幕末の日々2
少しずつ信用されてきたのか、この間ついに外出が許可された。でも今の京都、いや京は浪人が多く、治安が悪いそうだ。護身用に不知火さんに銃を持たされたが、はっきり言って物騒過ぎて使えない。一般人が持っていいモノじゃない気がする。
天霧さんに貰った食費を手に、いざ買い物へ。京都の飯は美味いが味が薄い、前に不知火さんが言っていた事だ。どうやら頭領立ちは、西と言っても九州の出身だそう。なるほど、薄いのか。
ひょんなことから台所を任されたのはつい先日。用意された食材を調理していくのだが、なにぶん同じ食材だと私の技量ではレパートリーがまるでない。料理は上手い訳ではなく、あくまで普通だ。まさに家庭料理の名が相応しい。しかも西洋系、パスタなどが無いため、更にレパートリーがなくなっていく。まあやれるだけのことはやっていくつもりだが。
「そこの菜っ葉下さい」
みそ汁はこの菜っ葉を使って、焼き魚の付け合わせには大根おろし…葉っぱはお浸しにでもしようか。あと二、三品欲しいな。
先程のお店を後にして、そんなことを考えながら次の店へ。
「待ちな、嬢ちゃん」
と思ったら、如何にもワルです的な風防の人達に声をかけられた。数は三。
「随分羽振りがいいじゃねぇか。その金、俺達勤皇の志士が有効に使ってやるから寄越しな」
成る程。要するにただの追いはぎか。あぁこの時代の天皇様も可哀相に、こんな人達に名前を使われるなんて。
それにしてもどうするか。護身用の銃は使える気がしないから持ってきていないし、かといって買った食料及びお金は天霧さんから預かった大切なものだから譲れない。
「…おい、嬢ちゃんさっさとしろな」
反応の薄い私にイライラし始めたのか、三人とも鞘から刀身が見えている。流石にまずいかもしれない。そう思ったときだった。
「おいおい、女一人に男三人は無粋じゃねーか?」
聞き覚えのある声。反射的に振り返れば、見慣れない服を着た見慣れた人がそこにいた。
「ありがとうございました」
「気にするな、これも仕事だからな」
三対一。そんなハンデもものともせずにその人はあの人達を倒してしまった。
「今の京は物騒だからな、女の一人歩きは危ないぜ」
「そのようですね」
少し雑談をしながら不自然に思われない程度で顔を盗み見る。…似ている。すごく似ている。原田先生に。
「ん?俺の顔になんかついてるか?」
「いえ、整った顔をしているなぁと思い…すいません」
「あぁ気にするな、良く言われるから」
頭領達と出会った時の経験から、この世界で無闇に向こうの世界の態度を取ることは死期を早めることだと学習したので、あくまで顔に出さないよう平常心を心掛けた。大丈夫、無表情は私の標準装備だ。
「おーい!さのさーん!」
「待って!平助君!」
そこにまたもや見慣れた人達が。…藤堂君に千鶴ちゃん。男の格好をしているので南雲君かとも思ったが、纏う雰囲気的に千鶴ちゃんだろう。とっさの出来事で動揺が顔に出そうで怖い。これはさっさと退散したほうが身のためだ。
「ったくー急にいなくなるから探したぜ、さのさん」
「わりぃな平助、浪人に絡まれてたのを見つけちまってよ」
「あ、そうなんだ」
ちょうど会話が一段落したので改めてお礼を言い、その場から退散した。
宿に帰ると頭領達が勢揃いしていた。まずい、さっさと夕飯の準備をしなければ。
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