ナイフ | ナノ


VI



「ごちそうさまでした」
「おう!ありがとよ」

手に入れた特上寿司。明るい店主と話をしたら気前よく数貫ご馳走してくれた。うまい。寿司なんていつぶりだろう。

悠々と店を出れば、茶髪の少年とぶつかった。

「あ、すいません」
「いやこちらこそ…ってえええぇ!?ヴァリアー!?なんで此処に!?」

え。誰だっけ。

「ちゃおっす。お前、ザンザスの後ろにいた奴だな」

あ。赤ん坊。ああ成る程。この少年、10代目候補か。確か、名前は…

「これは沢田綱吉殿に、リボーン殿。先の試合、晴の指輪獲得おめでとうございます」
「当たり前だぞ」
「意外と悠長に会話してるー!?」
「此処には何しに来たんだ?」
「寿司屋に寿司を買いに来る以外することなんてありませんよ」
「な、なんだ…山本が狙いじゃないのか」

山本…?ああ、確か雨の。え。此処その実家なの?

「ただのお使いです。ではお二方、私は失礼します」
「待て」

カチャと言う聞き慣れた金属音に振り返れば、赤ん坊の手には似合わない黒い塊が握られている。

「ちょ、リボーン!!」
「他の幹部の奴らは何となくわかってんだ。だが、お前と、あのモスカとか言う奴がわからねぇ。お前に至っては名前すら出て来なかった。何者だ?」

まあ一ヶ月前に別世界から飛んできたんだから何も出なくて当然だろ。モスカは私もわからない。私が来たときには居たし。

「私は幹部ではありませんから警戒する必要なんて無いでしょう。戦いませんし、戦えません。ただの雑用係ですから」
「暗殺部隊ヴァリアーにただの雑用係がいるわけねぇだろ」

それがいるんだなーこれが。

「居ますよ此処に」
「話にならねぇな」
「ではもう宜しいですか?」
「よくねぇ」

おい。移動時間考えてあと五分が限界だ。わかってんだろうな、赤ん坊め。

「お前、歳は」
「17です」
「まさかの高二ー!?」
「いつからヴァリアーにいるんだ」
「気づいたら、ですかね」
「気がついたら暗殺者ー!?」

…なんだこの少年、ツッコミ体質か?リズミカルだな。

「そんなに私のことが気になりますか」
「お前みたいな若い女がヴァリアーに居るのが意外なんだ」
「そうでしょうか。私としては赤ん坊が銃を持っている方が意外ですが」
「俺は別だぞ」
「それに10代目候補もまだ若いでしょう。同じマフィアなんですから別段変わったことでもありませんよ」
「で、でも、俺は一般人だし…やっぱり変ですよ。俺と三つしか変わんない人が暗殺者とか」

…え。一般人なの?だって10代目候補って言ってるのに?

「一般人ではないでしょう。その指輪を持っているんですし」
「こ、これは、無理矢理というか…」
「では、なりたくないんですか、10代目」
「…俺はこの戦いで、誰も失いたくないだけなんだ」

少年は決意するように拳を握りしめる。…仲間を守るために戦う、ってことか。

「沢田殿は、綺麗ですね」
「え、」
「真っ直ぐで、汚れていない、とても綺麗です」

私も一ヶ月前までは周りの心配をしていた。でも今は、自分のことで手一杯だ。生きるために、死なないために、泥水をすってでも生き抜こうとしてる。ずっと私は一般人だと思ってたけど、思想はもうヴァリアーに犯され闇に堕ちていたみたいだ。私は最早裏の人間、きっと戻れない。というか元の世界に戻らない限り戻れないだろう。逆に元の世界に戻れたら、戻りたい。私はまだ、その余地を残してる。

「それってどういう、」
「そのままですよ。では沢田殿、リボーン殿。これにて失礼します」
「おい、まだ終わってねぇぞ」
「勘弁してくださいリボーン殿。これ以上遅くなれば死んでしまいますから」

ちょうど通り掛かったタクシーを呼び止める。最後にもう一度会釈をすれば、少年と目が合った。

「あの!名前は、」
「…真鶴ゆきと申します」

ああ遅くなってしまった。運転手さん、とばしてください。

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