副会長 | ナノ



真夏の日々



じめじめとした梅雨の終わった初夏。7月。今年も忌ま忌ましい夏がやって来る。

「…………」

私は夏が嫌いだ。サンサンと輝く太陽。びっくりするくらい暑い日々。書類は汗で腕に張り付くし、もう嫌なことしかない。私は大の暑がりだ。でも汗が人より出ないし、熱さで騒いだりしないため(暑いと騒ぐ方が暑いからだ)、よく涼しそう等と言われる。よく考えて欲しい。汗が出ないということは、新陳代謝が悪いと言うことだ。つまり、身体の中で本来分泌されなければならないものが、身体の中を巡回していることになる。ようするに熱中症になりやすい。私の場合たちが悪く、暑さが顔に出ないため、いきなり倒れたりすることが多々ある。

というわけで私は夏が大嫌いだ。

「おはようございます。浅見さん」
「天霧さん、おはようございます。」

私の夏についての脳内討論が一段落したところで、生徒会室に天霧さんがやってきた。おはようと言っても今は昼休み。私はクーラーのきいた生徒会室に逃げ込んで居るのだ。

「昼休みまでここにいなくてもよろしいんですよ?」

私の手元にある書類を見ながら、天霧さんは言った。…多分私が昼休みまで仕事をするいい子ちゃんだと思っているらしい。私は涼みに来ているのであって、仕事はあくまで"ついで"なのだが。

「いえ、涼しくて快適なので、ここに居るだけですよ。ただ居るだけでは申し訳ないので書類に目を通しているんです」
「そうですか」

天霧さんは少し笑いながらそう言い、会長の机にあった書類を持って部屋から出て行った。

「………」

会長のお使いか。さっきの書類は確か夏休みにおける生徒会の活動日をまとめたもののはず。…どこかに出かけるのかな?

そんなことを考えていると、

ピンポンパンポーン

[1年浅見楓、至急職員室に来てくれ]

呼び出しがかかった。

「………」

今のは土方先生か。何の用だろう。

私は部屋から出て、職員室へ向かった。



「来てもらって悪いな。本題に入るが…10月の体育祭に向けて備品の調査をしなきゃならねぇ……だが、どっかの馬鹿がやり忘れやがってな。明日までに体育倉庫の中の備品が使用できるか調べてくれねぇか?」

要約するとこんな感じ。
一週間前、永倉先生に頼んだが永倉先生はすっかり忘れていたらしい。しかも今日は永倉先生の研修日。使えない備品があったら明日までに注文したいらしいので私に頼んだそうだ。

「…本当は俺や原田辺りがやらなきゃならねぇんだが…」

今は期末試験前。先生達はテスト作りや、勉強のわからない生徒の対応に追われているんだろう。

「風間と不知火は働かねぇし、天霧は天霧で急がしそうでな…悪い。浅見にしか頼めない」

苦悩に歪んだ顔で、土方先生はそう言った。

確かに私は女子の学年1位で、勉強面では余裕があるし、先生が動けない以上、生徒会が動く…というのも納得がいく。まあ生徒会メンバーは私以外まともに動かないし。

「わかりました。5限なんですが、休んでも構いませんか?」
「公欠扱いには出来るが…大丈夫か?」

普通試験前に授業を休むことは賭にも等しい。だが問題ない。

「原田先生の授業なんですが、もう範囲は終わっているそうなので、次の時間は自習なんです。早く終わらせた方がいいんですよね?」
「そうか、悪いな。原田には俺から言っておく」

生徒会の仕事はさっきの時間に終わらせてしまったし、自習は暇だ。だから私はそれをこころよく引き受けた。



が、
今絶賛後悔している。

「…暑い」

考えればわかることだ。
炎天下の中、粗末なプレハブ小屋が暑くないわけがない。尚且つ…

「臭い…」

体育会系の独特の汗の臭いが、蒸し暑さと複雑に混じり合い、ハーモニーを奏でている。自分で言うが…この例えもかなり気持ち悪い。

「はあ………、よし」

嫌なことは早急にやる。
私は少しでも涼しくしようと腕まくりをしてから、体育倉庫を見渡した。



「…よし、これもよし…」

暑さにも慣れてきた頃、ようやくリストに終わりが見えてきた。というか、これはあきらか女子生徒一人にやらせる量ではない。

まあ特に使えないものはなかった。玉入れの網が緩んでいるくらいで、軽い手入れで使えるものばかりだった。最後は大玉の点検。もう空気が入っているから膨れている。……体育祭は10月なのに、7月から空気を入れていいのだろうか。とりあえずポンポンと叩いてみる。…よい張りだ、多分。全部で三つあるうち、手前の二つを調べ、奥にある最後の一つに手を伸ばす。

その時…


「あ…」

ばったーん!と足元にあったマットに気づかず、私はこけた。

うわ…臭い…。

マットの臭いは強烈で、急いで立ち上がると……世界が反転した…。


クルクルと、世界が回る。


ああ…暑さに慣れたと思ったのは…感覚が麻痺してたからか…

そんなことを思ったあと、私の意識は闇に沈んだ。



「………?」

目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。薬品の臭いもして、ここが保健室だと理解する。…ああやっぱり倒れたのか、と他人事の様に思いながら、横を向くと、

「起きたか」

ベッドの横の椅子に座っていた会長と目があった。

「!?」

私は驚き、起き上がろうとするが、クラクラと目眩がして起きれなかった。

「安静にしていろ。軽い熱中症らしい」

会長はいつもの口調でそう言う。

「はい…」

どうして会長がいるのか、私を運んだのは会長なのか、聞きたいことがありすぎて、私はただただ困惑した。

「全く貴様は…生徒会の仕事を放り出してどこに行ったかと思えば、土方の使いなどしているとは…」
「…すいません」

いつも放り出しているのは会長なんだが、まあわざわざ言うことではない。

「今日は帰れ、車を用意してやる」
「あ、でも土方先生に報告しないといけないので…」
「……そんなものは不知火辺りにやらせておけ」
「いや、それは…」

会長はそんなのお構いなしで話を進めてしまう。

「…元々それは貴様の仕事ではないはずだ」

それでも私がしぶっていると、会長は苛立ったようにそう言った。

「でも私は引き受けましたし…不知火さんに報告を頼むのは不安が…」
「はあ…」

ため息をつかれてしまった。でもため息までかっこいいってどういうことだろう。

「わかった…土方にはこの俺が報告してやる。調度言ってやりたいこともあるしな」

え…?

「いや、それは駄目です。会長の手をわずらわせるわけにはいきません」
「貴様をあの倉庫から運んだ時点ですでに俺の手をわずらわせている」

あ、やっぱり運んでくれたの会長なんだ。ちょっとうれしい……じゃなくて

「これ以上わずらわせるわけには…」
「いいから言うことを聞け」
「…はい」

有無を言わせぬ声音と視線で、私は本能に従い頷く。会長はベッドの脇にあったリストを手に持ち、立ち上がった。

「貴様に倒れられると気分が悪いからな」

「!」

会長はそう言って保健室から出て行った。

多分仕事的な意味だと思うけど、やっぱりうれしいことには変わりなくて、私は静かに笑った。



−−−
ちー様の土方さんに言ってやりたいことは、おそらく楓ちゃんを勝手に使ったことに対する文句です。

人を物扱いしてます。
主人公もそれでいいと思ってます。

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