海寮 | ナノ



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「ふあ…」
流石に眠い。この寮服は掃除には向かないな。動きにくくて、変な筋肉を使った気がする。少し汚れたから式典服と一緒に洗濯に出してしまおう。そんな事を考えながらオンボロ寮から鏡舎に向かう。
「ロックウェールさん!!」
「え?」
鏡舎の鏡の前には、なぜかアーシェングロットがいた。
「こんな時間までどちらにいらっしゃったんですか?!」
すごい形相で私に詰め寄る彼は、どうやらずっとここで待っていたらしい。
「が、学園長の用事だと寮生に伝えたが、」
「聞きました。ですが、いくらなんでも遅すぎる…」
「………」
変なやつだ。私は新入生じゃないし、何を気にしているのやら。

「…あなたは、いつの間にか見えなくなってしまうから、」
私の肩に手を置いて、彼は項垂れながら小さくそう呟いた。

「…副寮長として模範的じゃなかったか?」
名前ばかりとはいえ副寮長だ、連絡したとは言えど、自由に動きすぎたのか?そういう事かと、少し上にあるアーシェングロットの顔を見上げる。
「………」
「…アーシェングロット?」
「…いえ、」
すると、にっこりといつもの胡散臭い笑顔を浮かべた。
「学園長の用事をこんな夜遅くにこなすなんて、さすがは我がオクタヴィネルの副寮長です!!」
「え。あ、あぁ…」
「さぁ!お疲れでしょう。ジェイドにカモミールティーを入れてもらいましょう」
さぁ!さぁ!とぐいぐい背中を押され、寮の鏡をくぐった。





「ふあ…」
朝食は散々だった。
昨晩、歓迎会の喧騒が形を潜めたモストロラウンジで、リーチの片割れが入れたお茶を飲みながら何か聞かれると思っていたが、一緒に茶を飲んだだけで何もなかった。気にしないでくれたのかと部屋に戻ったが、翌朝部屋から出るとにっこりと笑ったアーシェングロットが待ち構えていた。
朝食を一緒に取りませんか。有無を言わせずである。
いつもなら食堂でとるところを、モストロラウンジにてアーシェングロットとリーチ兄弟に囲まれて食べた。
『昨日の学園長の用事は何だったのですか?』
『他愛もない雑用だよ』
『それにしては随分時間が掛かったようですが、ご相談していただければ僕らも手伝いますよ』
『忙しい寮長に話す内容じゃない』
朝食はリーチ兄弟が作ってくれたものらしいが、全く味わえなかった。このままでは登校も一緒になりそうだったので朝から準備するものがあるからと適当言って別れた。変な緊張から解放されたのと昨日の寝不足も相まって欠伸が止まらない。今日の魔法史の授業は注意しなければ…。



あの魔法薬は前寮長の特製だ。
クルーウェル先生の変身薬から作ったのは初めのものだけで、そのあとはより手軽に、より私に合うように前寮長が生成してくれた。この世界の常識がない私に、自分で生成できるよう懇切丁寧に教えてくれたことは本当に感謝しかない。ただ顔は怖かった。

せっかく朝早く来たのだから、この際放課後にやろうと思っていた魔法薬を制作をしてしまおうか。私の事情を知っている先生方から預かっている鍵を使って、実験室に入る。
魔法薬は使用する材料で大体の効果がわかる。この魔法薬の欠点は、そういう効果のある魔法薬を使用していると認知されると効果が薄くなること。だからこの魔法薬の生成はいつもこっそりやっている。
私と全く同じものだと効果が強すぎるし、鼻の効く獣人たちに気付かれてしまうかもしれない。ただでさえキングスカラーには嫌な目で見られてる。
「...いい感じ」
魔法薬学は好きだ。自分の境遇に必要不可欠なものというのもあるが、手順通りにすればあまり失敗しないし、魔力などのファンタジー要素がそこまで関わってこない。逆に苦手なのは飛行術や、実戦魔法といったもの。魔力の量や質がモロに出る。ユウとは違い魔力があったとはいえ、みそっかすみたいなものなのだ。たまたまユニーク魔法が発現してくれてよかったものの、私の通常魔法は水鉄砲とチャッカマンと扇風機だ。少し生活が豊かになったね。
…自虐はここまでにして、できた魔法薬を小瓶に移す。自室用と携帯用、これからは二人分か。まあ材料は学園長からもらってるものだし、調合は一人分も二人分も変わらないからそんなに手間は変わらないな。

「あれ、ロックウェール」
鞄に魔法薬を詰め込んだところで、薬室の扉が開いた。
「…クローバーか。おはよう」
「おはよう。薬室が開いてたから誰かと思ったら君だったのか。いつものコロンか?」
「あぁ」
「いつもせいが出るな。この調子でサイエンス部に入らないか?」
「入らない」
せっかくだから一緒に教室に向かおうと言われ、断るのも不自然だから一緒に行くことに。他愛のない、当たり障りのない話をしていると、
「そういえばクラスはどこになったんだ?俺はEだ」
「Bだった」
「Bか、じゃあケイトと同じだな」

足が止まった。

「…ん?どうした?」
「…ケイト、ダイヤモンドと、同じ?」
「あ、あぁ」
「…お、終わった…」
さようなら私の平穏。なんてことだ。2年で寮長になったあたりから何故か構われ、授業が同じになるたびに一緒に写真を撮ろう、マジカメやろう、と誘われる。撒くのにいつも苦労してたのに、同じクラスだと…!!
「あーケイトはいいやつだぞ?」
クローバーは困ったように笑っていた。




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