2−2
1週間後


「あの…このダンボールはどこに置いたらいいでしょうか?」

私はリグディに返事を出し、軍のマンションに引っ越した。

「…あっちに頼む。」

正しくは引越しをホープに手伝って貰っているところだ。

このマンションはお偉いさん達がホテル代わりに短期で利用したり、

それなりの身分の人が長期住んだりと設備は整っていて

便利なもので部屋は家具付きか、家具なしか選べた。

おそらくそこに住むのであれば家具なしを選ぶだろうが

私は家具つきの方が手っ取り早いと必要最低限の家具がついた部屋を選んだ。

と言ってもテレビや冷蔵庫、ソファ、ベットなどだけだが申し分はない。

「それにしてもマンションにしては広いですね…」

荷物を降ろし終えた手をとめてホープが部屋を見回す。

ホープの家も広いがここもなかなかだ。

一体リグディはどういう神経をしてるんだ…

私にこんな部屋に預けて…

「ああ。私の荷物では部屋は到底埋まらないだろうな。」

私がそう言うとホープが あなたが言う“生活に必要なもの”は必要最低限過ぎだと返されてしまい苦笑した。

セラの家にあった多少の荷物を持ち込んだだけだが不要なものはすべて置いて来た。

真新しいカーテンをつけた窓から外を見れば新しい生活 感がにじみ出る。

部屋から下を見れば相当高く、ベランダの設備が整っていて周りに遮られる建物も無いため景色が良い。

私が外の景色を少し眺めていると ポーン と玄関から訪問者を知らせるブザーが鳴り響いた。



こんな所に誰だろう?と思いつつも玄関のドアを開けるとリグディが立っていた

その後ろにも男がもう1人

「よう!今ちょっといいか?」

「ああ。ちょっと先客がいるんだが…それでも良ければ…」

ホープとリグディは顔見知りだろうからそこまで問題はない


リグディを適当にリビングに通す。

「リグディさん…ですよね?お久しぶりです」

「…おお!あの坊主か…でっかくなったな」

案の定対立などはしていないようだ。

「どうだ?この部屋。いいだろう?お前の為に俺が特別に用意したんだぞ!」

「…どうりで、なかなかのもんだ」

リグディが新しいソファにバフっと座り込む。

普通に考えたら少し非常識かもしれないが不思議と不快感は無い。

気になるのは後ろにいるもう1人のメガネの男だ。

どっかで見たことのあるような…

私の視線を察してかリグディが後ろの人に声を掛けた

「…おお、そうだ。こいつは俺の仕事の補佐的な感じだよ。

一応腕は立つんだ。おい、この切り込み隊長に自己紹介でも…」

「その必要はありませんね。」

その男がメガネを取るのを確認して私は背筋が凍りついたような寒気を覚えた

「お久しぶりです。ファロンさん。こんな所で再会するなんてやっぱり運命だとは思いませんか…?」

にっこり微笑む男を見て鳥肌が立つ

「…お前か…レイ」

ある意味会いたくない男の一人だ

「なんだ?知り合いか?そりゃ丁度良かった。

これから仕事で一緒になる事も少なくは無いだろうし、なんたってお隣さんだからな!」

「隣?」

リグディの言葉に私は思いっきり眉をひそめた

「俺の部屋はこの部屋の隣なんですよ?ファロンさん…

あの事、もう1度考え直してはくれませんか?」

もう体の毛という毛が逆立っている感じだ。

気分が悪い

「断る」

「もう…つれないな。まぁまだまだ時間はありますし?

こちらも戦略を張り巡らせていますからね。」

レイが怪しい笑みを浮かべる


リグディとホープは何のことだか分からないようだ


「そうそう、本格的に仕事に入るのはこれから1週間後位だ。

それまではトレーニングやちょっとした訓練をしておいた方がいいだろう。

施設の案内もしなくてはな。あとコミニュケーターを渡しておく。

身内に連絡先を教えておくといい。

あ、変な機能はついていないから安心しろ。」

「ああ。」

「じゃあ俺達はこれで。」

リグディとレイが去った後で私は小さくため息をついた



最悪だ…


まさかあいつがいるとは…




レイはボーダムの治安連隊にいた時の上官だった。

私がボーダムの治安連隊の職についた時だった。

あいつが現れたのは。


私を見るなり 一目惚れだだの運命だだの言ってしつこく追っかけてきた厄介な奴だ

あるときは家まで付けまわされさんざんな目にあった。

隠し撮りもされいわゆる完璧なストーカーだ。


あいつがエデンに移動になってから顔を合わすことも無かったが

ここでまた会ってしまうとは…不運だ…



「ライトさん…さっきのリグディさんと一緒にいた人…どなたですか?」

ホープが怪訝そうな顔をして聞いてくる

「昔の上官だ。ちょっと厄介でな…」

いかにも不安そうな顔をしている彼がそれだけで簡単に食い下がる訳もない

「心配するな」

声を掛ければ逆に声だけで突っぱねられた

「心配ですよ!あなたの回りにあなたに気がある男がうろついてたら…」

彼は何も言わずとも察してしまうのだ。空気が読めるんだろうな

「私がそんなやつにうつつを抜かすとでも思っているのか?」

軽く見られたものだと自嘲する

「いいえ。そういう訳じゃありません」

「心配しなくても…私は…」

興味をそそられる男はホープ以外にいない。などとは言えないが

とにかく、気をつけてください!と釘を刺される。

護身術は見につけているつもりなんだが…

ホープが心配なのは精神面か。



引越しの荷物は思ったより早く片付いた。

あたりも暗くなって来て私達は夕食をとろうと家を出た

「ライトさんは何が食べたいですか?」

「私は別に…何でもいいぞ。お前の食べたい物でいい」

ホープの提案でパスタを食べる事になり店に落ち着いた。

エデンというコクーンの中心であることだけあって店は沢山ある。

観光目的のパルムポルムとはまた違う生活に必要な店だ。



それにしても4年前のあの日から随分と復興したものだ。

ファルシの力は弱まったとしてもここまでの

回復はコクーンの技術の問題だ

ファルシに飼われていたとしても技術だけは本物だったか…


空腹を満たした私達はマンションに向かった。


辺りはすっかり暗くなっていて、部屋に帰
った時には20時近かった

ロックを解除して部屋に上がる

部屋の電気を付けようと手を伸ばしたのをホープに制された

「…外が綺麗ですよ。」

電気を付けなかったのは夜景を見たかったからだろう

「エデンの夜景か…」

エデンというだけあって外は電気がついていて明るい。

外を歩いていれば昼だと錯覚するほどだがこうして高いところから見てみればやはり夜は夜なのだと思い知らされる。

色鮮やかな光のネオンで彩られた町はボーダムとはまた違った雰囲気をかもし出している


「こんな夜景を毎晩見れるなんて羨ましいですね」

「そうか…?」

暗い部屋の中で不意にホープに抱きつかれてしまう

身動きが取れなくなった体とは対照的に心臓はしきりに音を立てていて、血液の送りすぎからか顔が火照る

「こら…ホープ…」

言葉ではそう言うが私がこの状況を拒否する理由なんて一つもない。

むしろ逆に…求めてしまっている?

「これからは無理はしないでくださいね?何かあったら連絡してください。…待ってますから」

ホープのぬくもりが離れたあとはなんだか切くて、不思議な気持ちになる

「明日も学校なので…僕はこれで…」

「…ああ。おやすみ…」

玄関までホープを見送ったところで私は真新しいベットに倒れこんだ。




ふう…とため息を1つもらす。


自分で自分がわからない。

自分を見失った訳ではないものの私はホープをどう見ているのだろうか?

あの頃のような親心なのか、全く別のものなのか…

今まで急いで大人になった。

いざ大人になってみれば思春期に体験しておく事すら忘れてきてしまったようだ。

分からない。それを理由にして逃げているのは私の方だ。

ホープが私に好意をもってくれているのに対して私はどうだ?

この気持ちがなんなのかもはっきりとしなくって、迷っている。

正々堂々と気持ちを伝えてくれたホープに対して私は何も本心を言っていない。

このままでいいのか…?


心残りなのはその事だけでない。

ホープの未来を私が変えてしまった事に対してどうしようもできないというのに

私にこれ以上関わればそれなりの支障は出てくるはずだ。

ホープは私と全く関わりの無いところで生活していった方が良いに決まっている。


いい大人が高校生に対してそういう感情を持つのすら世間的に見たらどうなのか

ホープが私を求めてくれるのならば私はそれに甘えて受け入れてもいいのか…

私は静かに自問自答を繰り返す




ホープに関わることは随分と余裕が無くて胸が時々痛くなる

これが一般的に恋というのならば、やはり私はホープに…

恋しているのだ



口が裂けても伝えられそうにないが…



ここはエデンで ホープのいるパルムポルムとは遠い。

遠いといってもコクーンの列車に乗り継げばすぐだ。これからは少しだけ会いにくくはなるな…


ホープが去ったあとも抱きしめられた体から温もりを感じ

私はそのまま眠りについた。



←戻る
2/4
 next→
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -