海寮 | ナノ



I



次の日の学校ではシャンデリアを壊した新入生として、ハーツラビュルの子達とワンセットでユウとグリムは一躍有名人になっていた。
「まあそうなるよな」
彼らと会うのは最低限にしないと私もボロが出る。気をつけよう。
今の時間は体力育成。私の隣でイデア・シュラウドが死んでいる。始業してから初めての体力育成ならそうなるよな。こいつ、いつも引き篭もってるし。
「シュラウド、生きてる?」
「ロ、ロックウェール氏、なんとか」
先生達は私の事情を知っているが、別に女だからといって融通はしない。むしろバルカス先生は筋肉が足りないと言って、追加メニューを課してくる。隣でへばっているこいつよりは体力はあるが、一般生徒並みの体力はあるつもりだが、足りないらしい。だが、魔法関係じゃなく純粋に体力勝負であるこの授業は、他の授業に比べると気が楽だ。
流れた汗を拭いて、すかさずコロンを吹きかける。清涼剤を入れるも考えようか。

「リタくん!イデアくん!」
「「げ」」
「人の顔見てひっどいなー。けーくん傷ついちゃう」
遠くから駆けてきたのはケイト・ダイヤモンド。
「ねーねー体力育成終わった記念にマジカメアップしたいから写真撮ろ?」
「ひぇ…陽キャ怖い陽キャ怖い」
「断る」
「えぇー!いいじゃんせっかく同じクラスになったんだし!」
「絶対にやだ」
「ロ、ロックウェール氏…!」
この時イデアは、自分がいつも捌けない陽キャに対し、目線も合わせず、なんならカメラに手を向けて自分を写さないよう対応しているロックウェールに感動していた。
ーーこの人、すごい…!!

「ちぇ、今日もダメかー」
「いい日なんて来ないから」

カメラはダメだ。魔法薬の効果があるのは対面のみ。映像として残ってはボロが出る。髪を短髪にしているとはいえ顔はどうやっても女顔。ポムフィオーレ寮の人たちには劣るが、ちゃんと女顔なのだ。薬の効果範囲から出たらばれる可能性が上がる。リリア・ヴァンルージュがいるから女性の平均身長である背だって、なんとかごまかせている。とにかく、カメラは絶対にダメだ。

「じゃあイデアくんだけでも撮ろー!!」
「ひぇえええ!!ロ、ロックウェール氏助けてくだされ!!!」

「……」
…このクラスで一年やっていけるのだろうか。




教室移動の際にシュラウドを捨て...ではなく、置いて、でもなく、残してきた私は、一人廊下を歩く。この調子でシュラウドを盾にダイヤモンドから逃げよう。

「待てー!グリムーー!!」
「俺様は面倒な授業なんて受けないんだゾーー!!」

そんなことを考えていると、後方から声がする。振り返れば、先方を走るグリムをユウとハーツ寮生二人が追いかけていた。...大人しくしていろと、言ったのに。

「あ!ロックウェールさん!グリムを、グリムを捕まえてくださいっ!!」
私を見つけたユウがそんなことを言う。

「…仕方がない」
マジカルペンを取り出して、こちらへ駆けてくるグリムの足元に小さい竜巻を作る。
「ふなっ!?」
竜巻に足を取られたグリムは私の目の前でステーーンと転んだ。軽く目をまわしているグリムの首根っこをつまみ上げ、ユウへと渡す。
「ありがとうございます!」
「...リードでもつけとくか」
「あはは...」
ユウはそれもいいかも、と小さくため息をついた。

「なあ、ユウ。こいつ知り合い?」

目元にハートとスペードのペイントを施したハーツ寮生が不思議そうにこちらを見てきた。
「うん。ロックウェールさん。オンボロ寮を一緒に綺麗にしてくれたんだ」
「へぇー」
「ロックウェールさん、二人は、」
「ハーツラビュルの一年生だろ、シャンデリアを壊した」
「ぐっ!」
「やっぱり一生言われるな俺たち...」
「あの、ロックウェールさん。エースの首輪外す方法を知りませんか?」
うなだれる二人の横で、ユウはおずおずとそう言ってくる。ハートのペイントの方に見たことのあるハートの首輪がかかっていた。
「...ローズハートのか。シャンデリア以外でなにやらかしたんだ?」
「それが聞いてくれよ!!ひでーんだぜ!」
ハートペイントは事のあらましを話し出した。


「...お前が悪い」
「えぇ!!!」
「さっさと謝って取ってもらうんだな」
「そ、そんな...」
聞けば、寮の冷蔵庫にあったタルトを食べてしまったそうだ。あそこはパーティに命をかけてる寮だ。魔力封じの首輪だけで済んで良かったと思うべきだな。
「とにかく君らはただでさえ目立っているのだから、これ以上問題を起こさないように」
だいぶ話し込んでしまい、もうすぐ授業が始まってしまう時間だ。
「さあ、早く教室に向いなさい」
「「「はーーい」」」
三種三様の返事をし、問題児達は教室へかけていった。




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