VII
並盛に帰ってきて、スクアーロに担がれたままの私は安全に着地した。
「や…やった!並盛に…転送できたぞ!!」
直ぐさま転送装置を壊そうとしたが間に合わず、白蘭たちは直ぐに追って来るだろう。
そうしてやって来た敵は四方八方へ跳んだ。
「恭さん!どちらへ!?」
「1つ並中の方に落ちた。見てくる」
そう言って急ぎ足で行こうとしたが、何故か方向転換してこちらに来た。
「猿山の大将の雲って、君だよね」
「ザンザス様のことでしたら…そうです」
「これ、あげる。大人の僕が君にって」
「これは…」
そういって渡された一つの匣。見覚えは、ある。
「じゃあね」
「ありがとうございます」
ペこりと頭を下げて貰った匣を仕舞った。
雲雀と草壁、それから跳ね馬以外の全員はとりあえずアジトへ戻り、スクアーロと私はヴァリアーに連絡すべく通信室へ向かった。
「繋がりまし、」
「ゔお゙おぉい!腕の立つ奴を今すぐ送れぇ!!!」
「…っ!!」
うるさっ!もろに聞いてしまった。鼓膜、鼓膜がぁ!画面に映った相手はルッスーリアで、増員の交渉中をする。耳を押さえながら二人の話しを聞いていたら、見張り役に置いてきたカラスがやられた。
「スクアーロ様!」
「もう来やがったか!行くぞぉ!」
「はい!」
通信室を飛び出して10代目達がいるところへ向かえば、同時に6弔花の一人が後ろにいる。
「バーローみっけたぜ、ユニ様」
確か、名前はザクロ。目に見えない攻撃はスクアーロが相殺しているようだ。
前に出ようとする嵐と雨を制し、スクアーロはニヤリと笑う。
「てめぇらじゃ役に立たねぇ…ユニをつれてさっさとここから去れ!」
スクアーロが残るならと、雲の指輪に炎を燈せば、大きな手が頭をぐしゃっと撫でた。
「てめぇはクソボスの命に徹しろぉ…いいなぁ」
「ですが、」
「足手まといはいらねぇ。そろそろ1人でゆっくり、静かにひっそり暴れてぇんだぁ!!」
「…畏まりました」
足手まといと言われちゃあ何も出来ない。
「行きましょう10代目」
「で、でも…!」
「行きますよ」
なかなか引き下がらない10代目の手を引いて外に出た。
出口はどこかの工事跡地の様な所だった。次の行き先を不動産屋に決めて移動する直前、地響き。そして、爆発。
「ひいぃ!どーいうことー!?アジトが爆発でもしてるの!?」
「あいつらどんな戦いをしてやがんだ!何がゆっくり静かに戦いてぇだ!!」
「…………」
嫌な予感がする。こういう時の感は当たるものだ。
切らずにつけっぱなしの無線から聞こえる声…爆音、やがて、ノイズでなにも聞こえなくなった。
「ス、スクアーロ!?」
「10代目」
「…真鶴さん?」
「先に行ってください。私はここに残ります」
「なあ!?」
クロを開匣して、増殖を開始。
「スクアーロ様の次は私が時間を稼ぐので、」
「正気か?いくらお前が得意な自衛でもスクアーロでアレじゃあ死にに行くようなもんだぞ」
「でしょうね」
「ならどうして!!」
澄んだ瞳が私を映す。その眼は悲痛に歪んでいた。
「今回の私の任務は10代目の補佐です」
「任務なんて関係ないよ!」
「ありますよ。私はヴァリアーですから。足手まといには足手まといなりの仕事があるんです。ここは私に任せて、さっさとユニ殿を連れて不動産屋に向かってください」
「でも…!!」
それでも引き下がらない10代目。…わかってはいたが、優しい人だ。
「ならこう言いましょう。沢田綱吉、貴方を殺すのはザンザス様です」
「え…」
「私は、貴方を生かさなければなりません。任務失敗で制裁を受けて死ぬのは、一番避けたいことです。なので、逃げて下さい。そしてザンザス様に殺されてください」
「…真鶴、さん」
騒ぐと思った嵐が騒がない。…嫌われ者にはなれなかったか。
くるっと背を向けて入り口に向かって歩き出せば、10代目から声がかかる。
「一つだけ!約束してください!!」
「?」
「絶対に死なないで!!」
その言葉に、思わず目を見開いた。どこまでも優しい人らしい。暗殺部隊の女に死ぬなとか、甘すぎる。…でも、
『てめぇに飽きたら、俺が消す』
「そんなこと、貴方に言われなくても」
「…ぁ」
「こいつはレアだな」
私は自然と笑っていた。
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