海寮 | ナノ



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「ふぅ…」
今日は散々な1日だった。
朝はアーシェングロットに捕まり、教室ではダイヤモンドに構い倒され、同じくクラスメートになったシュラウドには助けてくれと泣きつかれる。これだったら毎回身嗜みチェックのあったシェーンハイトの方がだいぶマシだった。

購買部に寄って、彼女の生活に必要不可欠なものを買う。サムさん、学園長につけておいてください。
「ヘイ小鬼ちゃん。在庫が少なくなってきたからまた納品してねー」
「おぉ!」
私の貴重な収入源。魔法薬を作っているところを見られた時に、自家製のコロンを売るつもりととっさにでたでまかせだったが、良い小遣い稼ぎになっている。男子校だし売れないと思っていたが、ポムフィオーレ生やハーツラビュル生などが買っていくらしい。こう、なんというか自分のものが売れるというのは自己肯定感が上がっていいな。


「あれ」
オンボロ寮に着いたが、二人の姿はなかった。まだ雑用係としての仕事があるのだろうか。まあ待っていればいずれ来るだろうと、談話室のソファに寝転んだ。

「……おそい」
自室でもないのにぐっすり寝こけるなんてできるはずもなく、仕方ないから昨日やり残した屋根の修理やら、キッチンの整備やらを全て終わらせたにも関わらず、二人は戻ってこなかった。お腹が空いたから夕食を大食堂に食べにも行ったのに…。そういえば食堂のシャンデリアを新入生が壊したって騒ぎになっていたな。
…まさか。
いや、あの子たちは新入生じゃないし、流石に違うだろう。


さらに夜が更けると、ようやく二人が帰ってきた。
「あ!!ロックウェールさん!」
「聞くんだゾ!!すごいんだゾ!!!」
二人はソファに座る私を見つけると興奮冷めやらぬテンションで私のそばにきた。

「…その前に、君たちこんな時間までどこでなにを?」
「「あっ」」

少し薄汚れた様子の二人は、ようやく私がこんな時間に一人でオンボロ寮で待っていたという事実に気づいたようだった。


「ふぅぅぅ…」
二人の話を聞いて長いため息が出た。
「要するに、ハーツの新入生とグレート・セブンの銅像を汚し、しかもその後大食堂のシャンデリアを壊して、弁償できないから壊れた魔法石を取りに行って、大きな怪物と戦ったと…」
「は、はい」
「で、でもそのおかげで、オレとユウは新入生になれたんだゾ!!」
「…二人でワンセットのね」
グリムの首には紫色の魔法石が光っている。
「学園長がグリム用に特製の首輪を作ってくれたんです」
「かっけぇだろー!」
えっへんと胸を張っている様子を見ていると、自分が何で不機嫌になっていたか馬鹿らしくなってくる。どうして大人しくできないんだろうこの子達は。昨日の今日なのに騒ぎが大きすぎる。ふぅ…。
「…制服とかもらえたの?」
「はい!」
「とりあえず、二人共入学おめでとう。君たちただでさえ目立つんだから、くれぐれも大人しく過ごすように。女だって一般生徒にバレたら二人とも退学になってしまうよ」
「そ、それはダメなんだゾ!!」
「だから、気をつけるように」
はいこれ、とユウに魔法薬と生活必需品を渡す。
「生活必需品は購買部で学園長につけて購入すればいいから。魔法薬はなくなりそうな頃に届けにくるよ」
「はい。ありがとうございます」
おやすみ、と告げてオンボロ寮を後にした。



「げ」
鏡舎に行くと鏡の前にアーシェングロットが居た。なんてデジャビュ。
「げ、とは何ですか。げとは」
「寮長、どうしたんだこんな夜更に」
「それはこちらのセリフです。昨晩も今晩も、こんな時間までどちらに?」
「学園長の用事だよ」
「その用事とは?」
「朝話しただろう。忙しい寮長に話すようなことじゃない」
「いつも早くに休まれる我が寮の副寮長が、二晩続けて外出するなんて、異常です」
「もう用事は終わったからいつも通り早く寝るさ」
「ロックウェールさん!」
アーシェングロットの横を通り過ぎて鏡に入り、話を切り上げた。
「待ってください!!」
「……」
し、しつこい。でもグリムとユウの世話をしてたなんて話したら、絶対に彼らからボロが出る。あと2年。いまだ元の世界に戻る手がかりがない以上、私はまだこの学園に置いてもらわないと困るんだ。
「アーシェングロット!」
「!」
「学園長に口止めされてて言えないから、気になるなら学園長に聞いてくれ!!」
ごめん学園長。なんとかごまかしてくれ。
私はアーシェングロットを振り切って自室に飛び込んだ。




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