ナイフ | ナノ


子守狼3



どんなに明るくても、どんなに度胸があっても…寝るときはいつも子供だった。

私の寝る時間は午前2時。それまでに全ての仕事を終わらせる。だから一緒に寝るルカは必然的に先に寝ることになる。最低でも9時には寝かせないと教育上よくない。まあどっかの王子は8歳のときにはもう人殺しだったみたいだが。

午前2時。疲れてベッドに入ると、必ずシーツが濡れている。そしてその原因は必ず、小さな声で両親を求めてた。ママ、パパ…と縋るような小さい声。そっと頭を撫でれば表情は少し和らいだ。

思えば私も天涯孤独だった。

勝手に世界を飛んで、いきなり暗殺部隊に迷い込んだ。悲しむ暇もないくらい死にそうな職場だったが、夜はこんな風に泣いていた。…どうして自分がこんなめに。そんな答えの出ない問いをずっと頭でまわしてた。

それを考えなくなったのはいつからだったか。

ああ、そうだ。初めて殺そうと決意したあの時だ。素人臭いナイフで沢田綱吉に向かっていって、気絶されて。あの人の為に何かしたい、あの場所を守りたい…そんな思いだった。離されていても、よりどころだった。そして、それから5年のあの時に、私は天涯孤独ではなくなった。ヴァリアーがいる。ザンザスがいる。迎えに来てくれた、その事実が何よりも嬉しかった。

そして今も、私はここにいる。

「…おやすみ」

小さな小さな身体をゆっくりと抱きしめて、私はまぶたを閉じた。




今日も今日とてベスターが炎を食べにやって来た。隣のルカはまだ寝ている。そっと着替えて部屋を出た。風呂に入り髪を乾かし、朝食…の前にルカか。とか考えてたら、見知った気配が前方からやって来た。

「ごはん!」
「…おはようございます」
「う…お、おはようございます!」
「よく出来ました」
「えへへ」

朝の挨拶の前にご飯とは何事だ全く。二人で朝食を食べていると、ルカが突然、私の仕事を手伝いたいと言い出した。勿論、

「却下」
「なんで!?」

以前ザンザスの自室の掃除をしたときに駆け出したのはどこのどいつだ。お前だ。くそ、起きなかったのはよかったけど、危うく死にそうになったわ。

「お、お願い!!」
「勉強があるでしょう」
「勉強もやるから!」
「…何故急にそんなことを?」

ため息混じりにそう言えば、ルカはアイスブルーの瞳をこちらに向けた。

「一番お世話になってるし、お手伝いがしたいの!しかもルッスに聞いたらゆきが一番忙しいって」
「…………」

そんなこと言われたら断るに断れなくて、私はしぶしぶルカを使うことにした。

洗濯物を干す、クリアー。
掃除機をかける、…花瓶が一つ消えたが、まぁクリアー。
幹部(ザンザス以外)を起こす、レビィに手間取っていたが、クリアー。

そして夕方。失礼しまーす!と元気な声でルカが執務室に入って来た。…言うようになっただけ進歩か。斜め横にいるザンザスの機嫌が気になった。

「ゆき、今日の勉強が終わったからお仕事ちょうだい」
「…今日はもう良いですよ。もう遊んでは?」
「だったらゆきと遊ぶ」
「私はまだ仕事があるので」
「じゃあお仕事ちょうだい!」
「…………」

頭が痛くなった。これは何かやらせないと引かないだろう。この娘は妙に頑固だ。

「…だったら、この書類を一般隊員の皆さんに渡してくれます?」
「うん!任せて!!」

ルカは数十枚の書類を抱えて執務室から飛び出した。もう一度ため息をつけば、ザンザスは何が楽しいのか笑っていた。

「どうだ、使えそうか?」
「まだ犬レベルですよ」
「ハッ、犬はてめぇだけで充分だ」
「左様で」

苦笑いをすれば空いたウィスキーボトルが飛んできた。

書類を配り終わったらしいルカは、夕食後、またしても執務室にやってきた。仕事…どんな仕事を任せようか悩んでいると、ルカはザンザスから仕事を貰っていた。今度は幹部に渡す書類だ。ルカはわかった!と元気よく答え駆け出そうとしたが、私はそれを止めた。

「……いいですね、」
「うん、わかった!」

ある種の魔法の言葉を託す。ザンザスは興味なさそうだから大丈夫だろう。





「おい、何故貴様がボスからの書類を持ってくる」
「ボスに頼まれたんだ!レビィが最後だよ、はい!」
「………………」

何故こんなガキからボスからの大事な書類を受け取らねばならん…だが、ボスからの書類…受け取らないわけにも行かん。

しぶしぶ受け取ると、ガキはありがとう!とにっこり笑い、そして俺に向かってこう言った。

「さっきね、ボスがレビィのこと褒めてたよ。よくやった、って」
「…なんだと?」
「報告書?だったかなぁ…わかりやすかったんだって!」
「………………」

ガキに言われただけのはずが、俺は身体が痺れ、自然と涙が流れた。

「レビィ?泣いてるの?」
「感涙してるのだ…!!」
「かん…るい、?」

俺はよくわかっていないガキの頭に手を乗せる。

「よくやったルカ!俺にボスの言葉を伝えるとは…素晴らしい働きだ!」
「褒めてる?」
「勿論だ!」
「やった!レビィに初めて褒められた!」

終始ニコニコとしたルカはパタパタと駆けて行った。




とまあこんな感じでルカはレビィからも好かれていった。…信じちゃう辺り盲目というか狂信的というか…まあ私も実際こんなのがあったら信じちゃいそうだから怖いな。

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