ナイフ | ナノ


×暗殺教室+10



それは綺麗な満月の夜のこと。

ザンザスの晩酌に付き合っていたら、いきなり月が欠けた。

「…三日月、?」
「満月つったのはてめぇだ」
「そうですが、今は三日月になってます」
「あぁ?」

ザンザスも一緒に空を見上げ、その雲一つない夜空に浮かぶ三日月を見上げた。




それからしばらくして。
私は何故かスーツを身につけ日本の中学校で教鞭を取っていた。担当科目は家庭医学。と言ってもほとんど担任であるあの先生が教えてしまうから、ほぼ医務室に篭りきりで担任や同僚である烏間先生のサポートが主な仕事になっている。

「おはようございます、真鶴先生」
「ああ…おはようございます。先生」

私の職場になっている医務室に現れたのは噂の担任。丸い頭に無数の触手、機嫌で色が変わる皮膚…勿論、人間じゃない。最高速度はマッハ20、切られてもすぐに再生される触手…これが今回の私のターゲットとか笑えない。殺せる気がしない。

「どうかしましたか?」
「いやぁ…ちょっと頭痛がしまして」
「…頭痛薬でも、って駄目ですね」
「はい。薬は効かないんです」
「まぁ原因は栄養失調だと思うので、私のお弁当をどうぞ」
「にゃあ!?い、いや駄目ですよそれは!!」
「…では午後の授業に差し支えが出てもよろしいんですか?」
「そ、それは…」
「ならどうぞ」

半ば無理矢理自分の弁当を押し付けた。…月を三日月にする力を持ちながら、この先生は学校からの給料で生活をやりくりしてる。給料日近くになるとお金がないらしくまともなご飯が食べられていない様だ。地球を爆破する生物が栄養失調で頭痛…こちらが頭痛になりそうだ。

「ヌフフ…やはり真鶴先生はやさしいですねぇ」
「養護教諭ですから」

心にもないことを言って、彼を医務室から送り出した。

イタリアの誇る最強の暗殺部隊、ボンゴレファミリーのヴァリアー。そこに一つの暗殺依頼が来た。月を三日月にした張本人の暗殺…そんなわけのわからない奴を標的とした任務に幹部が着くはずもなく…しかも教師兼任の為、何故か最弱幹部として誉れ高い私が行くことになった。約1年の長期任務だ。…1年もあの屋敷を留守にするなんて恐ろしいことこの上ないが、仕方ない。任務は任務だ。




『防衛庁の烏間惟臣だ。向こうでは体育を担当する』
『初めまして、真鶴ゆきと申します。担当、ですか…そうですね。一通り何でも出来ますので、烏間殿の…いや、烏間先生のサポートをさせて頂きます』
『そうか、助かる。これからよろしく頼む』
『はい、よろしくお願いします』

差し出しだした手を握り返し、そいつは俺に頭を下げた。

イタリアからの選抜で送り付けられた刺客、そんなことを聞いていたからゴツい外人でもくるのかと思っていたら、俺より少し下くらいの日本人だった。それも、女。物腰柔らかで、到底プロには見えなかった。

椚ヶ丘中学で理事長に挨拶を済ませる。

『綺麗な学校なんですね』
『ここはな。俺達が行くE組は旧校舎だ』
『旧校舎、ですか』
『ああ、あそこに見えるだろ?』
『…山の上ですか。随分な差別ですね』
『国家機密を守る上では好都合だがな』
『そうですね』

真鶴は苦笑して俺の後に続いた。

旧校舎に行くと、ハンディキャップ暗殺大会なるものが開催されていた。

『どう渚』
『うん…完璧にナメられてる』

くっ…これはもはや暗殺と呼べるのかッ!

隣の真鶴も苦笑しているだろうと見れば、真鶴は鋭い眼差しでヤツを見ていた。

『…あれがターゲットですか』
『あ、あぁ…』

不覚にも一瞬のまれてしまった。

『あれ?烏間さん、この人は?』
『私は明日からここの教師になる真鶴ゆきと申します。明日また説明するのでよろしくね』
『新しい先生なんだ』

その雰囲気も一瞬だけで、潮田に話し掛けられた真鶴は元の雰囲気に戻った。…なんなんだ、殺気とはまた違う何かだ。やはりこの女もただ者ではないらしい。


『烏間先生に、真鶴先生ですか。よろしくお願いします』
『…よろしくするつもりはないがな』
『まあまあ烏間先生。殺先生よろしくお願いします』

奴への紹介をそこそこに、職員室で茶をすする。

『体育は烏間先生が、他の教科は全て殺先生が担当するとなると…やはり私はお二人のサポートでしょうか』
『そうなりますねぇ』
『…まぁ見た所養護教諭が居ないようなので、私のことは養護教諭ということにしましょう。多少の医学知識はありますので。それで構いませんか?』
『ああ』
『はい、生徒の安全が大事ですからねぇ。明日からよろしくお願いします』
『こちらこそ』

奴が授業に戻ると真鶴は少し笑い出した。何が可笑しいと尋ねれば、真鶴は笑うのやめて答えた。

『いや、本当に先生をしているんだなぁと思いまして』
『…何故だかは謎だが、真面目にやっているな』
『不思議ですね』

そう言って真鶴はすでにぬるくなっているであろうお茶を飲み干した。




私の授業は簡単な医学。日常に転がっている間違った医学知識を正すものだ。受験生である彼等には必要のないものだから、授業自体も週一しかない。

「…というわけでむやみやたらに冷やしても悪化するので気をつけましょう」
「「「はーい」」」

キリよく終わった。しかし時計を見れば、まだ15分もある。どうしようかと悩んでいれば、一番後ろの赤羽が手をあげた。

「ねー真鶴せんせー」

彼はこの間休学から復帰した赤羽業。不意打ちで標的の触手を一本もいだ子だ。

「何?赤羽君」
「烏間先生はわかるんだけどさー真鶴先生は何なの?」

直球だった。

「君達と同じ暗殺者ですよ」
「でもまだ仕掛けてないんでしょ?」
「えぇまあ。烏間先生に言うと怒られますが、急いでも仕方ないですし。私は私のペースでやりますよ」

1年間、ヴァリアーの屋敷を離れることになってる。あのターゲットを殺せば直ぐにでも帰れるが…マッハ20のターゲットを殺せる実力は、残念ながら私にはない。初めて見た時にそれは悟ってしまった。だからといって任務放棄は出来ないから機会を伺うことに重点をおいている。

「じゃあ烏間先生とどっちが強いの?」
「おいカルマー。そんなの烏間に決まってんだろ」
「そうだよね、真鶴先生おっとりしてるし」

烏間先生と私か。…どっちが強いと言われたら勿論、

「私ですよ」

「え」
「…へぇ、自信あるんだ」

「烏間先生は確かに手練ですが、それでも表舞台の方ですからね」

それにいくら体術がすぐれていても、旧時代の戦い方では私には勝てないのだから。





「…新しい先生ですか」
「あぁ。国からの要請でな」

特にすることもないので医務室にてパソコンに送られて来るヴァリアーの事務を片付けていたら烏間先生がやって来た。

「各国で11件の実績がある奴だそうだ」
「…11件、ですか」

あまり多いとは言えない。

「あぁ。名前はイリーナ=イェラビッチ」
「あー最近売り出し中の」
「…知ってるのか」
「まあ同業者ですし。確か潜入と接近が得意な方ですよね。確かデータが、…ありました」

カタカタとキーボードを打って、目的のページを広げる。この人ですね、と烏間先生に見せれば、彼は眉間にシワを寄せた。

「…なんでそういうデータが直ぐに出て来るんだ」
「同業者ですから」
「…そうは見えないんだがな」

はぁ…と烏間先生はため息をつく。

「それで、しばらくはこの人に一任ということですか?」
「ああ。だが俺としては生徒達の安全も見なくてはならないからな、真鶴も気にかけてくれ」
「わかりました」



そうして5月の頭。英会話講師、イリーナ=イェラビッチがやって来た。

「…まさか色仕掛けが通じるとは思わなかったわ」
「…ああ、俺も予想外だ」
「デレデレでしたね」

イリーナ=イェラビッチはデータ通りの人物だった。十ヶ国以上の語学力には七ヶ国である私も尊敬するし、さらに美貌が凄い。美人さんだ。

「だが、ただの殺し屋を学校で雇うのは問題だ。表向きの為教師の仕事もやってもらうぞ」
「…あぁ、別に良いけど」

でも、

「私はプロよ。授業なんてやる間もなく仕事は終わるわ」

同業者としては、あまり評価は出来ない。外に駆けて行ったイリーナ先生を見てそう思った。

「自分でプロって言っちゃう辺り、底が見えるというかなんというか」
「…随分手厳しいな」
「あの人に殺せるなら私がもう殺してますからね。実力は確かにあるんでしょうけど、焦ってるというか、自身の力を過信し過ぎてるというか。…目先のことにのまれてるんでしょうかね」

外を見れば、ゴツい男が3人居た。…正直、弱そう。



『…今日の5時間目だそうだ』
『そうですか』

医務室でカタカタとパソコンに何やら打ち込んでいる真鶴にそう告げたのは昼休み。気になるので体育の授業を見学ついでに顔出しますと言っていた。

「…こっちですよ!殺せんせー!」

奴を見れば、イリーナに連れられ倉庫に向かっている所だった。

「…なーんかガッカリだな殺せんせー。あんな見え見えの女に引っ掛かって」
「………」
「…烏間先生。私達…あの女の事好きになれません」

あからさまな見下しをされれば好きになれる筈もないだろう。第一、イリーナは俺や真鶴も見下してる節がある。

「…すまない。プロの彼女に一任しろとの国の指示でな。…だが、わずか1日で全ての準備を整える手際…殺し屋として一流なのは確かだろう」

「そうでしょうか」

俺がそういうと冷ややかな声が響く。見れば、真鶴が校舎からこちらに歩いていた。

「真鶴」
「真鶴先生」

「下準備がいくら早くても失敗したら水の泡ですよ」

俺達の近くまで来た真鶴は奴とイリーナが入った倉庫を見る。

「…あの中、2人を除いて3人。気配を消せてないし、殺気が漏れてますね。イリーナ先生は消せてるとして他の3人の殺気はバレバレでしょうね」

さらっと出た言葉に、俺と生徒たちは固まった。

「…真鶴、わかるのか?」
「まぁ気配駄々漏れですし」
「こんなに離れてるのに、ですか?」
「あれだけ殺気立ってると、まあわかりますね」

「「「………」」」

やはりこの女もただ者ではない。普段おっとりしているが、この女も相当の手練なんだろう。生徒たちと心が一つになった気がした。

「あ」

そして、けたたましい銃声が鳴り響く。そしてイリーナの叫び声が聞こえてきた。

「終わったようですね」
「あぁ…」

すると真鶴は興味が無くなったのか、クルッと校舎の方へ踵を返す。

「…私も一度、仕掛けてみます」
「! あ、あぁ」

ぼそっと聞こえたその声に、思わず冷や汗が流れた。…この女の本気、それはどれ程なのか。少し楽しみになってる俺が居た。






それから数日後。イリーナもクラスに溶け込み、俺や真鶴ともそれなりな関係になった修学旅行直前の5時間目。

「…ヌフフ、当たりませんねー」
「くっそ!!」

今日は体育の授業で実戦だ。奴は生徒たちのナイフをかわす。…ヒラヒラと避けて、相変わらずむかつく奴だ。

ため息を着くと、同時にどこからか銃声が鳴り響く。

「っ!!」

奴を見れば、体をのけ反り弾を避けているが…よく見ると一部体が溶けていた。かすったのか。

そんなことを考えた瞬間、奴の触手が弾き飛ぶ。

「なっ!」

狙われたのは頭だが、触手で庇ったんだろう。そしてその斬撃をくらわしたそいつは、そのまま奴の体に蹴りを叩きこんだ。

奴が距離を取ると、そいつはその場で手を挙げ奴の方へ振り下げる。

「突撃」

するとどこからともなく現れた大量のカラスが奴に特攻し、そして

パチンッ

「爆破」

そいつの指の合図でそのカラス達は一斉に爆破した。

「なっ!!」
「きゃっ!!」

爆発の中心。煙が立ち込めるそこを見るが、爆破させた本人は眉をひそめ、そして校舎の屋根を見る。俺や生徒たちもつられて見ると、

「殺せんせー!!」

ボロボロの服を着た奴が、そこに居た。

「何!?何の音!?」

何やら慌てたイリーナが校舎から飛び出して来たが、俺達はそれどころではない。

「…見事ですねぇ、真鶴先生」
「その割りには余裕そうですが」

対奴用のナイフを腰に仕舞い、真鶴は平然と答える。肩には一羽のカラスが乗っていた。

「…朝頂いたお弁当には、もしや何か、」
「薬は効かないと知ってたんですが、麻酔系なら少しは効くみたいですね。まぁ…あの量は人間にしては致死量なんですが」
「…自然過ぎて気づきませんでした」
「ご謙遜を」

真鶴はそう言って小さな箱を取り出した。そしてその箱に肩に乗ったカラスが吸い込まれる。

「…手品か?」
「そんなとこです」

完全に戦闘態勢を崩した真鶴に、奴も屋根から降りてきた。

「真鶴先生」
「なんでしょう」
「改めてお名前をお聞きしても?」

奴がそういうと真鶴は少し笑い、背筋を伸ばす。

「私はイタリアンマフィア、ボンゴレファミリー特殊暗殺部隊ヴァリアー所属、雲の幹部、真鶴ゆきと申します。改めましてよろしくお願いします」

そして俺達に仰々しく頭を下げた。



−−−
自己紹介で終わらせようとは思ってた。完全なる自己満足!楽しかった。

↓以下余談。


「マフィア…」
「…ボンゴレってあさり?」
「暗殺部隊って」

あまりに現実離れした話に、俺や生徒たちは困惑したが…唯一イリーナだけが、目を見開いて固まっていた。

「ヴ、ヴァリアー…ですって!?」
「知ってるのかイリーナ」
「知ってるわよ!!ていうかなんで烏間知らないの!?」
「そ、そんなに有名なのか、」
「あんたね!雇ってるならそいつの身元くらい調べなさいよ!!ボンゴレファミリーって言ったらマフィアの中で最も大きなマフィア、その中でもヴァリアーは殺しのエリート中のエリート!!成功率90%を誇る最強の暗殺部隊よ!」
「なっ」
「しかもあの女、幹部でしょう!?6人いる幹部は並外れた身体能力を持つことで恐れられてるんだから!!」

「まぁ私はその幹部の中でも最弱なんですけどね。あと私のことは調べなくて正解ですよ、下手したら消されるので」
「「んなっ!!」」


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