副会長 | ナノ



作戦の日々 2



あれから一週間がたった。天霧さんと不知火さんにも協力してもらった私の邪魔者退治は見事?成功し、千鶴ちゃんは誰にもフォークダンスを誘われていない。

また、私による“さりげなく会長との接触を多くする”という作戦も続行中で、ここ一週間、千鶴ちゃんに一番よく接触していたのは会長だ。

さりげなく、というところがミソだ。挨拶を交わしたり、必要以上の接触はしない。これがミソ。

体育祭まであと2日。邪魔者退治が成功しているとは言え、いい加減キメないとつらい。何をしてくるかわからないのが一人いる。近藤校長を使ったとはいえ、彼が黙るとは思えない。

なら、早いとこ動くしかない。

「………」

目の前には共に昼食をとっている千鶴ちゃん。私はいつも一人で食べているが、千鶴ちゃんに誘われれば断る理由なんてない。

「…どうしたの?」

何やら悩んでいる彼女にそういう。…でも彼女が悩んでいることなんてわかってる。ああ、友達失格かもしれない。

「実は、体育祭のフォークダンスで悩んでて…」
「それがどうかしたの?」
「…まだパートナーが居ないんだ」

その言葉を聞いた瞬間に、私は心の中で微笑んだ。もう友達失格だ。

「平助君に頼もうとしたんだけど、最近忙しそうで…」

授業中でもゲームに夢中だもんね。私のせいだけど。

「薫に聞いたら、体育祭は忙しいみたいで…」

フォークダンスの時に風紀委員のシフト入ってるからね。私のせいだけど。

「どうしよう…あ、楓ちゃんはパートナーどうするの?」
「私?私は、当日結構忙しいからパスするよ」
「そっか」

嘘。でもあながち嘘ではないかもしれない。邪魔者退治の最終チェックをしなければならないから。

「ねぇ千鶴ちゃん」
「なあに、楓ちゃん」

私が一番怖れているのは、当日のドタキャン。当日、誰かに横取りされるなんてそんなのくやし過ぎる。なら、そういう状況下に陥っても、千鶴ちゃんが抵抗の意を示すようにすればいい。

「会長どうかな?パートナー」
「え?」

会長から誘う?とんでもない。

千鶴ちゃんに誘わせる。これ鉄則。

「で、でも、風間さんって忙しいんじゃ…」
「別に会長は忙しくないよ」

私はそれなりに忙しいけど。

「でも−−」

千鶴ちゃんは反論の言葉をいおうとするが、私はそれに声を被せた。

「会長は風間財閥の御曹司だからエスコート上手だと思うし、ちょっと過激な発言が目立つだけでいい人だよ」
「そ、そうだけど−−」

よし、ここだ。

「会長、まだ相手いないって言ってたし…」

なんだかんだ千鶴ちゃんは私に優しい。これは自惚れではないと言える。

だから

「生徒会長として相手がいないのは格好がつかないから、私としては千鶴ちゃんがなってくれるとうれしいかな」
「!」

貴女の優しさに、私はつけこむよ。



ついに体育祭当日。
清々しい程の晴天で、ジリジリと日差しが肌を焼く。そんな中、私は運動会本部のテントにいた。

あの日の放課後、千鶴ちゃんは会長にパートナーを頼んだ。私の推薦と、さりげなく会長との接触を多くする作戦が実を結んだ結果だろう。さりげない優しさというのはポイント高いからね。

「開会の言葉。生徒会会長、風間千景」

私のアナウンスのあと、会長の声が流れ出す。体育祭の開幕だ。

私の運動神経は悪くなければ良くもない。そつなくなんでも出来るといった所だろう。ああ、体力は無い方か。

それにしても、暑い。
副会長をやっていて心底よかったと思ってる。この天気で外にいろ?熱中症になる。ああ、なんてテントは快適なんだ。

「おい、浅見」
「不知火さん、お疲れ様です」

そんなこと考えてると、不知火さんが帰ってきた。

「冷たい水とかあるか?」
「ありますよ、今用意しますね」

3年のスウェーデンリレーだったか、不知火さんは汗だくだ。

「はい、どうぞ。一着でしたね、おめでとうございます」
「ああ。つーか、いいのか?縦割りでお前と俺は別チームだろ」
「構いませんよ、私の先輩であることには変わりありませんし」
「そりゃあそうか」

ゴクリと一口。不知火さんは机にあったうちわで扇ぎながらパイプ椅子に座った。



私が唯一出る競技、100m走で3位というなんとも言えない結果を残したあと、昼休みになった。不知火さんは苦笑いだった。

体育祭の昼食といえば、家族でレジャーシートをひいてお手製のお弁当を皆でつつくのがセオリー。現に私の周りはそんな家族が多いがそんな中、私は本部のテントで一人優雅にコンビニ弁当をつついていた。

私の家はしがない自営業。しかも母は他界していて、父と子一人の家族。父親は見に来ると言ったが、調度新しい企業が波に乗ってきたこの時期に娘の体育祭なんぞに来させるほど、私は馬鹿じゃない。いつもはお弁当を作っているが、今日は見に来るとほざいた父親を黙らせるのに時間を食ってしまったためコンビニ弁当。なかなか美味しい。

一人が寂しいとは思わない。なんせ自由だ。まあ可哀相という視線で見られると多少グサッとくるが…。現に天霧さんと不知火さんはそんな目で私を見ている。別に友達が居ないわけではありません。広く浅くがコンセプトなんです。そんな視線を返しておいた。



「すげーよな、お前って」

体育祭終盤、不知火さんはグランドを見てそういった。

「はい?」
「まさか、本当に彼女と風間が踊るなんて」
「ああ、まったくだ」

生徒参加のフォークダンス。グランドの中央、様々な生徒達の中でで優雅に踊るのは会長と千鶴ちゃん。時々千鶴ちゃんが顔を真っ赤にして怒ってる。かわいい。

「キス出来るかはわからないですけど」
「いや充分だろ、ここまでやれば」
「えぇ、あとは風間次第です」

「そうですね」と返事をしてから、私は考える。少し上手く行き過ぎてる気がしなくもない。あとでしっぺ返しが来そうで怖い。こういう類いの予感はよく当たるものだ。

「浅見さん」
「なんですか、天霧さん」
「貴女はよろしいんですか?踊らなくて」
「私は……はい。見てるだけで充分なので」

会長と踊りたいという言葉を飲み込んで、私はグランドを見る。千鶴ちゃんが羨ましいと言わなかったら嘘になる。やっぱり好きな人には変わりない。

「…………」
「…………」

天霧さんと不知火さんは顔を見合わせた。

「なあ、お前って風間のこと…
「それに私はパートナーいませんから」

ここで言葉を被せたのは軽率かもしれない。でもその先の言葉を聞いたら、多分、私は何も言えなかったと思う。

「…………」
「…………」

天霧さんと不知火さんはまた顔を合わせた。

「なあ、なら俺が…
「駄目だよ、この子は僕が予約してたんだから」

不知火さんの声を遮って聞こえてきたのは、彼の声。あーあやっぱり嫌な予感っていうのは当たるものだ。

「沖田先輩…」
「ね、楓ちゃん」

楓ちゃん、ね。いつもは“君”で済ませるのに。にこやかな笑顔には有無を言わせぬ迫力がある。これは心していかなければまずい。

「はい、沖田先輩」

私は差し出された手にひかれ沖田先輩の後に続いた。

グランドの端っこ、沢山の生徒の中で踊りだす。

「へぇ、結構上手だね」
「沖田先輩のリードがいいんですよ」
「そうだね」

ほどなく踊って、沖田先輩は私をみる。

「おかげさまで、騎馬戦は優勝出来たよ」
「それはおめでとうございます」
「流すね、やっぱり君か。近藤さんに誰から聞いたのか聞いたら、佐之さんって言うから。どーせ不知火さん辺りに頼んだんでしょ」
「…………」

すごい、当たってる。やっぱりこの人は聡い。

「風紀委員と保険委員、それから先生達にも根回しして。ねぇ、君の望みは叶った?」
「はい、叶いましたよ」

ここでとぼけても、多分彼の怒りを買うだけ…今回は動き過ぎたのかもしれない。

「その献身的な愛情って言うの?見ていて、いらいらするんだよね」
「私は、あの人の幸せのためならなんでもしますから」
「だから、それがいらつく。人の恋路に手をだすと馬に蹴られて死ぬよ」
「でしたら、沖田先輩が諦めてください」
「…………」
「…………」

踊りながら火花を散らす私達。小声で話しているので周りには聞こえていないだろう。こんなところで表情を崩すほど私も沖田先輩も愚かではないので、周りからただ雑談をしながらおどっているようにしか見えないだろう。

「ねぇ。君って、本当に風間が好きだよね」
「!」

沖田先輩の口が楽しそうに孤を描いた。土方先生の相手をしてるときと同じだ。ああ嫌な予感がする。

「なら、」

踊りながら沖田先輩は私の耳元で囁く。


「僕がその恋、応援してあげる」


は?と言おうとして、


ちゅっ


聞き慣れないリップ音が響いた。


柔らかな感触を感じたのは、唇。


「……っ!」
「じゃあね、楓ちゃん」


沖田先輩は何事もなかったように去って行く。端から見たら、多分、私が体制を崩して沖田先輩が助けた様にしか見えていないだろう。

私はしばし唇を押さえ、少し落ち着いてからその場を後にした。

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