作戦の日々
暑さが和らぎ、涼しさが増す。いわゆる秋という季節になった、10月。
ある日の放課後、生徒会室で秘密の会合が開かれていた。
「簡単なことだ。体育祭の終盤、例のタイミングであの娘を連れて来い」
そう言うのは我等が会長、風間千景会長。
「だから意味わかんねえよ。連れて来いって何だそれ」
すかさず反論、不知火匡さん。
「…体育祭の終盤、生徒全員によるふぉーくだんす…一説には共に踊り、接吻をした男女将来を約束されると…」
冷静に解説、天霧九寿さん。
「……………」
そして一人黙々と仕事を片付ける、私。
…どうやら会長達はどうやって千鶴ちゃんと踊るかを考えているらしい。
生徒全員参加のふぉーくだんすは、体育祭の一大イベント。天霧さんも言っていたが、そこで踊り、キスをした男女は結ばれるという伝説がある。2月のバレンタイン同様、この学校の甘い大イベントである。
でも相手は千鶴ちゃん。
彼女は学校のアイドル的存在だ。
…一緒に踊る所から敵は多いだろう。
愛されてるなぁ、千鶴ちゃん。
そこまで考えて、
『君は、風間が好きなの?』
ふと、先月の沖田先輩が言った言葉が、頭をよぎった。
………。
私は本当に会長が好きなのだろうか?
いや、好きだ。それは間違いない。
じゃなきゃ副会長なんてとっくにやめてる。
でも私の好意は、恋、なのだろうか?
恋とか愛は、もっと激しいものなのではないんだろうか?
…わからない。
好きな人が違う女の子の話なんてしてたら、嫉妬にかられるんじゃないだろうか?
考えれば考える程わからない。
「あーじゃあ風間!ここは女の意見を聞くのはどうだ!?」
「何?」
ぼーっとしながら仕事をしていると、そんな言葉が聞こえてきた。…まさかこの流れは…
案の定、不知火さんは助けを求める様な表情で私を見た。
「こいつはあいつの友達だしよ!いい案が聞けるだろ!」
「…成る程」
品定めするような視線。こんなに長く会長と目が合ったのは初めてかもしれない。
「…いいだろう、話せ」
ああ、神様は残酷だ。悩む暇すら与えてくれない。いや、悩まなくて済むようにしてくれたのだろうか?そうだとしたら、神様は親切なのかな。
「そうですね…」
私は少し悩むそぶりをして、
「会長」
会長を見る。
「…私の言う通りに、動いて頂けますか?」
朝、校門。
「おい、本当に大丈夫なのか?」
「不知火さん、お静かしに」
登校にはまだ早いこの時刻。
登校してくる生徒は極小数だ。
そんな中、ある少女が登校してきた。
「…来た」
雪村千鶴。
私の友にして、今回のターゲット。
そしてほぼ同時刻、反対側から会長が登校してくる。
「…よし」
タイミングは合っている。大丈夫。
「あ、風間さん…」
千鶴ちゃんが会長に気づいた。
「お、おはようございます」
「ああ」
…台詞、よし。
「登校にしては、早いな」
「今日は私が日直なんです。」
「そうか」
「風間さんは…」
「生徒会の会合だ」
「そうなんですか」
「遅れると天霧がうるさい。ではな、我が妻よ」
「!!つ、妻じゃないですよ!」
会長は颯爽とその場を去り、千鶴ちゃんも顔を赤くしながら校舎へ入って行った。
「…おい、今の…雪村があの時間に来るって知ってたのか?」
「まあ友達ですし」
…実は藤堂君が日直なんだよね。昨日、会長に用意してもらったゲームを渡せば、彼が自身の夜更かしを見越して日直を千鶴ちゃんに頼むくらい、予想できる。
これで藤堂君は問題ない。フォークダンスを忘れる程、ゲームに夢中になるはずだ。
「おい」
そう考えて居ると、会長が現れた。
「お疲れ様です、会長」
「今のでいいのか?」
「はい。では次ですが、2.3時間目の休み時間に、第二廊下で待機していてください」
「それで、何をする」
「そうですね、出会ったら手を貸してあげてください」
「ああ」
会長は一言そう言い、校舎へ入って行った。
「…まさか、そこでも雪村がいるのか?」
「上手く行けばですが」
「すげーな」
「不知火先輩にも頼み事をしても宜しいですか?」
「ん?」
「今日のお昼休みに、風紀委員長を尋ねて、体育祭当日の見回りシフトを決めてきてください。あと、このプリントも渡して下さい」
「別にいいけどよ…これ、なんか関係あんのか?」
「…これで、斎藤先輩と南雲君は大丈夫ですから」
「は?」
…先生方は大丈夫だろう。
いや、予防線は張っておいた方が間違いはないか。
よし。
「では不知火さん。よろしくお願いします」
「まあわかったよ」
休み時間、第二廊下
「……………」
私はいい感じの柱の裏から廊下を覗く。はたから見たらただの不審者だ。まあこの第二廊下はもともと人通りが少ないし、今は2,3時間目の間。人は一人もいないから問題はないだろう。
「…きた」
そこへ大量のプリントを持ちながらフラフラとこちらへ向かって来る女子生徒が見えた。…我らがターゲット、千鶴ちゃんだ。
土方先生に授業で使う資料やらプリントやらを持たされたんだろう。これぞ計画通り。本当は私が頼まれてたんだけど、「体育祭プリントの整理をしないといけないのでー」と言ったら騙されてくれた。あの7月以来、土方先生は私に気を使ってくれることが多くなった気がする。
「!」
よし。タイミングばっちり、さすが会長。
第二廊下の真ん中で、会長は千鶴ちゃんと接触。
「−−−」
「−−−」
何かを話した後、会長は千鶴の荷物を持ってあげ、二人は廊下を去った。
…よし。
さりげない優しさっていうのはポイント高いよね。
「…さて、次か」
昼休みの教室
「えぇ!?それ本当!?浅見さん!」
「うん。不知火さんが原田先生とそう話してるの聞いたから」
「きゃー!そうよね!そうよね!」
少し顔を赤らめた女子生徒達は止まらない。
「みんな!今回の体育祭は、先生達全員がフォークダンスに参加だって!!」
きゃーっと沸き上がる教室。天霧さんには口裏を合わせてもらおう。
…これで先生達は大丈夫。
ポケットから小さな紙を取り出して線を引く
−−−−
土方 原田 永倉斎藤 沖田
山崎藤堂 南雲−−−−
…これで大方消えた。山南先生や近藤校長は大丈夫だろうと判断。あの人達は保護者の目で彼女を見てる。ああ山崎先輩?あの人は風紀委員コンビと同じ方法を使った。天霧さんに保健委員の当日のシフト表と、彼がフォークダンスの時にしかシフトに入れないよう仕向けたプリントを一緒に持ってってもらった。今日の朝、不知火さんに会う前にね。
でも問題は、この人。
沖田先輩
『だから、やめたくない理由があるんじゃない?』
「………」
この人は要注意だ。まずなにを考えているかがわからない。そして聡い。下手に動けば感づかれる。
…さて、どうしたものか。
次の日
校長室
「呼びましたか、近藤さん」
朝、登校中に呼び止められ、僕は校長室に来ていた。
「おぉ、総司!実はいい話を聞いてな!」
「そうなんですか?」
嬉しそうに語る近藤さん。こんなに喜んでるなんて、一体どんなことなんだろう。
「総司、今度の体育祭で、騎馬戦に出るそうじゃないか!」
「え。あ、はい」
「しかも大将ときた!花形だぞ?花形!」
内容が自分のことだとわかり少し驚いたが、近藤さんの歓喜の理由が自分だというのは嬉しかった。
でも正直、
嫌な予感しかしない。
「よし総司!花形となれば花形らしくなるため、これから毎朝鍛練をするとするか!」
「あの近藤さん、毎日、ですか?」
「む?嫌か?」
ああ、近藤さんの顔が絵に描いたようにしょんぼりとしてゆく。
「そんなことないですよ」
笑顔でそういえば、近藤さんは嬉しそうに「そうかそうか!」と言った。うん、これでいい。
「そうだ!どうせなら昼と放課後も鍛練をするか!」
「え」
「道場時代の時のようで楽しみだな!総司!」
「そうですね、近藤さん」
どこまでも嬉しそうな近藤さんに気づかれぬよう、僕は静かにため息をついた。
−−−
10月は2本立て
長くなりました…
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