IV
「…いや、あの。スクアーロ様、流石に無理があると…」
「うるせぇ…これしかねぇだろ」
突然の襲撃を受けて不時着してしまった自家用ジェット機。ミルフィオーレの下っ端をスクアーロが殲滅すれば、ここから先は匣兵器で日本に向かうという。
「ならせめて私のイースにしませんか?」
「お前はすぐバテるだろうがぁ」
「……………」
それを言われちゃ何も言えない。仕方なくアーロの背鰭に捕まり、出発。顔にかかる海水がしょっぱい。手が離れそうになるとスクアーロが支えてくれた。…優しいな。
そのあと運よく日本の漁船に激突し、乗せてもらう事に成功。はっきり言ってただの不法入国者だ。陸に上がり、今度はイースに乗って並盛付近へ向かう。
「スクアーロ様、雨を」
「あ゙ぁ゙」
カモフラージュの炎を鎮静し、入口が見える。登録されている私の手をかざしてアジトに入れば、どこからともなく聞こえて来る不快音。
「…ミルフィオーレにジャックされてますね」
「チッ…あのアマチュア共があ!」
チョイスとかいうモノの事務連絡だという白蘭の声。急げというから人が居るだろう場所へ駆け出した。
「セキュリティがザルなんだぁ、アマチュア共がぁ」
「っあ!」
「てめーは!」
「スクアーロ!」
「それに真鶴さん!?」
通信室へ入れば、幼い10代目と守護者達がいる。跳ね馬に家庭教師だと紹介されたスクアーロは、雨の少年を殴る蹴る…痛そう。あ、歯まで飛んだ。
「…このカスは預かっていくぞぉ」
「え?そ、そんな……!」
「ここはスクアーロに任せるんだ。山本のことは俺たちよりも分かってる」
「治療しますか」
「いらねぇ…この程度で使えなくなるカスじゃねえ」
「では、何かありましたお呼び下さい」
「あ゙ぁ」
気絶した少年を抱えてスクアーロは通信室から出て行った。…あとは好きにしろか。このアウェーな状況に取り残されるのって結構きついんだけどな。
「メチャクチャだ…あんな暴力的なやり方…」
「10代目、スクアーロ様は鍛え直すとおっしゃっていたので大丈夫ですよ」
いざとなったら私が治すし。そんな気軽な気持ちで話し掛けたら、嵐の少年が物凄い勢いで私と10代目の間に入った。
「下がってください10代目!この女は10代目を殺そうとした奴です!!」
…あぁそっか。指輪争奪戦のすぐあとだっけ。
「あの時とは、状況が違いますから殺したりしませんよ。大体、私は貴方達を殺せる程強くありませんし」
保存用の匣を開け、スクアーロ曰くの"お土産"を跳ね馬へ渡す。
「?…マグロか?」
「お土産です。皆さんで召し上がってください。…さて、」
向き直ればこちらを睨みつける嵐と目が合った。無視して10代目を見る。
「貴方達が私を拒絶しようが何をしようが勝手ですが、今回の私の任務は貴方達の補佐です。何かありましたらなんでも私にお申しつけ下さい。できうる限りのことをさせて頂きます」
ペこりと頭を下げて通信室を後にする。がその前に。
「10代目」
「は、はい!」
「私はあの時…貴方を殺そうとした事を後悔したことはありません」
「んだとてめぇ!!」
「ご、獄寺君!落ち着いて!」
「では失礼します。いつもの部屋借りますね」
嵐の少年が騒いでるのを聞きながら、ドアを閉めた。このアジトに来ると使う部屋へ向かう。とりあえず風呂に入ろう。海水でベトベトだ。
真鶴さんが部屋を出て、獄寺君を宥めて…お兄さんから鉄拳を貰って。そんな一連が終わった後に、ディーノさんが言った。
「それにしてもすげーな、ツナ」
「え?何がですか?」
「ゆきだよゆき。スクアーロについてあいつもくるとは思わなかったな」
「…どういうことだ、ディーノ」
「ああそっか。リボーンも知らねーのか」
ディーノさんは少し居住まいを正して俺達を見た。
「ゆきはザンザスのお気に入りだ」
「ええ!?お気に入り!?」
「あぁ、本人達は否定してるけどな。もともとザンザスの付き人で、そこから欠番だった雲の幹部に昇格したんだ。元付き人だから戦えない幹部で、任務はもっぱら俺達とヴァリアーの伝達役。だから、戦いの最前線にゆきが来るなんて珍しいんだよ」
「…戦えない幹部、ですか?」
「そ。まあ弱者は消す、のヴァリアーにしては異質なんだけどな。でも、指輪争奪戦のあと、家光さんと9代目と俺とでヴァリアーからゆき隠して更正させてたんだけど…ザンザスのやつ、5年かけて迎えに行ったんだぜ?お気に入りだろ?」
「む、迎えに…?」
「意外だな、あのザンザスが」
「しかも戦闘系の任務にはつかせないし、外交だって同盟組んでる比較的親密なとこしか行かせてないみたいだしな。軽く箱入り状態だぜ」
「…ザンザスのお気に入りなら、やはり10代目のお命を、」
「あー獄寺。それはないわ」
「あ゙ぁ!?」
「あいつは戦えない幹部だ。能力は全体的に平均値で、本人も言ってたけどツナを殺せる程強くない。…ある一点を除いてな」
「…ある、一点って、」
「それはあいつと戦えばわかるって!」
ニカッと笑ったディーノさんはそれ以上何も言わなかった。
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