卒業の日々 2
何も言わず私を睨むのは沖田先輩。ああ…面倒な人に会ってしまった。
何事もないように会釈をして通り過ぎようとしたが、腕を捕まれて断念。そのまま連行され、あれよあれよついたのは屋上だった。
バン!という大きな音と共に壁に追い詰められる。これで二人が恋人同士だったら甘い雰囲気も流れたかもしれないが、生憎私達はそんな関係ではない。甘い雰囲気どころか、険悪ムードだ。
「何その顔」
お互いを睨みながら沖田先輩が、開口一番にそう言った。
「僕が何をやってもそんな顔したことないのに…本当に君はイライラするなあ」
私は何も言えず視線をずらす。
「前にも言ったけど、その献身的な愛情って奴がイライラする。君は風間をどう思ってるの?卒業するから何?ああ本当にイライラする。僕が何をやっても表情を変えないのに、たかが卒業ってだけでその低落はどういうこと?」
「…私は、」
「君はいつも無表情で、何を考えてるのかわからないのが売りでしょ」
「…売りって、」
「それが今は何。風間が卒業するから何んなの」
「…………」
…確かに、それはそうだ。
私はあの人の彼女でもなんでもない、ただの副会長。会長には好きな人がいるし、婚約者だっている。
「君は風間の幸せがあればいいんでしょ、留年から卒業出来るんだから良いことだ」
そうだ、会長が喜ぶならそれでいい。卒業は良いことだ。
「それなのに君は珍しく挙動不審」
感情をどこかに置いてきた女。生まれて16年、そう言われ続ける私が挙動不審。
「…君は、何がしたいの?」
私は、何がしたいんだろう。勝手に応援をして、勝手に落ち込んで…忙しい生徒会の仕事をせっせとやって。
全ては、会長の…………ああ…そうか。きっと私は、
「…あの人の、"特別"になりたかったんですね」
暇過ぎる学園生活。
飽きて目についた張り紙。
会長を観察して、いつの間にか惹かれていて。副会長として関わって…お茶をいれたり、恋のサポートをしたり…ささやかな関わりだけで満足だった。会長が喜ぶなら、私なんてどうでもよかった。
でも、人はどんどん贅沢になる。
だから、婚約者がいることにだって動揺したのかもしれない。
どこかで甘い煩悩に躍っていた。
恋の手伝いだって…叶わない恋だからと、悲劇のヒロイン気取りで自分に酔っていただけかもしれない。
私は、
「会長の副会長で居られなくなるのが、嫌なんです」
会長の補佐役が副会長。会長との関わり全ての原点であり、会長と物理的に一番近い役職。
生徒会のメンバーで、他の生徒たちとは違う…私だけの"特別"な役職。
会長が卒業したら、なくなってしまう。
ただの子会社の娘…バイトだって、郵便ですんでしまう。
"特別"な繋がりが…なくなってしまう。
私は、それが嫌だったんだ。
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