IX
今夜は霧の争奪戦。マーモンが戦うのか、赤ん坊すげー。幹部は全員並盛中に向かった。私は観戦料が払えないので留守番。
しばらくして、暇だし仮眠でも取ろうかと思った矢先、執務室に備え付けの電話が鳴った。出ればレビィからで、マーモンが負けてトンズラしたから見つけたら殺れとの命令がザンザスから降ったそうだ。…赤ん坊とはいえ幹部に雑用係が勝てる訳無いだろ。
帰ってきた幹部達は皆機嫌が悪かった。ベルフェゴールが使用人を3人程殺し、ザンザスが一般人含めた5人を殺した。裏に片足突っ込んだ不良だったからもみ消せそうだが、処理が大変だ。ちなみに巻き添えを食ったらしいレビィはボロボロだった。更に私はと言うと、執務室でいつものウィスキーとつまみを用意してたらひっくり返されて殺されかけた。理不尽にも程がある。しかも死んだ分の使用人の仕事が増えたから馬車馬の様に働いた。なんて理不尽だ。
「…モスカが居ない」
そして遂に今夜が雲。私の運命が決まるのに、その主役のモスカが居ない。もうプログラムは組み終わってるから別に良いっちゃ良いが…最後にメンテナンスくらいはしておきたい。もうモスカのことはそれなりに知り尽くした。最終手段で強制的に呼ぼうとしたら目の前に鉄の固まりが突っ込んできた。
「キュンキュン…」
「…モスカ、」
どこに行っていたと尋ねる前に、その機械的な手の上に乗っているモノに気が付いた。
「、これはマーモン様」
「ムム、君か」
鳥かごに鎖がグルグル巻き付いたその中に、フードの赤ん坊がいた。…成る程、マーモン捜索命令があったのか。モスカの中の優先順位はザンザスの次に私に設定してあるから、ザンザスの命か。
「逃げ切れなかった様ですね」
「…うるさいよ」
モスカからマーモンを受け取り、執務室へ待機しているよう命を出す。赤ん坊はベルフェゴールに差し出そう。これ以上使用人殺されると困る。最終的に私が殺されそうだ。遊び相手が居れば多少は違うだろう。あのがきんちょ王子め。
「ねぇ」
「なんでしょうか」
「あの計画を実行するのは君なの?」
赤ん坊は聡い。何となく答えないではぐらかしといた。
そして、本番。モスカに乗って学校に着いた。…10代目候補が居ない。赤ん坊も。ヤバい。彼が居なきゃ始まらないのに…このままでは私が死ぬ。身体の震えを抑えながら前を向けば、ザンザスはとても楽しそうだった。目が合うと、自然と震えが止まった。
危険過ぎるフィールドの説明が終わり、試合が始まる。そして、号令と共に鳴り響く破壊音。…雲の少年、強っ。
負けることは想定してたが、此処まであっさりとは…でもこれで、暴走が…始まる。
雲の少年がザンザスを挑発し、珍しくザンザスは逃げるだけ。挙げ句に色黒姉さんによく見とけなんて言っている。…大根演技め。
そして、
「なんてこった。俺は回収しようとしたが向こうの雲の守護者に阻まれたため、モスカの制御が効かなくなっちまった」
暴走が始まった。
「ぶはーはっは!こいつは大惨事だな!」
無差別攻撃。向こうはこれが狙いかとか言ってるから、真の目的はばれてない。つーか、
「…死にそう」
勿論、私が。
無差別攻撃だからこちらにも弾が飛んで来る。考えてなかった。これで死にそうだ。
ベルフェゴールは松葉杖を器用に使いながら逃げている。私は平然と突っ立っているが、腰が抜けて動けないだけである。しかも下手に動いたら動いたで死にそうだ。
周りを見れば、霧の少女が倒れ二人の少年が助けていた。でもそこに向かって、モスカの暴走弾が飛んでいた。…うわ、あの子達、死んだな。
「…来たか」
と思ったら、額から炎メラメラの10代目候補が飛んで助けた。すげぇ空飛んでる、と思ってたら私も飛んだ。私のいたところが爆発する。上を見れば、私の襟首を掴んだザンザス。…助けてくれた?そんな馬鹿な。
「…だが、カスから消えていくことに変わりはねぇ」
どこまでも冷めた目だが、私には笑っているように見えた。
暴走したモスカは標的を沢田少年に定め、突っ込んで行く。落ち着き払った沢田は両手に炎を宿し、モスカに向かった。
「よく見てろ」
「…はい」
目を逸らすことなど許されない。止まらないモスカを壊していく沢田少年を、ただただ見つめた。
そして、
「中から人が…!?」
ザンザスの口が大きく孤を描いた。
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