Side Okita
「あはは、」
思い出すのは彼女のこと。無表情一徹だったあの子。僕がキスしたら目を見開いて固まった。これが面白くないわけがない。
元はといえば、千鶴ちゃんに女友達が出来たと聞いて関わりだしたのが始まりだった。生徒会の副会長だからと、遅刻常習犯の僕とは良く顔を合わせた。なのに、僕は彼女の無表情と、事務的な微笑しか見たことがなかった。
親友である千鶴ちゃんとは正反対、表情をどこかへ忘れてきたような女の子。
そんなあの子の、表情が崩れた瞬間を見たのは7月の放課後だった。
『貴様に倒れられると気分が悪いからな』
『!』
たまたま通り掛かった保健室、風間が出て行ったあとを覗いたら、そこには静かに微笑んでるあの子。意外だった。彼女は誰よりも優しく笑っていた。
8月。
合同合宿ということになり、生徒会が剣道部の合宿に乱入してきた。これはいい機会だと思い、僕は生徒会の苦情を言うのを隠れ蓑にして彼女を観察した。
そして肝試しの時、彼女は動いた。千鶴ちゃんがクジをみる前に、彼女はごく自然な動きでクジをすり替えた。注意深く見てた僕以外気づいていないだろう。自分が誰か目当ての奴とペアになりたくてすり替えたと思った。でも、千鶴ちゃんと風間を、あの優しい表情で見つめてる様子を見て、そうじゃないとわかった。
彼女の表情に変化が見られるのは、風間が関わった時。なら、もしかして、
想像が確証に変わったのは、9月のあの時。
『だから、やめたくない理由があるんじゃない?』
『……………』
これだけで充分だった。
そしてこの時僕は、かつてない程の優越感に浸っていた。彼女が始めて言葉に詰まった。僕の言葉で。その様子が途方もなく面白かった。
そして今日。
彼女は風間への好意を僕に教えた。今までは流すだけだったはずが、敵意剥き出しの視線すら送ってきた。僕の足止めに近藤さんを使ってきたから、ある程度の覚悟をしてきたのだろう。
多分、僕だけが知ってる彼女の一面。
僕は千鶴ちゃんが好きだけど、彼女も違う意味で好きかな。
なんていうか、そう…
おもちゃ、みたいで。
−−−
沖田は愉快犯。
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