ナイフ | ナノ


XIII



ユニを庇い、前に出る。

ガス欠で炎はでない。体術は中の上。それでも、引っ込んで動けないなんてことになったらザンザスに殺される。

「んー…君ってさあ、結構単純なひとだよね」

そんなこと考えてたら、白蘭は少し悩んだ後にそうを言った。…単純?私が?

「暗殺部隊の幹部、ザンザス君の雑用係なんてやってる子だから、もっと気難しい子だと思ってた。常に敬語だし」
「意味がわかりませんが、」
「要するにさ、君は"生きたい"んだ」

その言葉に、核心を突かれた気がした。

「"生きたい"んでしょ?」

生きる…それは私が覚悟をして縋り付いているモノ。

「でもただただのうのうと生きることは出来ないから、ヴァリアーの雑用係なんてやってる。君は普通の人だ。それこそ前の世界では一般人だったんじゃない?普通で、正常な価値観を持っているからこそ、裏の世界を知っちゃったから表には戻れないとか思ってる。罪悪感で心が死ぬのを恐れてるのかな?」

「……………」

「君ほど"綺麗"で"真っ直ぐ"な矛盾した人間性を持つ人は珍しいと思うよ。でもつまらないね。蓋を開ければ、ただの"生きたい"人だ。ただ生きていれば普通に生きれるのに、わざわざ暗殺部隊に身を置くなんて、馬鹿だよ、馬鹿。まあそんな弱い君を側に置くザンザス君の方が、馬鹿だと思うけど」

「………!」

「10年前の指輪争奪戦に、18年前のゆりかご…ヴァリアーはボンゴレの表舞台に立とうとして常に失敗してる。あはは!所詮出来損ないの集まりなのかな!劣化版10代目ファミリーみたいな!それに君はある意味、僕の出来損ないみたいだしね!」

高らかに笑う声に、ナイフを握り締める。力を込めすぎて白くなった。

出来損ない…。私を否定するのはいい。全て事実だ。私はこの世界で異端…白蘭でさえ、この世界の住人なのに。

でもそんな中、この世界で出来た私の居場所がヴァリアーだ。あそこなら、ザンザスの近くならば…私は世界を越えた特異な存在から、雑用係や雲の幹部になれた。

だから、その居場所を馬鹿にされるのは…

嫌だった。


「…煩い、」


初めて、他人に殺意が湧いた。


「んー?何か言った?ゆきちゃん」
「煩い、と言ったんだ。白蘭」
「…敬語、取れてるよ」
「敵を敬う必要なんてない」
「さっきまで敬語だったのに?」
「それは先程までお前が私の敵じゃなかったからだ」
「…へぇ」
「お前の言う通り、私は"生きたい"だけ。死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だ。死なない為なら、私はなんだってする。泥水だってすする覚悟がある」

生きるために、あの場所で私は沢山のものを失った。

「私が人を殺すのは、その人を殺さなきゃ私が死ぬから」

書類上でも、直接でも、見殺しでも…その人達の命を奪って、私は生きる。

「でも、"敵"は違う。私が私の意志で、殺したいから殺す。生きる為に殺すとか、そんな理由じゃない。それが敵だ」

殺意が湧いた。こいつを殺したいと思った。

「…私は私の意志であそこに居る。常に死と隣り合わせの職場だし、生きることとは程遠い場所だけど、あそこが私の居場所だから」

『このことを知ってるのは、俺とてめぇだけでいい』
『てめぇに飽きたら、俺が消す』
『生きてんじゃねぇか』

『ゔお゙おぉい!ゆき!!』
『ゆきー』
『ゆきさーん』
『…小娘が』
『ゆきちゃーん』
『ム、ゆき』

『…ゆき』

必要とされてるのがわかるから、あの場所が好きなんだ。

なけなしの炎を絞りだし、ポケットの奥底に眠っていた匣を取り出す。

「その場所を馬鹿にするのは、許さない」

晴のバッテリー匣を開ければ、荒々しくも優しい炎が私を包んだ。

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