね。…ちょっとタイ、曲がってるわよ」
「…え、君に会うだろうからさっき直したのに。ハント副寮長、これ寮内に掲示よろしく」
「ウィ!任されたよ」
「ちょっと、身嗜みはアタシに会うから直すものじゃないでしょう」
「うっ、も、もう次に行くから、」
「こら!」
捕まったら二時間は拘束されると、ポムフィオーレの談話室を逃げ出した。

「…ッチ、ブッチ!」
「うわぁ!」
植物園で水やりのバイトをしているらしいラギー・ブッチに声を掛ければ、彼は驚いたように飛び上がった。
「ろ、ロックウェールさん相変わらず影薄いッスね…気づかなかったッス」
「...そう。これ、寮内に掲示してくれ」
「了解ッス」

そのあと大食堂で料理をしていたバイパーと、たまたま購買部に用があって外出していたヴァンルージュに出会って、残りはイグニハイドとハーツラビュルだ。シュラウドのところは今度教室で渡せばいいと思い、そもそも持ってきておらず、クローバーは実験室か図書館かと思っていたが、当てが外れた。直接ハーツ寮に行くか。

「あ!ロックウェールさん!」
「昨日のちっさい先輩じゃん」
「君たちは...」
もう一度鏡舎に向かえば、丁度ハーツ寮の鏡からユウ達が出てくるところだった。ユウは私を見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。
「なんでハーツ寮から...って、グリムと黒髪の子のソレ...」
「あ、実は...」
不貞腐れている三人を置いて、ユウは私に事のあらましを話し始めた。

「うわぁ...ものの見事に巻き込まれてるし...」
「あ、あははは…」
場所を鏡舎からオンボロ寮へ移し、私が以前差し入れたお茶をみんなで飲む。昨日私と別れた後からのことを聞いた。
「でもアンタだって流石にやりすぎだと思うだろ!?せっかくお詫びで作ったマロンタルトを捨てられたんだぜ!?」
「...まあ、副寮長すら覚えてなかったルールを新入生が把握してるわけないよな」
「だろだろ!?」
「でもだからってやり過ごすこともせず、全員で反抗して首輪つけられて追い出されるなんて…」
「「「うっ!!!」」」
エースとデュース(というらしい)とグリムは揃ってうなだれた。
だって納得いかねーんだもん、
逃げるなんて男らしくねえ...
そうなんだゾ...
そんな声がブツブツと聞こえる。こちらを気にしてないうちにと、ユウの袖を小さく引っ張った。
「ロックウェールさん?」
「…あの二人を泊めたって本当?」
「ぁ!えっと...だって、」
「リスクが高すぎる。いい、バレたらココには居られなくなってしまうんだよ。帰り方がわかるまで、ここを追い出される訳にはいかないの」
「は、はい…」
ユウはごめんなさいと本当に申し訳なさそうに項垂れる。
「でも、エース困ってたから、私でも力になれると思って…」
「…」
「私を助けてくれたロックウェールさんみたいに」
ユウは困ったようにはにかんだ。

「…ユウさん、君、」
「はい」
「お人好しって言われない?」
「どっちかっていうと猛獣使いって言われます…」




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