12-9
時は流れた。


あれから何年も経ち

何度も喧嘩して

何度も愛し合い

何度も喜びを分かち合い

いつもずっと一緒に寄り添っていた2人。



3年前に発覚したホープの病は、残念ながら家族の念願叶わず

少しずつ体を蝕んでいった。

今の医療技術で病気の進行自体は遅いものの完全に病気を治すことは出来ない。


だけど、変わらない病状にホープは自分の病気を受け入れ、病気と闘っている。


もしもの時は過度の延命措置をとらないでほしい、



それがホープの願いだった。



意識のある中で死を迎えるか、延命で何も分からないまますべてを終えるか、本人が選ぶ事ができる。


ホープは前者を選んだ。


だから病院には入らず家庭で療養をしている。



「ホープ、体調はどうだ?」



いつからか、すっかり皺の増えたホープの顔。

私もホープもおばあちゃん、おじいちゃんと呼ばれるに相応しい年齢になった。


「今日はなんだか調子が良いみたいです」


いつもなら体がだるいと言っているのだが今日は顔色が凄く良い。


「ルナの子供の風邪は無事治ったみたいです、さっき報告がありました。」


風邪をひいたと言っていた孫の無事を報告するホープは少し安心したように笑った。

ルナはすでに結婚し、今では立派な母となっている。


孫の顔をこんなにも早く拝めた事は私とホープにとって大きな喜びである。


「レンはパルスから今度しばらく帰ってくるらしいです。」


息子のレンはレンで、あの後有名な大学に進学し、婚約者のココアをつれ念願のパルスの研究を続けている。


今では立派は、パルス研究者として名前が広まった。


「今日はいい天気だな。」


自宅の窓から外を眺める。


もうどの位外出していないのだろうかは分からないが、こうも天気が良いと外の空気が吸いたくなる。


「ライトさん、今からデートしませんか?」


「…でもお前の体が…」


「今日は久しぶりに調子が良いんです。デートするべきです。」


ホープのおかしな発言に笑いがこみ上げる。


「ホープ、体は大丈夫か?」


「…ライトさん、そればっかり。」


ホープは困ったように笑ってから大丈夫、と弱弱しく笑った。


今日は比較的体調の良い日だ。いつもホープは1日中ベッドの上で過ごしている。


悪い日は起きていられないときすらある。


だけど今日は


「行きましょう!」


いつかのように私の手を取り歩き出すホープ。



私には分かっていた。


ホープがなぜこうして無理をしてでもデートに行こうとするのかが。

ホープは自分の限界を感じていたのだ。



ゆっくりと、手を取り合って見慣れた風景の町を歩く。


いまから何年も前からこうやって手を取り合って歩いてきた。

時にはけんかして、仲直りして 問題が起きたら解決して。

そのたびに愛と絆は確かに深まっていった。


「若い頃、よくこうしてここに来ましたね。」


ホープが唐突に昔話を始める。

少し曇ってしまった瞳。

その顔はひどく大人びているけれど、どこか昔のホープの面影がある。


「あの時ライトさんが……で、僕は……」


ホープは思い出話をするのが好きだな。

息子にもこうしてよく思い出話を聞かせていたっけ。

思えば私の人生の思い出の殆どにホープがいる。

家族を失って止まって閉まった私の時間を動かしたのはホープだ。

私の思い出の中ではホープがそこにいて、笑ったり悔しがったり。

ホープがいたから私は 姉としてでなく、女としての幸せを手に入れることが出来た。

私なんか、女としては最底辺だったはずだ。

可愛げもなく素直でもなく、仕事なんて軍に属していた。





それでもこんな私を…ホープは愛してくれた。






まっすぐに、その瞳で私だけを見つめ包み込んでくれた。





ずっと前から。




でもこれからは…






不意に流れた涙が頬を伝う


「……っ…」


その涙を見てホープは何も言わずに私の震える体をだきしめてくれた



「大丈夫…」



何が大丈夫なのか全く分からない。

ホープはもう少しでこの世からいなくなってしまう。


その現実は誰にも変えられない。



出会いと別れがあるように、花がいつか散るように、命もいつか散り、土にかえる。

それが命あるものの定めだと分かっている。


分かっているはずなのに…


「ホープ…っ……うっ…」


涙が止まらないんだ


「大丈夫ですよ。ライトさんなら。」


「私はっ…大丈夫なんかじゃ…」


「ライトさんは僕が一生をかけて愛したただ一人の人です。

この絆は誰にも壊せません。

だから、次も、その次の命も一緒になる運命なんですよ。」



ホープが私の髪を優しく撫でる



「あなたの帰る場所は僕の腕の中です。


僕は少し先に旅に出てしまうけれど、待ってます。


あなたの事をずっと。」







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