海寮 | ナノ



II



今日の授業が全て終わり、校舎は部活動に勤しむ生徒達の声で賑わしくなる。
私は部活に入っていない。理由としては関わりが増えてしまうと魔法薬の効きが悪くなるというのが一つ。純粋に気になる部活動がなかったのがもう一つ。あと、この世界の常識を知らない私は、授業についていけないことが多いので放課後は授業の予習復習にあてているから、というのもある。覚えるだけの魔法史は点数の取りやすい科目だが、如何せん常識がない。他の学生が中学校小学校で覚えたものを私は並行して覚えなければならない。
図書室で今日出た課題と向き合って、小さく伸びをする。
「…占星術がわからん」
指定した文献を読み該当する術を実際に発動しレポートにまとめよ。…わからない。指定された文献読んだし、該当する術もわかったけど発動しない。こういう場合はどうしたらいいんだろうな。みそっかす魔力は引っ込んでろってことか。
一昨年は前寮長が助けてくれたけど、今は助けてくれる人なんていない。こういうとき自分が意図して友人を作らなかったことを後悔する。仕方がない、真面目にやってますアピールで、先生に相談しよう。

「……」
魔力に向き不向きがあるとか知らんのだが??文献に書いてない裏技みたいな方法を先生に教えて頂き、無事発動したはいいものの、どうにも腑に落ちない。みっそかす魔力の限界が三年目にして起きてしまったのか。占星術の先生は苦笑いしながら、魔力増強薬の生成方法を教えてくれた。向いてなくても量があればなんとかなる場合が多いそうだ。そんな脳筋なことある?あぁわかったやってやる。もらったレシピはややこしいが、材料自体は実験室と植物園にありそうだ。見ていろ、魔法薬学は得意分野にしたんだ。
頑張れよと先生に言われ、教員室を後にしようとしたが、見たことのある首輪をつけた学生が目についた。
「先生!これ取れないんですか?」
「これじゃあ授業になりません!」
「bad boy!寮長の判断だろう。しばらくは魔力を使わず、脳味噌を使うから安心しろ仔犬ども。それまでに外してもらえ」
「そんな…」
「……」
今日はあの首輪をよく見るな。休み明けであの寮独自の規則違反が多かったのか。オクタヴィネルにあんな規則なくて本当に良かった。

リドル・ローズハートとは、彼が入学し一週間で寮長になったあと、少しだけ交流があった。当時二年寮長はマレウス・ドラコニアと私しかおらず、一年生寮長として君臨したローズハートは寮長の仕事でわからないことがあると私に聞いてきた。とはいっても彼は優秀で、私に聞くことなんて初めの一回くらいでほぼなく、当時副寮長のいなかった私を助けてくれることの方が多かった。アーシェングロットが寮長になった後はほぼ関わりがないが、当時私に語ったハートの女王の法律に対する熱意は変わっていないんだろう。
そういえばあのハートペイントのハーツ寮生は、ちゃんとローズハートに謝れたのだろうか。鼻っ柱の強そうな子だったから、面倒ごとに発展しないといいが…。ユウは、巻き込まれそうだな。





オクタヴィネルの自室で、ベットに腰掛けながら先ほど作った魔力増強薬を眺める。入れるものがなくて、普段コロンを入れている容器に入れた。うまくできたか試してみたいが、材料が足りず少量しかできなかったため、なんだかもったいない気がする。次の占星術の時まで取っておくか…。
そんなことを考えながらぼーっとしていると、コンコンとノックが一つ。私の自室にノックをする人なんて一人だけだ。どうぞと声をかければ、アーシェングロットが入ってくる。

「失礼します。ロックウェール副寮長、こちらの書類を各寮の副寮長に渡していただけませんか?あぁ、サバナクローはラギーさんで大丈夫です」
「わかった」
渡されたのは次のマジカルシフト大会の書類だった。
「先日寮長会議で配った書類に不備がありまして、その訂正版です。寮長たちにはその場で直して頂いたのですが、これは副寮長以下寮生に掲示する分です」
聞き流しながら書類をパラパラと数えていると部数が足りない。
「......アーシェングロット、一部足りない」
「え?そんな馬鹿な」
「私の分がない」
「あぁ、我がオクタヴィネルのことは、この僕がやりますのでご安心を」
「......」
胸に手を当て、胡散臭い笑顔でそういう。
「...まあ、寮長がそういうなら」
「えぇ!」
では僕はこれで、とアーシェングロットは踵を返そうとして、止まった。
「新しいコロンに変えるのですか?」
「え?」
アーシェングロットの視線の先には、先ほどの魔力増強薬があった。
「いつものコロンと色が違うようなので」
「あ、あぁ、これは、違う。入れ物がなくて。入ってるのは魔力増強薬だ」
「魔力増強、薬」
「試そうと思って持って帰ってきたが、材料の関係で少ししか作れなかったから、使うか悩んでいるところだ」
いつものは、こっち。と同じ瓶に入った魔法薬を見せる。
「魔力増強薬なんて何に使用されるのですか?」
「苦手な授業用に。私は魔力が少ないから」
「苦手科目、ですか。僕で良ければ、お手伝いしますよ」
「後輩に頼るのは、ちょっと」
「…そうですか」
アーシェングロットは少しだけ残念そうな顔をしたが、すぐにいつものスマイルを張り付ける。
「あぁそうだロックウェールさん。もしよろしければ、そのお使いのコロン、僕に譲っていただけませんか?対価は、そうですね、その魔力増強薬の材料などいかがでしょう」
「...前にも渡したじゃないか。もう使い切ってしまったのか?」
「えぇ、とても気に入っていまして」
「......」
以前もアーシェングロットは陸に上がってからコロンに凝っていると言って私のコロンを欲しがった。
「...わかった。譲れる分はないから少し時間をくれ」
「僕はその使いかけで構いませんが、」
「絶対に駄目」
「...そうですか」
では書類とコロンをお願いしますね、とアーシェングロットは私の部屋から出て行った。
「ふぅ...」
使いかけとか絶対に無理だ。前回だって、下手に断ると不自然だからと匂いが似るように作ったただのコロンだ。この魔法薬をそのままなんて絶対に渡せない。
購買部への納品分と一緒に、明日作るか…。




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