IX
「…ぅ、?」
身体全体が暖かい何かに包まれている。光に慣らしながらゆっくりと瞼を開けた。
「あ!やっと起きたわぁ!」
「…ルッスーリア、様?」
「もう駄目じゃない。私の炎スクちゃんにあげちゃ」
「ゔお゙おぉい!!どういう意味だあ!!」
「うるせーよ、カスサメは黙ってろって。ゆきー怪我出来た、治して」
「かすり傷じゃねえかぁ!!唾でもつけとけぇ!!」
「まだゆきちゃんは本調子じゃないわぁ、私が治してあげるわよ」
「いらね」
「…え。あの、これは…」
状況に頭がついていかなかった。周りにはフラン以外の幹部全員がいる。
「スクアーロからの要請で全員日本に来たのよ。残党狩りほっぽりだして。イタリアに帰ったら残党狩りで忙しくなるわ」
「は、はぁ…」
「あと、全身の打撲と内蔵の損傷、それからあばらの骨折!んまぁーよくこれだけ怪我してスクちゃんの治療を優先させたわねー感心しゃうわ」
「…あ、ありがとうございます?」
「褒めてないわよ。全部治しといたから、もう少ししたら感覚が戻ると思うわ」
「ありがとうございます」
今度こそお礼を言ったら、大きな手がまたもや私の頭を撫でた。
「ル、ルッスーリア様?」
「少しは自分の身を大事にしなさい」
「!」
「貴女が居ないと幹部の世話する子が居なくて大変なのよ」
「…………………………………」
あ…そういうことですか。
「皆すぐに死んじゃうし」
え。
「…あの、まさか…」
「使用人の…そうねー約2/3は死んだわ」
「……あぁ、そうですか」
「このところ忙しかったし、皆いらついてたのよねぇ」
いらついてた…あぁ…嫌な予感が的中した…。でも全滅してないだけマシなのかな。
小さくため息をつきながら立ち上がり、軽く身体を動かした。いつもより身体が軽い…私が放置していた傷やら疲労やらも回復してくれたようだ。するとパタパタとベルフェゴールが近づいてきて、小さいすり傷を見せてくる。すぐに晴で治せば、うししと笑った。
「ゆき」
ふと耳に届く低音。ざわついていた幹部達も静かになり、一斉に声の主を見る。
「ザンザス様」
一類の緊張で身体が固まった。久しぶりに感じるこの圧倒的な雰囲気。あくまで自然に足を運んで、ザンザスの前まで来た。
「…………」
「…………」
しばし沈黙が流れる。何か言わなければ…あ、そういえば帰還?報告をしていない。私は仰々しく頭を下げた。
「ザンザス様。真鶴ゆき、ただ今回復し帰還しまし、」
と、ここまで言って、私の頭に手が乗る。
「…えっ、」
そしてグシャッと乱暴に撫でられた。戸惑って下を向いたままでいると、更にワシャワシャと撫でられた。
「ザンザス、様?」
「生きてんじゃねぇか」
「!」
言ってることは乱暴だが、声音は酷く優しかった。…なんて捻くれた心配の仕方だ。
「…私を殺すのは、ザンザス様ではありませんか」
「ハッ!そうだな」
そう返す私も捻くれてはいるが…ザンザスは楽しそうに笑ってる。恐らく私も、笑ってる。
『てめぇに飽きたら、俺が消す』
俺が殺すから、お前は死ぬな。
『そんなこと、貴方に言われなくても』
あの人に殺されるから、私は死ねない。
でも飽きたらとか言ってるけど、多分私が余程のミスをしないかぎりは殺されないだろう。それは何となくわかる。私もああは言ったけど、殺される気はさらさらないし。
「その減らず口も健在か」
「…超直感はやめてください」
声に出してないのにこの人は!内心ため息をつけば、ザンザスはバサッと隊服を翻した。
「…行くぞ、カスどもを援護する」
幹部は皆面白そうに笑みを浮かべ、ザンザスの後を歩き出す。私もついて行けば、ザンザスのすぐ後を歩いていたレビィが、何故か私の目の前に来て止まった。
「…………」
「あの、レビィ様?」
「…貴様は、」
何かを言おうとして、口をつぐんで…そして、何故か頭に手を置かれた。
「え、」
「…貴様はやはり気に入らん、が、」
「が?」
「…フン」
そのまま頭をタンっと押して、レビィはまた歩き出してしまった。…え、何。
そして次は何故かスクアーロがグシャグシャと私の頭を撫で、ルッスーリアがそれを直しながら撫で、最後にベルフェゴールが肩を抱く。
「あの、」
戸惑っていたら両手でこれまで以上にグシャグシャにされた。髪の毛がボサボサだ。
「うししっ!ボサボサじゃん!」
「…誰の所為ですか」
「しーらね。だって俺王子だし」
パッと前を歩き出すベルフェゴール。
「さっさと来いよ。一人じゃ死ぬぜ?」
「ごもっともですね」
髪を整えながら駆け出して、なんだかんだ私はこの場所が好きなんだなぁと感じた。
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