蛙と一緒
「…弱そうな人ですねー」
それがゆきさんへの第一声だった。
まるで人さらいの様に連れられ、暗殺部隊ヴァリアーに所属することになって。声の大きい魚類に、うざったい王子とオカマ、それから変態。同僚と上司に激しく恵まれない職場だった。
自ら王子と名乗る視界不良に、舌打ちをするとすぐさまナイフがとんで来た。まっすぐミーの脳天へ。
「痛いですー」
「…隊長、なにこいつ」
「六道骸の弟子だぁ…ゔお゙ぉい!ボスんとこ行くぞ!」
頭からナイフを抜きとって魚類のあとへ続く。
…師匠のとこもろくな人居ませんでしたが、ここは上を行きますねーとりあえずあの自称王子死ね。
とか考えてたら前に師匠に言われたことを思い出した。
『おチビちゃんがいくらあそこで毒を吐くか知ったこっちゃありませんが、ザンザスの付き人とは仲良くしておきなさい』
『付き人ですかー?』
『付き人です』
『理由はー』
『ヴァリアー唯一の常識人と聞きます』
『常識人ですかー』
…ミーの最後の希望はその常識人さんだけですねー。まあ別に常識人がいなくても生きていく自身はありますけど。
「入るぜぇ」
鮫のあとにボスが居るだろう部屋に入った。目に入ったのはウイスキー片手に興味なさそうに書類に目を通す男。…ガラ悪いですねー。その後ろにはこちらに頭をさげている女がいた。東洋人ですかね。
「…てめぇが弟子か」
軽く自己紹介をすると、ボスはハッと鼻で笑った。
「勝手にしろ」
「決まりだなぁ!!」
「るせ」
「ガッ!!」
飲んでいたウイスキーのボトルが魚類の頭に直撃する。…デンジャラスな職場ですねーナイフやらボトルやら。
「ゆき」
ため息をついていると後ろにいた女の人が呼ばれた。
「案内を?」
「あぁ」
その女はミーの前まで来て、ミーに頭を下げた。
「ではこちらへ、」
どうぞって言おうとしたんだと思う。でもミーはそれに被せて、言ってしまった。
「…弱そうな人ですねー」
あ、やべ。
場の空気は固まり、目の前の女も固まった。
「ごめんなさーい。ミーは少し素直なので思ったことを直ぐに口に出しちゃうんですー」
ナイフにボトル、さあこの人からは何が飛んで来るんだろ?
そんなことを考えていたのに、その人はあっけらかんとこう言った。
「まあ事実ですし」
「…は?」
「当たり前なこと言ってんじゃねぇぞ新人!!」
「え?」
「カスが」
「えぇー…」
こちらへどうぞと改めて言われて、部屋を出た。ミーの部屋だという部屋に連れられ、説明を受ける。
「…弱いんですかー?」
「幹部では最弱ですね。…これが隊服で、こちらが予備です」
しれっとそう言ったその人は、気にせずミーに幹部の説明をする。
「最後に、こちらが霧のヴァリアー指輪です。…あぁ、そのナイフはベルフェゴール様のですね。私から返しておきましょう」
「あの堕王子、ベルフェゴールって言うんですか」
「…堕王子、ですか」
「はい。そう呼んだらナイフ投げられましたー」
「…まあ、そうでしょうね」
あ、顔が若干引き攣ってますねー。
「仲良くしてく自信はないですー」
「…仲良くする気はあるんですか?」
「ないです」
「…………」
今度は頭を押さえだしましたー。
「…でしたら、せめて呼び方を変えましょう」
「えー堕王子で良いじゃないですかー」
「…堕王子は駄目です」
「じゃあクソ王子」
「駄目です」
「なら死ね王子」
「…最早呼び名ではなくなってますよ、フラン様」
ため息混じりにそう答えたその人に、不覚にも驚いた。
「…ミーの名前知ってたんですね」
「先程自己紹介していたではありませんか」
「そうですけどー」
久しぶりに名前で呼ばれた。クソ師匠にはおチビちゃんとか、ここに来たら新人とかカスとか。…しかも、
「様付けとか、」
「私は幹部ですが、実質雑用なので。フラン様では不服ですか?」
「いや、平気です」
…初めてまともな人ですけど、これはこれでちょっと調子狂いますねー。
「…ボスの付き人もこんな感じなんですかね」
「ザンザス様の付き人、ですか」
「はい、その人とは仲良くしたいです」
「…私ですが」
「………え、」
「ザンザス様の雑用から昇格したので、私ですよ、付き人は」
「……………」
あーでも確かに幹部というより付き人の方がイメージピッタリです。
「名前、なんでしたっけ?」
「真鶴ゆきです」
「じゃあゆきさんですねー」
「私に敬具はいりませんよ」
「付けろと言われると付けないですけど、逆を言われると付けたくなりますー。というわけでゆきさんで」
「、そうですか」
ゆきさんは少し戸惑った様子になった。
あのクソ王子とかにいらついたらゆきさんに話し相手になってもらいましょーか。そんなこと思ったゆきさんとのファーストコンタクト。
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