菓子の日々−WD
3月14日、今日はホワイトデーだ。
今日もまた、学校はチョコ独特の甘い香りに包まれている。…モテる男の子はチョコを返すのが大変そうだ。
今は朝の登校時間。
私は人の波と一緒に登校している。
あ。そういえば天霧さんからの話だと、会長は千鶴ちゃん以外のチョコを使用人にあげたらしい。まああの量は一人で食べれないよね。私の既製品チョコも使用人さんのお腹の中か。
ん?校舎の影から原田先生が手招きしてる。来いってことか。
私は人混みから抜け出して原田先生の元へ。
「おはようございます。原田先生……っと永倉先生」
後ろには永倉先生もいた。…気づかなかった。
「ああ、浅見、おはようさん。これ、ホワイトデーのお返し」
「ありがとうございます」
「土方さんに見つからないようにな」
「はい」
オシャレな包装のされた小さな箱。…この人女子力高いな。
「…どうした?俺の顔になんかついてるか?」
「いえ、いつも通りです」
しまった。見すぎてしまった。
「おい、浅見!これ俺からな!」
「ありがとうございます」
永倉先生から渡されたのは、茶色い小包。…まるでパチンコの景品のようだ。…失礼とは思いつつ中身を確認…あ、原田先生見ないでください。
「…………」
「…………」
中身は、お菓子の詰め合わせ+タバコだった。…まさか本当にパチンコの景品なんじゃ…ていうか、この人ホントに先生なのか…。
「すげえだろ!それだけ当てるの大変だったんだからな!」
あぁ、やっぱりパチンコの景品ですか。
「おい…新八…」
「ん?どうした左之…ぐはっ!!」
「どこの世界に教師がパチンコの景品を生徒に贈る奴がいるか!!しかもタバコまではいってんじゃねぇか!!」
「お、おちつけ!左之!!こんだけ当てんの大変なのお前知ってんだろ!?」
「問答無用だ!!」
「ぐふっ…!」
「…………」
賑やかだ。
私はその場を後にした。……タバコは後で不知火さんにでも渡そう。
そのあと同じクラスの南雲君と藤堂にチョコを貰った。南雲君は面倒そうに斎藤先輩からのチョコも渡してくれた。…風紀委員も大変だ。
昼休み。土方先生に呼ばれてた千鶴ちゃんが私の元にきた。
「楓ちゃん!これ土方先生からのチョコレート、他の生徒にばれないようにだって!」
「ありがとう、わざわざごめんね」
気にしないで。と千鶴ちゃんは可憐な笑顔を私に向ける。…私が男だったら落ちるな絶対。何んだろうこの、同じ女とは思えない違い。
そういえば千鶴ちゃん、もう一つプレゼント持ってたな…白に金と銀のリボンのついたキラキラしたやつ…。
白と
金と
銀……
ああ。
会長…ちゃんとお返し渡したんだ。よかった。
放課後。生徒会室に行く途中で、天霧さんと不知火さんにあった。
「バレンタインデーはありがとうございます。これはお返しです」
「ありがとうございます」
「これからも生徒会をよろしくお願いします」
天霧さんは私に軽く頭を下げて去って行った。…なんか絵になる。学ランじゃなければもっとかっこいいだろうに。
「浅見」
名前を呼ばれ振り向くと、不知火さんは板チョコを差し出していた。
「チョコの返し。朝まで忘れちまっててよ、購買で買った奴だが…まあ、やる」
不知火さんらしい。
「ありがとうございます、私板チョコ好きですよ」
「お、そいつぁよかったぜ。じゃあな」
「あ、待ってください不知火さん」
「あ?」
「これ、貰ってくれませんか?私未成年なんで」
私は永倉先生から貰ったタバコを不知火さんに渡す。
「おいおい、タバコじゃねぇか!ありがてぇ…最近天霧の旦那がうるさくて吸えやしねぇからな」
「喜んで頂けたならよかったです」
そうして不知火さんと別れたあと、私は目的地を目指す。
さてと…これで私が貰うべきチョコは貰った。…え?沖田先輩?あの人なら…、
『ホワイトデーなんていつ渡しても同じだよね』
とか言って昨日のうちに渡してくれた。…まあ彼も千鶴ちゃんには今日渡したんだろうけど。会長も千鶴ちゃんに渡せたみたいだし、いいホワイトデーになったな。
そんな事を思いながら着いた生徒会室。
コンコン
軽いノックをして入る。
「失礼します……………あ」
中には会長がいた。……いや、いて当然なんだけど。
何と言うか夕日が窓から差し込んで、会長の黄金の髪を照らしてて…何と言うか幻想的だ。もともとどこか人間離れしていた人だったけど…神々しい…なんて言葉がよく似合うのは、この人くらいだと思う。
「…どうした、突っ立ったままでは気が散る」
あ、しまった。
「すいません、少しぼーっとしてしまいました。すぐにお茶の用意をします」
「…ああ」
荷物を自分の机に置いて、給湯室へ急ぐ。
…失敗したな。すごくかっこよかった。時間が止まったみたいってまさにこのこと。
「お茶、置いておきます」
さっさと頭切り替えて仕事をしよう…。
「浅見」
!
「どうかしましたか、会長………!」
名前を呼ばれ振り向くと、会長が何かを差し出していた。よくよく見るとそれは…、
「おい、早く取れ」
「あ、はい」
渡されたのは、金と銀のリボンがついた小さな白い箱。…そう、千鶴ちゃんが持っていたものと同じものだ。
「…会長…これは…?」
「貴様くらいだ、この俺に安物の既製品を送ってきたのは」
「!」
…じゃあ、やっぱりこれは。ホワイトデーのお返し…?
あ。でも、
「…どうして私だと?千鶴ちゃん以外のチョコは使用人に差し上げたんですよね」
私がそういうと会長は少しいらついたように悪態をついた。
「…中身ぐらいは見る」
ああ、成る程。
「でもよくわかりましたね、私名前書かなかったのに…」
その質問で会長はさらにいらついたようだ。
「…貴様は、この俺が己の部下の字もわからない奴だとでも言うつもりか?」
「…すいませんでした」
整った顔で睨まれるとこわい。会長だと特に。確実に殺気でてる。
まあそんな事は置いといて。
会長…私の字、覚えてくれてたんだ。
どうしよう。すごいうれしい。…きっとバイトとか生徒会の書類で目に入るだけだと思うけど、うれしい。
「なんだ、急に黙るな」
「…すいません、頂けると思ってなかったので…ありがとうございます、会長」
「ふ…まあいい。そこをどけ、俺の用事は終わった」
「あ」
会長はそういって部屋からでていった。
「…………」
『そこをどけ、俺の用事は終わった』
…それってつまり、私にチョコを渡すために残ってたって事?
…………。
自分の顔に熱が集まる。
「…これは反則だ」
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