ナイフ | ナノ






自然に目が覚めた。それも久しぶりだ。

「…ベスターともしばらくお別れか」

何枚か部屋に置いてある隊服を引っ張り出し着替える。ピシッと背筋を伸ばして自室をあとにした。

「おはようございます」

「ちゃおっす」
「真鶴さん!」

朝食を貰えるところに行けば10代目と赤ん坊、それから女の子が二人いた。

「朝食を頂きたいと思いまして」
「あ!今用意しますね」
「ハルも手伝います!」
「ありがとうございます」

空いてる席について用意された朝食を食べる。…日本食だーうめぇ。

「おいしいですね。日本食は久しぶりです。次から私もお手伝いしましょう。タダ飯くらいは趣味ではないので」
「本当ですか?助かります!ね、ハルちゃん」
「はいです!ありがとうございます」

ニコニコと笑う笹川京子と三浦ハル。…キャピキャピしてるなぁ、眩しい。やはり私に、この場所は合わないんだろう。

「…あの、真鶴さん」
「はい、如何しましたか?」

恐る恐る、といった感じで話し掛けてきた10代目。

「山本って、どうしてるかわかりますか?」
「…さあ、わかりかねますね」
「そう、ですか…」
「ですが、私に出動要請がないので無事ではあると思いますよ」

味噌汁がうまい。
食べ終わって食器を片付けると赤ん坊に話し掛けられた。

「おい真鶴。お前がヴァリアーの雲の幹部というのは本当か?」
「はい、そうですよ。まあ実質幹部の雑用係ですが」
「戦えんか?」
「…専門ではないので、ある程度ですが」
「そうか」

ニヤッ

…ニヤ?なにその笑顔。なんで笑ってんの、戦えないよ。私は戦えないからね。

「お前今日暇か?」
「いえ、
「このあと訓練室に来い」
「……………」

有無を言わせずじゃねーか。出そうになるため息を押し込んで、畏まりましたと頭を下げる。赤ん坊は10代目を連れて部屋を出た。私も女の子二人に、いる場所を伝えて私が必要なとき呼んでほしいと頼んで部屋をあとにする。…救護だといいな。


「…戦う?私と10代目が?」
「そうだぞ」

訓練室とかいう馬鹿広い部屋についたら開口一番、これだ。赤ん坊の後ろで10代目がオロオロしてる。

「私は他のヴァリアー幹部と違って名だけの幹部。弱いですよ」
「構わねーぞ。お前は"負け"なきゃいいんだ」
「!」

ルールはこうだ。今から30分、私と戦い、私を戦闘不能にしたら10代目の勝ち。10代目から身を守りつづけたら私の勝ち。…一見私に不公平なルールだが、要するに攻撃せずに守りに徹していれば良いだけの事。それなら得意分野だ。

「…わかりました。全力でお相手しましょう」
「ええ!?真鶴さん!?」
「これでも幹部ですし、簡単にはやられませんよ」

もしかしたら、彼はこちらに来て日が浅いし、私にも勝機があるかもしれない。

「で、でも!攻撃しない相手を攻撃するのは、」

…相変わらず、その優しさは健在か。

「でしたら、私をすぐにでも倒せば良いじゃないですか。迷う必要なんてないですよ。ほら、いきますよ」
「え!ちょ、待っ」

晴の炎で雲の炎を活性化。ヴァリアー指輪に炎を燈し、クロを開匣。増殖を開始する。

10代目は何か悩んだあと、額に火を燈した。そして、消える。…属性随一の推進力。はっきり言って目は追いついていないが、彼の性格的にどこに来るかなんて、わかる。

腰のホルダーから雲のナイフを取り出して、私の首を取りに来たであろう10代目に振りかぶった。

「な…!?」

…かすった。相手が怯んだすきにカラス達を特攻。

「く…!」
「…恐らく一撃で終わらせたい10代目は私を気絶させにかかる。でも流石に真っ正面からだと私が何をしてくるかわからない。なら、背後から首を打てばいい」
「!」
「属性随一と言われる推進力に、機動力は勝てません。ですが、予測をつけて避けることはできます」

パチンと指を鳴らして、爆発。

大したダメージにならないことは知ってる。だからこれはネタばらし。

「…くっ」

煙りの中て10代目がこちらを見ている。先程はああ言ったが、そもそも過去あのザンザスに勝ったのだから、私が勝てるわけがない。でも、

『…ぐッ!!』
『チッ…やっぱり攻撃に入ると隙が出来るなぁ…』
『……申し訳ありません』
『なら、いっそ守りに徹するのも悪くわねぇか…』
『…と言いますと、』
『相手が自分より強かったら、お前は自衛だけしてろぉ』
『しかしそれでは、』
『お前の救護能力と自衛能力は幹部全員買ってんだぁ。あのクソボスの相手できんのもお前ぐれぇだしなぁ…』
『!』
『とにかく、お前は俺達が駆け付けるまで生きてろぉ…そうしたら俺達が相手を消してやるからなあ!』
『スクアーロ様、』

徹底した防御体制。
私に求められたのはそれだけ。足手まといに他ならないのに、物好きな幹部達は時折私を任務に連れ出す。援護して、治して、守られて。ほら、場数だけは10代目より積んでる。

『ゔお゙ぉい!生きてるかあ!』

『ゆきー王子怪我したー』

『仕方ないから今僕が庇った分はツケにしとくよ』

『ゆきちゃーん、手伝ってほしいのよん』

『ゆきさん、ガス欠になりそうなら言ってくださいねーミー運ぶの面倒なんで』

『くっ…貴様の手を借りるなど…!』

『治せ』

…思い出せば思い出すほど足手まといだ。思わず苦笑して、手をかざす。

「突撃」

10代目の炎を受けて増殖するカラス達。攻撃をさせないよう、特攻させて爆発。この爆発で一時的に相手の炎を消し去ることが出来る。しかも雲の特徴である増殖で、10代目の炎を吸収してどんどん増えていく。私のカラスは部屋の半分以上を埋め尽くし、私を守るように壁を作った。

「ディーノが言ってたある一点はこれか」

部屋の端、傍観決め込んでた赤ん坊がそう漏らす。

「確かに攻撃力はないが、死ぬ気のコントロールが完璧だ。しかもただひたすらに守り続けることで隙がほぼねぇ。まさかとは思ったが、ここまでとはな」

…え。褒められてる?もしかして褒められてる?

「おいツナ、生半可な攻撃じゃあの防壁は崩せねーぞ」
「…わかってる」

10代目は額の炎を爆発させて構える。…あの構えは、確か、

「原理は球針体とほぼ同じ。個々のカラスが炎を吸収し、増殖する」
「…球針体、成る程。雲雀殿と戦ったんですね」
「弱点は、より純度の高い炎…」

同時に放たれたXバーナー。透き通ったオレンジ色をしている。

手をかざしてカラス達でガード。

「…くっ」

なんて熱量だよくそ!
純度の高い炎にあてられてカラス達はどんどん溶けていく。今は突撃してる衝撃で対抗しているが、

「はああああッ!!」
「…!!」

最後に押し込まれた。

「ぐあッ!!」

攻撃をもろに受け、吹っ飛ばされて壁にたたき付けられる。…久しぶりに大怪我だな。

「うぐ…」

重力で受け身も取れず床に落ちた。…痛い。最近は小さい怪我ばっかだったし。

「真鶴さん!!大丈夫ですか!?」
「…はい、生きて…ます」

身体のあちこちがジンジンと痛い。全身火傷と、打ち身…それから肋骨あたりが折れてそうだ。

「ツナ。マフィアは女に優しくするモンだぞ」
「なっ!元々はお前がッ!」

…10代目も大変そうだ。
両腕を無理矢理動かして匣を取り出し、開匣する。飛び出た大鷲。

「なあ!?でけー鳥!?」
「うるせーぞツナ」

「…イース、」

かすれ声で名を呼べば、了解したと言う風に鳴いた。口にいっぱいの炎をためて、一気に私へと吐き出した。暖かい炎が私を包み、治療する。

「ええぇ!?真鶴さん!?」
「よく見ろバカツナ。晴の炎だ」
「あ!」

表面的な傷を治して起き上がる。…痛っ、骨折とかって治しにくいんだよね。

「お前晴も持ってんのか」
「おかしな話ですが、雲より晴の方が強いですよ」

晴の指輪に炎を燈し、私より少し小さい10代目の頬にそえた。とっさのことで動けないのか、少し表情が固い。

「あの、」

優しく炎を流せば、10代目についた小さい傷は消えていった。威力はないとはいえ、一応爆発だからね。

「あ、ありがとうございます!」
「お気になさらず」
「これがお前がヴァリアーで生きている理由か?」
「そうですね。晴はルッスーリア様がいらっしゃっいますが、幹部に救護なんてさせられませんし。あとは幹部の雑用を私が全て引き受けているからだと思いますよ」

10代目から手を離して赤ん坊を見る。

「申し訳ありませんが、今日はこれにて下がらせて頂きます」
「別に良いが…さっきので回復したんじゃねーのか?」
「ガス欠です」
「早えな」
「夕食までにはなんとかするので、彼女達に手伝えず申し訳ないと伝えておいてください」

若干ふらふらしながら自室へ向かった。くそ…今日は朝から散々だ。

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