12-7
Side;Hope


『戻ってこい!エクレール!』

彼女が生きている間に呼ぶことの出来なかった名前。

こんな事になるなら、呼んでおけば良かった。

心臓マッサージの手を止める


「くっ…」

それはライトニングの死を意味する行為。

僕の手が行き先を失って宙を泳いだ

僕が見ているのは絶望だけ。

…あなたがいない世界で僕はどうやって生きていけば

まだ温かいライトニングの頬を撫でる

体中の水分が出てしまうのではないかと思うくらい涙があふれ出る。

僕は床に崩れ落ちた



「あなたがいなければ生きていく希望なんてありません…

もう一度笑ってくださいよ…

幸せだって言ってくださいよ!ライトさんのバカ!…

うわぁぁぁぁっ!」



彼女の手をとったまま狂ったように泣き叫ぶ

もう自分でもどうすることもできなくて。

いっそ消えてしまいたい。





そう思った刹那、僕と繋がっている彼女の手に僅かな力が入る

僕は驚いて立ち上がる

「……ホープ…バカは…お前だ…」

そうだね。バカは僕だ。

ついに幻聴が聞こえてくるようになってしまたのかもしれない


「そんなに…泣いたら…どっちが赤ん坊だか…分からないだろう…」

ライトニングが長い睫毛を動かしてゆっくりと目を開く

「ライト…さん」

それと同タイミングに隣の部屋から産声が上がった

「んぎゃぁ〜〜おぎゃ〜」

「お父さん!お子さんの方は何とか無事です!

もう心配ありませんよ。

彼女は自分の命をつぎ込んで新しい命を生み出したんですよ!」


看護婦らしき人がまた走ってきてそう言った


「…私が死んだみたいな言い方をするな…」


ライトさんがつぶやいた瞬間看護婦は目を丸くして壁にバンとぶつかった

「何で?どうして…さっき…ええっ?

先生っ!大変です!患者さんが!」

今度は温かいものが胸にいっぱい広がってボロボロと涙がこぼれた

「良かった…ライトさん!良かったぁ!」

ベッドの上のライトニングに思わず抱きつく。

ライトニングは小さい子でも撫でるように僕の頭に手を置いた。

間もなく赤ん坊の入った保育器が運ばれてきた

「一番に抱っこしてあげてください。元気な女の子です」

看護婦の方が僕にそう促す

「ライトさん!どうぞ」

「いや、お前から抱け。…それに一番はお前の母さんだ…」

「え?」

「なんでもない。ほら、早く。」

僕は腕を伸ばして我が子を抱き上げた

僕にそっくりの銀髪。

ライトさんにそっくりの瞳

こんなにも小さくて、こんなにも尊い。

「母は強し、だろ?」

ライトニングはそう言って微笑んだ

僕は涙を拭いて笑う

「はいっ!」


絶頂から絶望へ、絶望から絶頂に立たされた僕の涙腺は既に崩壊していて

またボロボロと涙があふれてくる

「何をまた泣いているんだ」

「だって…感動して…」

愛しい我が子を愛しい人へ手渡す

「ありがとう…ライトさん…」

僕と我が子を抱き絞めるライトさんの目にもまた光るものがある。

僕達の宝物…


「お疲れ様でした。」

病室で僕はお母さんになったライトニングの頭を撫でた

「かわいい女の子です。」


病室の外から空を見上げれば大雪で白かった空は雲ひとつない星空に変わっていた。


月の光が振ったばかりの雪に反射してキラキラと光っている。

「なぁホープ…あの子の名前を私が付けてもいいだろうか…?」

「もちろん。」

思いがけないライトニングの言葉

僕はその言葉の先を待つ。

僕達の愛しい宝物の名前。

「…ルナだ」

ライトニングは夜空を見上げて言う。

「ルナ・エストハイム。いい名前です。」

「さっきまで、夢を見ていた。

白い世界に銀髪の女性がいた。多分あれはお前の…」

「ライトさん…?」

臨死体験、というやつだろうか…

その夢?に僕の母さんが出てきたと、ライトニングは言う。

「守ってくれたんでしょうか?」

とても不思議な話だけど。

「信じてくれるのか?」

ありがとう、母さん

「もちろんです。」

「…少し疲れた、今日は眠るよ。手を…握っていてもいいか?」


僕はライトニングに手を差し伸べる。

小さな温かい手。

失わなくて、本当に良かった。



「おやすみなさい。エクレールさん」

過去に捨ててしまった名前も

今のあなたも。

ぜんぶひっくるめて


僕は貴女を愛しています。







―2人の愛は小さな宝物になって


未来に繋がっていく。






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