女子会だよ2
「真鶴ゆきと申します。お二人の護衛を仰せつかりました」
よく晴れた絶好の観光日和の今日。私は自分より三つ下の女の子達に頭を下げた。
任務とは言え、極秘の護衛。真っ黒い隊服なんて着ていたら自分が何者か晒しているようなモノ。動きやすめのショートパンツに、ジャケット…ボーイッシュな格好だが、最低限のオシャレはした。
「あ、確か…前にツナ君と一緒に居た、」
「マフィアさんですか?」
「…まあ、そうですね、マフィアです」
直球で聞かれると戸惑うな。マフィアは大前提だし。
「護衛ということで、私は影から見守っています。ですからお二人は気にせず観光をしてください」
「はひ?一緒に居ないんですか?」
「はい。危険なことがありましたら出て来ます。ではこの三日間、よろしくお願いします」
「あ、あの!名前はなんて呼べば、」
「真鶴でも、ゆきでも御自由に。失礼します」
ペこりと頭を下げて、私は二人に背を向けた。
「んー!美味しいねハルちゃん!」
「はいです!やっぱり本場は違いますー!」
「じゃあ早速次に行こう!」
「……………」
…よく食べるな。
交通機関を乗り継いでやって来たフランス。前もって調べていたのだろう、これで三軒目、次で四件目のカフェだ。気配を消して二人を見守る。…天下のボンゴレに手を出そうとするなら、彼女達は絶好の鴨だろう。まあ今のところ危険はない。
「よう!君達二人だけ?」
…前言撤回。
「いえ、あの…」
「ハル達は、」
「へーハルちゃんか!良い名前だなあ!」
雰囲気は一般人、ただのナンパか。
「俺達と遊ばない?」
…なんだ?ぞろぞろ出て来たぞ。数は全部で五人。
「あ、あの…」
「い、行くとこがあるので、」
「良いから良いから!」
そういって笹川京子の腕を掴むナンパ野郎。はい、アウトー。
気配なく近づいて、後ろから回し蹴りを入れる。
「ぐあ!」
「なっ!!」
ナンパ達が驚いている間に、路地裏へと蹴り飛ばし、一人ずつ気絶させていく。やっぱり一般人だった。
「…ふぅ」
パンパンと手をはたいていたら、二人が路地裏に顔を出す。
「だ、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。お怪我はありませんか?」
「はい、私達は平気です。ありがとうございますゆきさん」
二人は私に礼を言うも、倒れた男達を不安そうに見ていた。あぁ、なるほど。
「死んでませんよ、気絶しているだけです」
「あ、そうなんだ!よかったぁ…」
ホッとしたように胸を撫で下ろす二人。まあナンパごときで殺されたら流石に不敏だよね。
「では失礼します」
そう言って先程のように背を向けたら、二人に腕を掴まれた。
「あの、」
「…はい?」
「やっぱり、一緒に観光しませんか?」
にっこりと笑ったその顔が、しばらく脳裏に映って離れなかった。
そしてやんやかんや一緒に観光をしている護衛二日目の午後。…ヴァリアー幹部にばれたら私死ぬんじゃないだろうか。
「美味しいですね、ゆきさん!」
「はい、美味です」
もう一生体験しないと思ってたこのホワホワした女の子の雰囲気。ケーキも紅茶も確かに美味いが、少々落ち着かない。
他愛のない話し。でも、どこか懐かしい…女子高生をやっていたころの感覚だ。
「…ゆきさん?」
そんなことを考えていたら、三浦ハルが私を覗き込んでいた。
「ああ、すいません。ちょっとぼーっとしてまし、た…」
と同時に、頭の端でピシリと何かが弾ける。
「ゆきさん?」
「…少し、お手洗いに行ってきます。ここに居てください」
あくまで自然にそう言って、席を離れた。やはり鼠はやって来るものらしい。
見えなくなった辺りから気配を消して、足速に目的の場所へ向かった。
「…標的は女が三。一人離脱、」
「離脱ですか」
「ああ…っな!?」
話し掛けてようやく気付いたレベルの三下。隙が出来たとこに腹蹴りをお見舞いし、愛用のナイフを首に当てる。
「…っ!!」
「さて、どこの組織か吐いてもらいましょうか」
「…残念だったな、俺は雇われた下っ端だ。お偉いさんはしらねーよ!」
へへんと笑った三下。…こいつ、私のこと舐めてるな?まあヴァリアー幹部の中では最弱だから慣れてるが。
「そうですか。喋りたくないと。それは残念ですね、あそこでは私が一番優しいんですが」
「…あ?」
「時間もあまりありませんし、私がお気に召さないのなら仕方ありません」
舐められてる相手を尋問するなんて時間が掛かる。が、生憎私には時間がない。ナイフは動かさず携帯を取り出し、目当ての番号に連絡した。後悔するといいよ。
『はーい、どうしたのゆきちゃん?今10代目の任務中でしょう?』
「はい。鼠が引っ掛かったので、尋問をお願いしたく」
『あら、殺してもいいの?』
「情報を聞き出せるのなら」
『んー…今暇だし、良いわよ。晴の部隊を数人向かわせるから、そこらへん転がしといて』
「わかりました。足の鍵を切って置いとくので回収よろしくお願いします」
『はいはーい』
「ありがとうございます。では失礼します、ルッスーリア様」」
二つ折の携帯をパタンと閉じれば、三下は目を見開いて私を見ていた。
「い、今ルッスーリアって、」
「そうですよ」
「じ、じゃあ!お前はッ!!」
「ヴァリアーです。ボンゴレ相手にしてるんですから知ってるでしょうに」
おやすみなさいと呟いて、三下の腹に蹴りを沈めた。鍵を切り、血のついたナイフをハンカチで吹いてそのまま止血にあてる。…さて、早く戻らなければ。
「…ごめんなさい、遅くなってしまって」
困った様にはにかんで戻ると、二人とも私を見た。
「、お帰りなさい」
「はい、」
……あ。
そのぎこちない笑顔に、気付いた。
見られてはいない。
でも、
私が何をしていたか、悟られたのだ。
「…申し訳、ありません」
「え、」
気づかれた。恐らく遅いことを気にした二人がトイレに見に行ったんだろう。でも、そこに私は居なかった。だから、気付いたんだ。二人とも10代目の友人なんだから、こういう状況に慣れてる筈。…ぬかった。
「…では、私はこれで失礼します。あとはお二人でお楽しみ下さいませ。お会計は済ませておきます」
「あ、ゆきさん、!」
ペこりと頭を下げて、私は足速に逃げ出した。そう、逃げ出したんだ。以前掴まれた腕は、もう掴まれない。
困った様にはにかんだ作り笑いが、無表情に変わり、もう痛まないと思っていた胸が痛んだ。
「…くそ、」
二人の気配が届くギリギリのライン…その屋根の上。沈みかけの夕日に、揺らめく炎が恋しくなった。
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