宴会の日々 2
「それにしても貴女が楓ちゃんだったのね、千鶴ちゃんから話を聞いてたから話してみたかったの!」
「うん、私も千ちゃんと話せてうれしいよ」
私を助けた美少女は千姫というそうだ。家が古い名家らしく、使用人に姫様とも呼ばれるとか。私もそう呼んだ方が良いのかと思い様付け敬語で話していたら、千でいいと言われ、千ちゃんと呼んでいる。
千鶴ちゃんの友達という千ちゃん。私が薄桜学園の制服を着ていたからてっきり千鶴ちゃんだと思ったらしい。類は友を呼ぶというが…美少女は美少女を呼ぶのか。
「でもよかった、楓ちゃんが居て」
「え?どうして?」
千ちゃんは心底嫌そうにため息をついた。
「毎年毎年、このつまんないパーティーに呼ばれて…まともに話が出来るのは天霧さんだけなんだもん。でも今回は女の子と時間つぶせるからね」
千ちゃんは中々面白い事を言う。女の子なら先程私の周りにたくさんいた筈だ。
「さっきのお嬢様方は?」
「…あの子達は、どうせ風間の財産目当てよ。って、楓ちゃん!あの子達に何かされなかった?」
「え?別にされてないよ」
「そう、よかった」
ひとまず安心、という様子で息をはく千ちゃん。でも私はお嬢様方に何をされても文句は言えないだろう。やっぱり私みたいな庶民に、ここは場違いだ。
「…きっとお嬢様方は制服姿の私を見て、会長の品位が下がると思ったんだよ。私すごい場違いだし」
私がそう言うと、千ちゃんは首を横に降る。
「違うわよ。あの子達は正式に招待された貴女が羨ましいの」
「…え?」
正式に招待…?私が?
ならお嬢様方は招待されていないのだろうか?
「これは元々、風間が身内とか親しい家だけ集めたパーティーだったのよ。でもいつの間にかそれが広まって、私や風間と関わりを持ちたい家が押しかけて来るようになったの……でも追い返す訳にもいかないし。そういうわけだから、ここは私服が正装なのよ」
「…………」
成る程。ようやく状況が読めてきた。でもお嬢様方も可哀相に、私には構う価値もない。だって私は、
『後で風間に茶を持って行ってあげてくれませんか?』
ただのお茶くみ係だ。まあ会長に必要とされているならなんでもいいけど。
それにしても…いい加減会長に挨拶しに行かなければ。でもこの広い会場で、私は会長の姿すら見ていない。天霧さんにも頼まれたし、お茶をおいれしなくてはならない。
「あのさ千ちゃん。会長がどこに居るか知ってる?」
「風間?うーん…わからないなぁ……あ!お菊!!」
私の問いに千ちゃんは少し悩み、ちょうど通りかかった黒髪美人さんを呼び止めた。
「あぁ姫様、何か?」
着物を着ているが純日本人だろうか?背も高く、グラマーだ。自分の貧相な体が泣いている。
「風間がどこにいるか知らない?」
「風間ですか…ああ、あの方なら、先程テラスに出るのを見ましたよ」
「ありがとう、お菊。だって楓ちゃん」
「うん、ありがとう千ちゃん。あの、ありがとうございました」
私は千ちゃんと、お菊さんと呼ばれる人にお礼を言った。
「いえ、構いません。姫様をどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ、お世話になります」
そう、ぺこりと頭を下げて二人と私は別れた。
後で聞いた話だが、お菊さんは君菊さんと言うそうだ。千ちゃんの側近らしく、忍びの末裔だとかなんとか。…あのプロポーションで純日本人…なんだか悲しくなった。
二人と別れ、テラスで会長の姿を確認したあと、私は給湯室へ向かっていた。うろうろとしてみるが見つからない。しかも時々お嬢様方に足を踏まれたり、睨まれたりした。…そんな目の敵にしなくても、私は大層な人間ではないですよ。そんな視線を返しておいた。
にしてもこれでは非効率。千ちゃんに給湯室の場所を聞いとけばよかったと絶賛後悔している。
「はあ…」
思わずため息が出た。
「…浅見さん?」
「あ、天霧さん」
急に大きな影が見えたと思ったら、目の前に天霧さんが現れた。これはちょうど良い。天霧さんに給湯室の場所を聞こう。
「どうかしましたか?」
「実は会長にお茶をお持ちしようと思ったんですが、給湯室の場所がわからず…」
「ああ成る程、こちらですよ。私の後について来てください」
「ありがとうございます」
なんとか給湯室に辿り着けるようだ。私は天霧さんの後についていく。
「ああそういえば、先程千姫と居るのを見ましたが、」
「千ちゃんですか?」
「えぇ。お会いしたいんですが、まだ挨拶もしていませんから」
挨拶…?そういえば千ちゃんと会長ってどういう関係なんだろう。
『これは元々、風間が身内とか親しい家だけ集めたパーティーだったのよ』
身内…親族なのだろうか?いとことか…?確かに纏うどこか神々しい雰囲気は似ているかもしれない。
「あの、天霧さん」
「何ですか?」
「会長と千ちゃんってどういう関係なんですか?」
「ああ、貴女は知りませんでしたね。千姫と風間は、」
「許婚です」
サラっとでたその言葉は、
「…え?」
私に鈍器で打たれたような衝撃を与えた。
−−−
本当は、お嬢様方にいじめられてるのを会長が颯爽と助けに来る…っていうの王道をやりたかったんです。
1月にやります。多分。
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