XVI
私の目が覚めたのは、全てが終わった後だった。
残党狩りも終わったイタリア。ルッスーリアの話しだと、短時間の高速治癒を繰り返した所為で私の細胞はボロボロなんだとか。今回は自然治癒に任せるということで、しばらくベッド生活が余儀なくされた。全治2ヶ月。重態だ。
ユニはあのあと部下と共に死んだらしい。アルコバレーノ…マーモン、赤ん坊達を復活させて、過去を正常なものに直したとか。もう少し、あの少女とは話したかった様に思う。
「ゆきー」
「ベルフェゴール様」
「暇なんだよね」
「…未提出の報告書があるようですが」
「しーらね。だって俺王子だし」
…怒るぞ。
幹部連中からしたら狭いこの部屋に、色んな人が見舞いにやってくる。ベルフェゴールやらスクアーロやら、10代目やら跳ね馬やら。人望があるのかないのかわからない。
ため息をついて目の前にある書類を片付ける。私が寝ている間に溜まった書類達だ。私の仕事は動かなくても出来るからと、引き受けたはいいが…私に休息なんてないらしい。これでも少なくなった方だ。それこそ私が起きたての、10代目や跳ね馬が見舞いに来た時はこの部屋を書類が埋め尽くしてた。二人揃って苦笑い。くそ、弟子兄弟が。
「…………」
欠伸を噛み殺せば、ベルフェゴールがうししっと笑った。
「ねむそー」
「…誰の所為ですか」
「しーらね」
…このくそ王子め。
「あ、そーいやボスにゆき呼んで来いって言われてた」
「失礼します!!」
そういうことは先に言えよ!!生死に関わるんだぞ!!
隊服を羽織り、松葉杖で飛び出した。
「ム、ゆき。もうそんなに動けるのかい?」
「違うでしょーマーモン先輩、見るからにフラフラしてますよ」
「失礼しますマーモン様フラン様!」
会釈をして二人の横を翔ける。
「…ボスから召集を受けたみたいだね」
「大変ですねー……っえい」
「いくらとる気だい?」
「隣の強欲赤ん坊と違ってただの親切ですよー」
「ムッ、ならこれくらいしなよ」
「うわー珍しい」
何やら途中から痛みが消えて、松葉杖を投げ捨てて執務室へ駆け抜けた。
ノックを一つして、失礼しますと部屋に入った。
「おせぇ」
「…申し訳ございません」
私の所為ではないですベルフェゴールの所為ですと頭の中で繰り返す。
でもザンザスはそんなの知るかと言うように鼻で笑った。
「沢田綱吉の話を、断ったらしいな」
「! …あぁ、あの転送システムの話ですか」
ミルフィオーレの長距離転送システムを応用した、時空を越える転送システムをボンゴレの研究チームが開発したそうだ。
ついこの間その連絡を10代目から貰ったが、私は断っていた。
「帰りたくねぇのか」
「…帰りたいというか、」
「前は帰りてーとか言ってただろうが」
「…いつの話ですか。それ10年前の話ですよ」
「…………」
じゃあなんで断ったんだ、とザンザスの目が言っている。
「絶対に帰れる訳ではない様なんです」
「あぁ?」
「成功率は五分五分。もし、100%私の世界に帰れるなら考える余地はありますが、現段階では有り得ないです」
それに、と続けてザンザスを見る。
「私の居場所はもう、ここですから」
最初こそは、帰りたいと思った。ユニや白蘭の話を聞いて、帰れるかも、とは思った。
でも、もう帰りたいとは思わない。それこそ、行って帰って来れるなら、両親とか友達とかに会ってみたいとかある。でも永久に戻りたいとは思わなかった。
それはきっと、この場所が、ヴァリアーが、ザンザスの側が、
私の帰る場所になったからだろう。
「ハッ!」
ザンザスはまたもや鼻で笑う。
「たりめーだ。お前はせいぜい生きろ」
「はい」
ぶっきらぼうなその言葉に、私は笑顔でそう答えた。
fin.
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