海寮 | ナノ



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激動の入学式を終えて、寮長が寮の説明をした後はモスロウラウンジで新入生歓迎会だ。名前だけの副寮長だが、ちゃんと出ないとリーチ達に連行されるのは目に見えている。あいつらには私が小人に見えるらしい。
自室に戻り式典服から寮服に着替え、モストロラウンジへ向かう。寮長であるアーシェングロットの挨拶と副寮長の私の紹介をして新歓が始まった。どこの寮も今日は歓迎会だろう。スカラビアなんかは盛大な宴をやるだろうな。
会場の端の壁で初めに配られるドリンクをちびちびと飲んでいると、ポケットに入れた携帯が震えた。前寮長があると便利だしと言ってくれたお古だ。三世代くらい前の型らしく、前にダイヤモンドには目をひん剥かれた。パカパカしてカッコいいだろ。昔からガラケー派だったんだ。
「...学園長から?」
電話に出れば相談があるから学校に来て欲しいとのことだった。学園長の頼みであれば断れない。もう新歓もだいぶ終盤だ。そんなに時間もかからないだろうしと、近くにいた寮生に学園長の用事で出かけると告げてオクタヴィネル寮をあとにした。

「あぁ!!ロックウェール君、待っていましたよ」
鏡舎から出ると学園長が待ち構えていた。
こちらですと案内されたのは、学園の端にある廃墟。
「オンボロ寮です」
「オンボロ寮」
見たまんまだ。いや寮としては機能してないんじゃないか?
中に通されると、先ほどの新入生と追い出されたはずの小動物がいた。

「こちらはユウさん。あなたと同じ境遇の方ですよ」
「......は?」




「なるほど。では私と同じく学園長の好意で元の世界への帰り方が分かるまで、学園の雑用係として置いてくれると」
「はい。私、とっても優しいので!」
「二年かかってまだ見つかって無いですけどね」
「うっ!!」

どうやら私と同じ世界から飛ばされたらしいユウさん。学園長は、このオンボロ寮に住み着いていたゴーストを小動物…グリムと共に撃退した功績を認め、学園の雑用係として雇うことにしたらしい。
「ですが、ここは男子校。雑用係といえど、うら若き女性が滞在するのはと…」
「なるほど。だから私なんですね」
「えぇ!そうです」

「「?」」
ユウとグリムは二人揃って首を傾げている。

「私も女なんだよ、ユウさん」
「「え、えぇッ!!!」」

うん。いい反応だ。魔法薬がちゃんと効いている。

「私も二年前にこの世界に飛ばされて、たまたま魔力があったから学生としておいてもらってるんだ」
胸元から予備の香水瓶を取り出してプシューとユウに吹き付ける。
「わっ!!」
「この魔法薬は他人の認識とか、注意とかを逸らしてくれるもの」
「? 何が変わったんだゾ?」
グリムはユウの周りをくるくると回り、匂いを嗅ぐように鼻をひくひくとさせた。
「手品とかってタネを知っていると、気にして見ちゃうだろう?それと一緒さ。グリムは私とユウさんがそういう薬を使っていることを知っている。だから効かないんだよ」
「はぁー、なるほどなんだゾ」
「とりあえず今日はこれをあげるから、朝夜の二回吹き付けるように」
「は、はい」
「水被ったり、汗をすごくかいたりすると効果が薄くなるから吹き付けなおして」
香水の使い方をレクチャーし、明日一週間分渡しに来ると告げる。

「何か生活で困ったことがあれば、ロックウェール君に相談するといいですよ」
「…それは構いませんが、ちゃんと私とユウさんの世界へ戻る方法も探してくださいよ」
「も、もちろんですよ!私、とっても優しいですから」
では私はこれで!と学園長はそそくさとオンボロ寮から出ていった。
「ふぅ…そうしたら私も、」
と言いかけ、今いる談話室であろう部屋を見渡した。あちこち雨漏りし、隙間風も入ってくる。
…どこで寝るんだ、この子。いくら魔力がなく寮が決まらなかったとはいえ、学園長ももう少しマシな場所を提供してあげてもいいだろうに。
こちらを見つめるユウとグリムを交互に見つめた。
「掃除、しようか」


「ふなー!!!もう眠いんだゾ!!」
「グリムーーー!!」
持っていた雑巾を放り投げ、グリムは多少綺麗になった床に寝転んだ。魔法でどうこうしようにも元がオンボロすぎて崩れそうなため、二人と一匹で雑巾と箒を使い片付けていた。
「…まあさっきよりは寝れるかな」
仕上げにマジカルペンを取り出す。ふわりと風を吹かせ淀んだ空気を換気し、干したばかりのシーツを炎で乾かして、暖炉に火を灯す。
「残りは明日、放課後にやろう」
「は、はい。ありがとうございます!」
「お風呂とかあるのかな」
「あ、あっちにありました」
「使えそう?」
「試してみます」
床に寝転んでそのままぐーすか寝息を立てはじめたグリムをつまみ上げ、談話室のソファに寝かせる。
「ロックウェールさーん!お風呂使えませんでしたーーー!!」
「…水は出るかな」
どうやらまだまだ帰れそうにない。

「ガスが通ってればいいのにな」
「本当ですね…」
「水道インフラが整ったのも割と最近らしいよ」
「わーそうなんですね」
二人して生活インフラが整っていた元の世界に想いを馳せて遠い目になる。
「とりあえず炎の妖精さんに呼び掛けたら奇跡的に応えてくれたから使えるね」
「はい、ありがとうございます」
「シャンプーとか諸々は明日薬と一緒に持ってこよう。私と同じのでいいだろう」
「何から何までありがとうございます」
とりあえず今日できることはやった。もう深夜だ。
「それじゃあまた明日」
「あ、あの、どうして、こんなによくしてくれるんですか?」
帰る直前、ユウは私にそう言ってきた。
あぁその疑問は、なんだか懐かしい。

「私も、助けてもらったから。
海の魔女の慈悲の精神にのっとってね」




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