ナイフ | ナノ


III



頬に感じたざらざら感で目を覚ます。横を見れば、どアップのライオン。

「…ベスター」

舐められるこの起こされ方にも慣れてきた。喉を撫でれば気持ち良さそうに瞼を閉じる。炎が足りなくなると私の元へ来て炎を食べていくこのライオンは、活性の炎が好きらしい。

指輪を通し手の平に炎を燈して、ベスターへ。ガブリと甘噛してベスターは私の部屋から出て行った。

元々は小規模の収納スペースとして利用されていたこの部屋。幹部達は小さいというが…一人で寝泊まりする分には十分な広さがある。大体10畳くらいだろうか。幹部に昇格したことで新しく私に割り当てられた部屋だ。ちなみに家具はベッドとクローゼットだけである。

ベッドから起きあがり、着ていた隊服を脱ぐ。あー久しぶりに寝た気がする。しかも自室で。この屋敷も久しぶりだ。

ガス欠は私の最大の弱点だ。とにかく炎がもたない。それでも寝れば直ぐに回復する特異体質らしいが…とにかく炎が足りてない。今回私を運んだのはスクアーロか、ルッスーリアか…それとも機嫌の良いザンザスか。なんにせよ捨てられなかったことは喜ばしい。

軽くシャワーを浴びて、新しい隊服に身を包んだ。カツカツとブーツを鳴らし執務室へ向かえば、乱暴に部屋から出て来たスクアーロと目が合った。

「ゔお゙ぉい!!ゆき!!」
「は、はい、スクアーロ様」

思わずどもってしまったが、日本行きのジェットを用意しろとの命だった。畏まりましたと言えば、スクアーロはイライラしながら私の前から消える。

失礼しますと執務室に入れば、開口一番に名前を呼ばれた。

「ゆき」
「はい、如何しました?」
「肉」
「畏まりました」

変わらぬ様子でそう命じるザンザスに頭を下げて、入ったばかりの執務室を後にした。今日は…きっとマトンかな。

料理長に肉を頼み、日本に行くと言ったスクアーロにジェット機を手配する。あの様子だと一人だな。つーか日本のアジトの場所知ってんのかな?

「お。ゆきじゃん」
「これはベルフェゴール様、」

そんなことを思ってたら目の前に血だらけのベルフェゴールが現れた。…外傷はなし、全部返り血か。

「残党狩りですか」
「そ!お前も来いよ。指輪も匣も取り放題だぜ?」
「…その袋は全部指輪と匣ですか、大量ですね。ですが、私の仕事は救護ですので…遠慮します」
「なら王子の傷治しに来いよ」
「ベルフェゴール様に傷をつけられる残党なんて想像もつきませんね」
「ししし!まあ王子だしな。飯食ったらまた出かけるから手伝えよ。あとカエル殺して来い」
「…それは私に死ねとおっしゃってます」

終始楽しそうなベルフェゴールを見送れば、今度はカエル頭が目に入る。

「フラン様も残党狩りですか」
「ゆきさん起きたんですねーそうですよー。堕王子には負けましたけど」

そう言うフランの持つ袋にも沢山の指輪と匣がつまっていた。…あぁこいつら、どっちが多く殺せるかで競ってたな。戦闘狂め。

「ミーもランチ食べたらまた出かけるんです。あんな堕王子じゃなくてミーについて来て下さいよ」
「ですから、あなた方に救護なんて必要ではないでしょう。率先して足手まといにはなりたくありませんから遠慮します」
「じゃあ堕王子殺しといて下さい」
「…お二方とも仲宜しいですね」

フランは絵に描いたように嫌そうな顔をした。これはベルフェゴールに言ったら殺されそうな台詞だけどね。多少は攻撃避けられるようになったけど。

失礼しますと別れ、フランは談話室、私は執務室へと向かう。

自惚れじゃなければ、私は10年前のあの時と比べ、随分幹部達と仲良くなった。以前は廊下ですれ違っても私が頭を下げるだけで、向こうは無視。それが普通だったのに、今では良く話し掛けられる。5年前も、幹部全員で迎えに来てくれた。弱者は消す、その絶対的な理念において…私はすぐにでも殺されそうなのに。まあ私には私の利用価値があるからだと思うが。現に私以外の幹部付き召使は、月一レベルで死んでいく。

「あ、ゆき様。ザンザス様がお呼びです」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえ、失礼します」

ペこりと頭を下げる屋敷の使用人。機械的でまるで人形の様だ。あの子はどのくらい生きれるかな。気分だけで殺されるこの職場で。

足速に執務室に向かい、ノックを一つ。呼び出しが先程の肉の文句なら、殺される可能性もある。…心しなければ。

「失礼します。如何しましたか?」
「…………」

入って直ぐに机を確認。…よし、大丈夫。ちゃんと完食してる。いや…もしかして量が足りなかった?まさか付け合わせが気に入らなかったとか…

ズガンッ!

「……………」
「そんなんじゃねぇ」
「…左様で」

脳天目掛けて飛んできた弾丸を避ける。…話し掛ける為に銃は使わないで欲しいといつも思う。

「お前に任務だ」
「…私に、ですか」

任務、私に任務が来ることなんて滅多にない。というかほぼない。幹部の任務に連れまわされることならあるが。

「カスと共に日本へ飛べ」
「…スクアーロ様とですか、しかし…」

スクアーロと共にって言うのは別に文句はない。…でも、私がヴァリアーから離れる、だと?しかも結構な日数。とりあえず大勢の召使達が気分で殺されるのは確定だ。現にマーモンの長期任務について行ったあとのヴァリアー邸は悲惨だった。死体は流石になかったが、血溜まりが屋敷の至る所にあり、それらを一人で片付けたのは最早伝説級。大体今はただでさえ人手不足…私の仕事をやり慣れていない連中は真っ先に殺される…まずい…その帳尻合わせをやるの、私だ…まずい、働きすぎて死…

ズガンッ!!

「……………」
「鮫がてめぇを寄越せと言ってきやがった。日本のアジトはてめぇしか知らねぇだろ」
「…そうですね」

首筋に赤い線が入った。炎を燈して高速治癒。

「…晴はルッスーリアが居る。てめぇは日本のガキの補佐をしろ」
「!」
「…沢田綱吉は、俺がかっ消す」

…つまり、俺が殺すから他の奴らに殺させるなと…。成る程ね。

「畏まりました」

仰々しく頭を下げて部屋を出る。

「ゆき」
「はい」

ドアを半分開けた所で呼ばれた。

「弱いカス、使えないカス、飽きたカス。そいつらは勝手に死ぬだけだ」
「…………」
「てめぇに飽きたら、俺が消す」

その言葉に、目を開く。
つまりそれは、

「下がれ」
「…はい。お言葉、心しておきます」

バタンとドアを閉めて、荷造りをしに自室へ向かう。

勝手に死ぬな…か。思わず顔がにやけた。

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