熱がでた
思えば、数日前から気分が優れなかった。
私自身に珍しく入った任務に、ザンザスの任務に付き添い、ベルフェゴールに連れられ任務…他にもキャバッローネへ出張やら本部に顔出しやら、風紀団体に顔見せやら…いつになく詰め込んだスケジュールだった。
久しぶりの自室に倒れ込み、死んだように眠ってた。
「ベスター…」
近くに獣の気配を感じ目を覚ますと、そこには案の定ベスターが居て。ベロッと私の頬を舐めた。
「おはよう、今…あげるから」
布団から手を出し、指輪を通し晴の炎を出そうとするが…何もでない。
「…あれ、」
もう一度やろうとして、今度は気を失った。ベスターがどこか心配そうに喉を鳴らした。
「…過労ですね」
起きたら近くにベスターが居ねぇ、肉が来ねぇ、談話室執務室がきたねぇ…。どこに行ったか探してみりゃあ、自室で顔赤くして寝込んでやがる。
ゆきに寄り添う様に寝ていたベスターを匣に戻し、ゆきを抱えて部屋を出た。体も熱い。
医者に見せれば過労だという。
「解熱剤を注射しましたので、今日一日様子を見ましょう」
俺はゆきを一瞥して部屋を出た。
「ついにくたばったかッ!!」
「うるせぇよムッツリ」
「なっ!何をするベルフェゴールッ!!」
「…嬉しそうですねー電撃オヤジ」
「そりゃあ嬉しいでしょ。ゆきちゃんはレビィちゃんのコブなんだから」
「でもミー達からしたら大事態ですよねー」
「そうねー特にボスが…ってスクちゃん、その頭…」
「また派手ですねー」
「うるせぇ…クソボスだぁ」
「で、どうだったの?ゆきちゃんの様子」
「だいぶ熱は下がったが、まだ寝てやがる」
「今はボスが見てるんですかー?」
「さぁな。医務室出たら花瓶が飛んで来やがった!」
「あらー」
「うわ…」
「さっさとゆきが起きねぇといつも以上に被害者が出るぞぉ…」
「今朝のお肉でも一人重体者が出てますよねー。堕王子も荒れてますしー」
「…正直、ゆきちゃんが倒れて喜ぶのってレビィちゃんだけよね。あの娘がいると助かるもの」
「ですね」
「だなぁ」
「貴様…今日こそ殺してやるッ!」
「それ王子の台詞なんだけど。死ねよ」
「ゔお゙ぉぉい!!いい加減にしろぉ!」
「そうよ、ただでさえボスが苛立ってるのに」
「別に良いじゃないですかー死ぬのは変態オヤジと先輩ですよー」
「巻き込まれるだろうがぁ!!」
「…それは嫌ですけどー」
カスどもがうるせぇ。炎を飛ばそうにも些か距離が有りすぎる。気にせずぶっ放しても良いが、それを片付けるこいつも寝てやがるし、俺はゆっくり手を下ろした。
「…………」
医者は先程のカス鮫と一緒に部屋を出ていた。去り際に、起きたら薬を飲ませてほしいと頼まれたが、何故俺が。そもそもこんな所に来ている時点でおかしい。過労のカスを見舞い…ハッ!自分でも笑っちまう。
額に触ると、だいぶ下がったがそれでも少し熱かった。
「…起きろカス」
起きない。
「起きろ、ゆき」
少し強めに呼んだら、ゆきはゆっくりまぶたを開けた。
「…ザン、ザス様」
−−あれ、なんで起きたらザンザスが居るんだろ。つかここは…今何時?もしかしなくてもベスターに起こされてから倒れた?あ…体動かない。
…こいつは相変わらずうるせぇ。
「過労だ」
「過労、ですか」
−−過労?働きすぎってことか。久しぶりに任務やら出張やらが重なったからな。それの所為か。でもまさか倒れるとは、
「気が緩んでんだドカス」
「ご、ごもっとも…」
−−くそ、超直感め。
これだけ悪態がつけるなら平気だな。俺に詠まれると知ってやがる癖にこいつはいつもそうだ。ここにきて口数が少なくなっただけで、もとは饒舌な奴なんだろう。内心ではいつも何かしら考えてやがる。
「飲め」
「薬ですか」
「ああ」
医者に頼まれた薬を投げ渡す。水を汲んでやったらゆきはあからさまに驚いた顔をした。
「…ザンザス、様」
「あぁ?」
「…もしやお熱が、」
ズガンッ
「…申し訳ありません」
天井に向かって早撃ちしたら直ぐに謝ってきやがった。謝るぐれぇなら最初から言うんじゃねぇ。
ゆきは薬を口に含め、水で一気に飲み干した。眉間にシワが寄る。詠まなくてもわかる。…こいつ、粉末嫌いだな。
「ガキか」
「…久しぶりでしたので」
こいつが言うようにこのカスが薬を飲むのは珍しい。いつも倒れるのはガス欠か寝不足…寝てりゃあ治るもんばっかだ。馬鹿は風邪をひかないとはいうが、その通りかもな。
「それ飲んだらさっさと寝ろ」
手頃な位置にあった頭をぐりぐりと撫でれば、頭痛がっ頭痛がっ!と内心で喚く。
「ハッ!」
やはりこの女は面白れぇ。10年前、拾ったときから中身はこんなんだった。
敬語なのは当たり障りがねぇから。従順なのも当たり障りがねぇから。そんな当たり障りのねぇ生活をしてきたこいつが、過去に二度、突拍子のねぇことをした。
「てめぇは、」
それも、保身の為じゃねぇ。だからだろうな、このカスを捨てられねぇのは。
「いつまでも俺の側にいろ、ゆき」
二人だけの医務室に、俺の声は響く。頭に乗った俺の手を退かしたゆきは、真っすぐに俺を見た。
「はい、ザンザス様」
静かに笑ったゆきに、俺は口角をあげた。
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