卒業の日々
冷たい冬の暴風と、春の暖かいそよ風が入り混じる…3月。
薄桜にも、別れの季節がやってきた。あの沖田先輩も卒業だ。嬉しいような淋しいような…複雑な気分。
卒業式やらの準備で生徒会はてんてこ舞い。何度も言うが、働いてるのは私だけ。今までは一体どうやっていたんだろうと、真剣に悩む所だ。先生達が頑張ったのか?
カタカタとパソコンに打ち込んで書類を作成する。バイトで頂いたパソコンだけど、これのおかげで生徒会の仕事の効率も上がった。パソコンってすごい。使いこなせるまで苦労したが。
「…おわりっと」
カタン!とエンターキーを打てば今日の仕事は終了。すっかり冷めたお茶を飲み干し、帰路につく。
夕暮れの道。校門を出てすぐのところで、不良を引きずる天霧さんがいた。…引きずられてる人は意識がないようだ。
「お疲れ様です、天霧さん」
「ああ浅見さん、お疲れ様です」
何をしているのかを聞けば、浮足立っている不良の沈静に回っているとか。不知火さんも見回りをしているらしい。
卒業シーズンになると、不良達は卒業生に対して下剋上を行うのが通例で、それはうちの学園も例外ではないそうだ。うちのトップは天霧さんや不知火さん、二人とも強いが全てを相手するのも大変らしい。天霧さんは苦笑いを浮かべている。
「大変ですが…それは貴女もでしょう。私達は生徒会の方を貴女に丸投げしてしまっています」
「私は大丈夫ですよ」
「あまり無理をしないように。来年度からは我々もいませんし」
「大丈夫です。無理はしません…よ……え?」
…ちょっと待って。
「? どうかしましたか?」
「いや…あの、来年度から、いないって…」
「えぇ」
「卒業、するんですか…?」
「はい。もしや…風間や不知火から聞いていませんか?」
「…はい、特には…」
「それは…そうですか…連絡が遅れて申し訳ない」
「いえ…そうですか。ご卒業おめでとうございます…」
「ありがとうございます」
失礼します、と無理矢理話を終わらせて、そそくさとその場を去る。思わず触った自分の頬…私はいつもの無表情だっただろうか。声は動揺してしまったが、表情まで出ていないだろうか。
卒業。会長が卒業する。…いや、本来ならとっくに卒業しているべき年齢だけど。
卒業か。
万年留年。だからきっと、まだまだいると思ってた。…まさか、もういなくなってしまうなんて。…私は、どうすればいいんだろ。
…いや、普通が一番だ。私は会長にとってただの一般生徒。普通に、いつも通りに送り出せばいいんだ。そうだ、それが一番良い。大丈夫。いつも通り…私の得意分野だ。
「…お前、大丈夫か?」
卒業式の前日。いつも通り生徒会室で雑務に追われていると不知火さんにそう聞かれた。
「大丈夫ですが、どうかしましたか?」
「…その書類、上下逆」
「…………」
何と言うベタな凡ミス。
「浅見」
「はい、何か御用ですか?」
「それ、俺の湯呑み」
「…………」
「…浅見」
「…はい」
「…良いづれーけど、セーター裏表逆」
「…………」
「浅見…」
「…はい」
「−−−−−−」
「…………」
…………………………。
……………………。
………………。
「…お前本当に大丈夫か?」
「…はい、大丈夫です。原因はわかっているので」
最悪だ。何がいつも通りだ。自分の動揺さ加減に腹が立つ。
「…明日で俺らも卒業だし、あんまり…
ガタンッ!ガラガラ…
「…気負いすんなよ」
「…はい」
最悪だ。卒業って言葉で棚ひっくり返すなんて。…ああもう。全くもって平然でもなんでもない。私はこんなにもメンタル弱かっただろうか?ああ…考え出したらお腹まで痛い気がしてきた。
「…おい浅見、大丈夫か?顔色まで悪いぞ?」
「…保健室に行ってきます」
「お、おう」
顔色が悪い…あまり顔にでない私の顔色が悪い…。ああもう。
人の減った廊下を歩く。効果音をつけるならばトボトボ。歩くのさえ億劫になってきた。
「…………」
「…………」
そんな時に限って、面倒な人に会うものである。
−−−
クライマックス…かな?
続きます
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