副会長 | ナノ



宴会の日々



期末テストが終わり、冬休み直前となった学校で、

「お、こんなとこに居やがった。行くぞ」

「え?」

私は、拉致された。







黒塗りの…いかにも高級です、という車に乗らされて着いたのは、まるで城の様な場所。

ぼけーっとしている私を尻目に、私を連れて来た張本人である不知火さんは、何でもないようにずかずかと城に向かって行く。

…私は生徒会の用で学校に残っていたのだから勿論制服だし、不知火さんは不知火さんで恐らく私服だと思うが、ラフ過ぎて…はっきり言ってこの城の様な所では場違いだ。

「…おい、早く来い。お前だけじゃ入れねぇぞ」

「あ、はい」

駆け足で不知火さんに近づき、正門だろうか、大きな門をくぐって中へ入った。広い広い大きなシンメトリーの庭を抜ければ、本場顔負けな社交界が開かれている。

「……………」

どこの国ですか、ここは。

きらびやかなドレスを身に纏った淑女に、タキシードを優雅に着こなす紳士。天井には大きなシャンデリアがキラキラと光っており、その下のテーブルには豪勢な料理がところ狭しと並んでいた。

完全に場違いな制服姿の私。不知火さんは慣れているのか、例えラフな格好でも雰囲気にのまれていないというかなんというか。

「あの、不知火さん。これは…?」

自分がどうしてこんな場違いな所に連れてこられたのか、ようやく頭が働き出した私は、そう不知火さんに切り出した。

「風間主催のクリスマスパーティー」

面倒そうにそう答える不知火さん。

「会長主催の、クリスマスパーティーですか」

確認の為、一度復唱。段々と頭が冴えてきた。

「でも、私が来てよかったんですか?私、制服ですし…」

といっても礼装なんて持っていないが。

「いいんだよ、風間が主催者なんだから。大体俺だって私服だ。着飾ってる奴らが場違いなんだよ」
「…そう、ですか」
「ほら、飯食うぞ」

そう言って不知火さんはボーイからお皿を貰って、中央テーブルへ向かう。

「どうぞ、お使い下さい」
「いえ、私は結構です」

私は丁重にお断りして、会場の隅へ移動した。

緊張し過ぎて食事どころではない。こんな所に来たのは人生で初めてだし、周りが周りだ。お嬢様雰囲気の子しかいない。

庶民にはちょっと、いや…かなり荷が重い。

「ああ、浅見さん」
「天霧さん」

そんなことを思っていると、天霧さんがやって来た。いつもの学ランではなく黒い着物を着ている。

「急にお呼びしてすみません。本当は招待状を前日に届けている筈だったんですが…はあ…こちらの手違いで」
「あ、いえ、驚きましたが大丈夫です」
「そうですか。それはよかった」

にこやかに笑う天霧さん。この人は本当に紳士だ。

「ああ、そうでした。浅見さん」
「何ですか?」
「後で風間に茶を持って行ってあげてくれませんか?」
「お茶、ですか」
「はい。酔い潰れることはないですが、飲み過ぎるといけませんので」
「わかりました」

会長のお茶を煎れるのは私の仕事だ。先月褒められたばかりだし、なんだかやる気が沸いてきた。それにまだ会長にお会いしていない。会長主催のパーティーに招待して頂いたのだから当然お礼も言わなければならない。

ということで、早速私はお茶を持っていくことにした。






と思ったは良いが…そういえば給湯室の場所を知らなかった。

辺りを一通り見渡してみるが、天霧さんの姿は見えない。ちなみに会長の姿も見えない。不知火さんも見えない。

仕方なく、また会場の隅で目立たないようひっそりと突っ立っていることにした。

すると、

「ちょっと宜しいかしら」

きらびやかなドレスに見を包んだお嬢様方に囲まれた。

「なにか御用でしょうか?」

漂う不穏な空気に負けないよう、あくまで平常心でそう尋ねる。無表情は私の得意分野だ、大丈夫。

「貴女、先程から見ていれば、不知火様や天霧様に対して随分馴れ馴れしくてよ」
「我々もなかなかお話出来ないのに」
「庶民の方はなんて図々しいのかしら」

「……………」

耳を通り過ぎる嫌みや雑言。どうやらお嬢様方の性格は良くないようだ。でもまあ、ここで相手にしても仕方がないし、第一、ここが私にとっていかに場違いな所なのかは私が一番理解している。お嬢様方の気持ちもなんとなくわかってしまった。

「そんな薄汚い制服で来るなんて…」
「……………」

確かにお嬢様方の着ているドレスからしたら薄汚いかもしれない。でもこの制服は可愛いと思う。なんせ私の進学理由は、家から程近くて制服が可愛い、だから。

少しだけ心にダメージを受けたその時に、気品に溢れた声が響いた。

「薄汚いのは貴女達の方よ」

「なっ…!」

勢いよく振り返ったお嬢様方。まるでモーゼの十戒のワンシーンの様に、声の主まで道がひらけた。

「一人に寄ってたかって…恥ずかしくないの?」

そこに居たのは、気高い雰囲気を身に纏った同い年くらいの女の子だった。落ち着いた色の着物を優雅に着こなし、羽織っている赤紫のストールも良く雰囲気に合っている。

「千姫…!!」

お嬢様方は相手が悪いのか、悔しそうに顔を歪めながら、いそいそとこの場から立ち去ってしまった。

残ったのは、私とその子。

「ふぅ…全く。あ、大丈夫だった?千鶴ちゃ……あら?」
「……………」

どうやら、人違いだったようだ。




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長くなりそう…
12月も二本立て

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