学校へ行こう!
ああ…どうしてこうなった。
「あー休学していた真鶴が帰ってきた」
「ゆき!」
"友達"が私の名前を呼ぶと、隣の年下上司はうししと笑みを浮かべる。
「で、隣がイタリアからの留学生、ベルフェゴール=ヴァリアーだ。皆仲良くするように!」
「王子に逆らったら殺すから」
「「「………………」」」
静まり返ってしまった教室で、私は一人頭を抱えた。
あの後ヴァリアーに戻った私だが、9代目と家光の「せめて高校は卒業を」という圧力で学校に通うことになった。それはまだ良い。たった一年で元に戻るのだから。
でもベルフェゴールまで一緒とは聞いてない。しかも「王子学校とか初めてだし」という謎の理由でだ。
『ほら、呼んでみろって』
『ですが、』
ヒュッ
カンッ!
飛んできたナイフを弾く。
『…………』
『早くしろよ。サボテンにするぜ?』
『…べ、ベルフェゴール』
『ししし』
ヒュッヒュッ!
カカンッ!!
『なっ!呼んだではありませんか!』
『なげーよ。"ベル"。あと敬語もなしな』
『な!?』
学校で様付け、敬語は変だという幹部達の意見。だが私は一度、ベルフェゴールに礼をかいた隊員が殺されているのを目の前で見ているので、敬具を外すのはかなり死亡率が高いことを知ってる。なのに今度は呼ばないで殺されかける。思わず素が出たのは仕方ない。
「ゆき!大丈夫だったの!?」
「うん。大丈夫だよ」
友達である彼女にスクアーロのこととかいろいろ聞かれたが、大家族の外人一家に引き取られたという無理矢理過ぎる理由にした。
暇だ暇だとナイフをちらつかせるベルに、手頃な暗殺者を紹介して、学校で起きるであろう被害を最小限に抑える日々…これなら一人で通ってた方が良かった。
でも良かったことといえば、私が作る弁当をベルが気に入ってくれて食べていることだろうか。サボりに町をウロウロとしていても昼になると弁当を食べにやって来た。
そして、時は経ち…三者面談。
「…………」
「…………」
「…………」
何この図。なんで兄役でザンザスが自ら来てんだよ。
本当は都合が悪いということで不参加か、最終手段で家光にしようとしてたら、ベルが勝手にヴァリアーに連絡を入れていた。
にしたって任務やら謹慎やらあるだろう。何故トップがのこのこと…。しかも聞けば幹部全員来ているらしい。暇なの?ねぇ暇なの?謹慎中だから暇なの?
隣の部屋には素行が悪いからと校長と面談しているベルと兄役のスクアーロがいる。…声がこちらまで響いているし、何やらものが割れる音までする。あちゃーと頭を抱えていると、ザンザスは一言「うるせぇ」と言った。恐らくスクアーロと私に対してだろう。超直感…。
「あの先生、早く面談始めましょう」
「あ、あぁ…」
…駄目だ。完全にザンザスの雰囲気にのまれてる。
ほぼ二者面談の様な形で、ザンザスは何も言わずに座っているだけだったが、威圧感はハンパなかった。そして、
「………」
「あ、せ、先生!!」
…ついに気を失ってしまった。
「潰れやがったのか」
「…ザンザス様、相手は一般人です」
「何もしてねえ」
行くぞと立ち上がったザンザスについて隣の部屋に行けば、ベルとスクアーロが小競り合いをしていた。…校長は気絶している。
ザンザスが近くにあったソファーを蹴り上げ、それは綺麗にスクアーロに当たった。「やっべ」と逃げるベルと入れ代わって気絶した校長を被害にあわない様に移動させる。保健室に連れてこうそうしよう。
担任も保健室に移動させて三人の元に戻れば、校門前に黒塗りのリムジンが見えた。…まさかな。いや、でも。
案の定車内には幹部がいて、私は助手席、スクアーロが運転席に座った。発車すると夕食はどうするかとの話しになった。
「ボス!ボス!寿司行こうぜ寿司!」
「あらーお寿司良いじゃない!行きましょうよ、ボス」
「…ゆき」
ザンザスは静かに私を呼んだ。成る程、寿司ですか。
「では竹寿司に連絡を入れましょう」
雨の家ならば美味しいし多少巻き込んでも平気だろう。心なしか隣のスクアーロも嬉しそうだ。
「やっりぃ!」
そういえばなんだかんだご飯は私の自炊だし、外食なんて久しぶり。それに幹部が揃うのも久しぶりだろう。
ガヤガヤとした車内の騒音に耳を傾けながら、この平和じゃない平和がどこか愛しく思えた。
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