ナイフ | ナノ


未来の記憶



夢を見た。
私がヴァリアーに戻り、ミルフィオーレとか言う奴らと戦う夢。指輪に炎を燈して、匣から大きな鳥を出して…空を飛ぶ。今から10年後の夢。それがただの夢じゃないってことは、ザンザスの様に超直感がなくてもわかった。

「…起きよ」

まだ寝たいと訴える身体を無視して起き上がった。私は今、家光が用意したマンションの一室に一人で住んでいる。配布された制服に身を包み、昼食の弁当を作って朝食をとる。

いってきますと、誰も居ない部屋に声をかけ、私は一週間前から通いだした学校へ向かった。

のどかな住宅街。今の時間は登校する生徒たちでいっぱいだ。あぁ、毎朝思う。この大勢いる生徒たちの中で、私だけが異色だと。

私から15mほど離れた位置にいる中年男性。あれは私の監視役。この一週間、数名がローテンションで私を見張ってる。でも私ごときに気づかれる監視というのはどうなのか。門外顧問グループは人手不足だな。

そう、私は気配に敏感だ。勿論、比べる対象は一般人。幹部連中の気配とかは読めないし。そして今、私に猛ダッシュで近づく気配がある。毎回恒例すぎて、溜め息が出そうだ。

「ゆき!おっはよ!」
「っわ!…もう、おはよ!」

バンと背中を叩かれ、驚いたフリをする。彼女は私がこの一週間で作った"友達"だ。人間関係は広く浅くのつもりで作る気はなかったが、できてしまった。学校まで他愛のない話をして、一緒に登校。二ヶ月前までの、私の日常だ。でも今は、少し苦痛に感じてる。

死ぬことのない平和な空間…誰も死を覚悟したことがない、する必要がない。危機感が欠如し過ぎてて、やはり自分が特異だと認識してしまう。そんな日常が、辛い。

学校につき、席に座りHRを待つ。昨日のドラマ見た?宿題やった?笑顔で会話に交じりながら、内心溜め息をついた。


「ねぇ、ゆき。聞いた?」
「どうしたの?」

三時間目と四時間目の間の休み時間。友達の彼女が私の席に来た。

「今、校門にすっごいイケメンの外人さんが来てるんだって!」
「へぇ、外人さんか」
「見に行かない?」

行かない。面倒臭い。なんて言えるはずもない。

「うーん…もうすぐ四時間目始まるし、やめとく!」
「えぇーじゃあ…ゆきが行かないなら私もいいや」
「行けばいいのに」
「じゃあ一緒に行こ!」
「パスー」
「けちー」

女子高生ならではの会話。目が合って、あははと笑い合う。…別に笑えないけど。自主性を持って一人で行動しろよ。面倒臭い。こんな場面がある度、自分やっぱり変わったなぁーって思った。

四時間目が終わり、昼休み。作ってきた弁当を広げようとしたら友達のあの子に学食に行こうと誘われた。断ってもよかったが、下手に孤立して家光に連絡されるのも御免で大人しく学食に向かうことにした。

「−−でね!−−−なんだよ!」
「へぇ。うん、それで?」
「で!で!−−なんだ!!」

なんというマシンガントーク。話題の底無し沼か。適度に相槌を打ちながら聞き流していると、女子生徒たちの塊に遭遇した。

「なんだろ?」
「さあ?」

友達は気になるようで、私の手を引き塊に近づく。女子たちの視線の先は、校門だった。

「あ!もしかしてイケメンの外人がいるのかも!行こうよゆき!…ゆき?」
「………………っ」

校門には予想外の人がいた。これだけ離れていてもわかる、この気配。私のことは家光と9代目が極秘に扱っていて、門外顧問グループの、ごく一部しか私の居場所は知らされていない。だから、彼等が私を見つけるのはまず不可能なはず。でも、あそこに居るのは、間違いなく…。

「!」

衝撃過ぎて動けずにいると、その人が私に気がついた。より掛かっていた校門からこちらに向かって歩いて来る。警備員の制止は無視だ。長い銀髪を揺らしながら、私の目の前に来た。

「よぉ゙見つけたぜぇ゙」

え!知り合い!?と喚く友達を無視して、仰々しく頭を下げる。

「お久しぶりです、スクアーロ様。怪我の方はもう、大事ないのですか?」
「当たり前だあ…てめぇとは鍛え方がちげぇからなぁ」
「そうですね」

ヴァリアークオリティか。なんでもアリだな。

「今、ベルがお前についてるハエを殺ってる」
「相手は門外顧問ですよ」
「関係ねぇなあ…こっちは9代目直属だあ」
「謹慎中と聞きましたが」
「ゔお゙ぉぉい…そろそろ黙らねえと三枚に卸す」
「…申し訳ございません」

短気は相変わらずのようだ。スクアーロが踵を返して歩き出したのでついて行こうとすれば、友達が私の手を掴んだ。…しまった、すっかり忘れてた。

「ね、ねぇ、ゆき!どういうこと!?この人は…
「お゙い。なんだぁ…そいつは」
「…ただの"友達"ですよ。お気になさらず」
「ねえ!どこ行くの!?まだ授業あるし…それに、ゆきなんかおかしいよ!?」

…おかしい、か。そうだね、私はおかしい。そんなことは、もう大分前から分かってる。

掴まれている手を解いて、友達に向き直る。

「…じゃあね、」

昔の私に良く似た人。もう戻れないし、戻らないから、さようなら。



−−−
続かない

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