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ピーンポーン…

チャイムを軽く押せば軽やかな音が家の中から聞こえてきて、

パタパタという足音と共にガチャリとドアが開いた

「…お姉ちゃん…?キャー!お姉ちゃんだー!

って…本物…?もしかして…お化け!?キャー!」

セラは私の顔を見た瞬間にバタンと勢いよくドアを閉めた。

「待てセラ!私はお化けなんかじゃ…」

締め出しを食らった私はドアに向かってセラを呼んだ

全く…この世にお化けなどいる訳ないだろうに…

ドアの向こうでドスドスと足音が聞こえてきた

「セラ…疲れてんのか…?」

「ちがうもん!本当にお化けがいたんだもん…」

「うそだー!お化けなんている訳…」

そうだスノウ。私はお化けなんかじゃないんだ

ガチャリとドアが開いた

「出ーたー!!お化けだー!義姉さんのお化け!マジで怖い!」

なるほど、セラのアホさはスノウからうつったのか…

流石に頭に来て私はスノウに殴りかかった

ドスっ…

鈍い音がしてスノウが玄関の奥に吹っ飛ぶ

「誰がお化けだ!」

「もしかして本当にお姉ちゃん…?」

「ああ。だからそうだと言ってるだろう」

「本当に…?」

「…信じないならいい。帰る。」

姉が帰ってきたというのにこの扱いはひどすぎる

「待って!お姉ちゃん!どうして…」

のびているスノウは置いておいてセラに事情を説明した。

クリスタルから目覚めた事、ホープの家にお世話になっている事、

「…おねえちゃん!キャー!」

セラに抱きつかれ身動きが取れないけれどなんだか久しぶりで

嬉しかった。本当はもっと感動の再会…

といきたかったのだけど…

散々にもみくちゃにされ開放されたかと思えば

クッキーとミルクティーが目の前に出されセラはそれを食べ始めた。

形からして手作りだろう…


「私もお姉ちゃんも、無事クリスタルから目覚められたし…

お姉ちゃんにもやっと彼氏ができたし…良かった良かった」

セラがニコニコしてお菓子を頬張っている。

「クリスタルについては良かったと思うが…生憎彼氏などというものはいないぞ…?」

私がそう言うとセラがきょとんとしてお菓子を食べている手を止めた

「へ…?またまた〜照れてとぼけちゃって〜」

「…?」

「ひょっとしたら…なんて思ってたけど…本当にそうなるとはね…

付き合ってるんでしょ?ホープ君と…!」

私はセラの言葉に

ミルクティーをぶほっと吹き出した

「おかしな事を言うな。

ホープには迷惑を掛けているがホープは私に恋愛感情など抱いて無いさ。

それにホープには恋人や好きな子くらいいるだろうし。」

整った顔立ちからしてホープに惹かれる者も少なくは無いはずだ。

それにホープ自身のあの優しくて温かい性格についても女からしてみれば魅力だし

いわゆるモテる要素をふんだんにとり込んでいるようだ。

そんなホープが心惹かれる女を見てみたい。

きっと幸せだろうな…

「…なんだ付き合ってないのか…。

でもホープ君絶対好きな人いると思うよ…。

しかも身近に。」

「ハイスクールの話はまだ聞いていないから

よく分からないな。同じ学校とかだろう」

「…そうじゃなくて、もっと身近。もしかしたら近すぎて気付いてないかもね〜」

「お前はホープから何を聞いたんだ…?」

そもそもセラがここまで言い切れることが不思議でならない

「何も。ん〜普通見てれば分かるよ〜」

「私にはさっぱり分からないが…」

「…本当に恋に鈍感なんだね〜…まぁ、聞いてみなよ。

好きな人いるのか〜?って。きっと面白い答えが返ってくると思うよ!」

なぜセラの目はこの手の話のときこんなに輝いているのだろう…

やはり私には理解しがたい領域だ

「痛た…義姉さん思いっきり殴ったな…」

「当然だ」

「冗談だって。許してくれよ」

「……」

今まで伸びていたスノウも起きてきた

「ねえスノウ、ホープ君の好きな人知ってるでしょ?」

「ああ。結構前に聞いた事がある。

僕はそんなつもりじゃ…とか言ってテレまくってたけどな。

結局ハッピーエンドって感じだろ?」

「やっぱりそう思うよね〜。それがまだ1歩手前なんだな〜」

で、誰なんだよ?

「とりあえず、聞いてみなさい。」

「え…セラ…?」

「しッ!スノウには後で説明するから…」

「…?」

なんなんだこの2人は…



でも、気になる。な

あいつの好きな人。

なんか引っかかるし、もやもやする。




物思いにふけるなど私らしくない。







セラの家を出て私はホープの家に向かった。


ドアを開けるとホープがすでに帰っていた

「あ…お帰りなさい、ライトさん」

「ただいま。ホープ、悪いがもう少しだけ、ここにいてもいいか?」

仕事はまた探すとしてまず住む所を見つけなければいけないし…

「いいですよ。ライトさんさえ良ければずっとここにいてください。

僕的にそっちの方が嬉しいので。」

そう優しい笑みを返されれば、それだけなのに何故か私の心臓が大きく脈打った。

「すまないな…」

「あと、すみませんがライトさんの分の洗濯物は自分でして貰っても良いですか?

服だけなら問題はないんですが、あなたの物を僕が洗濯するのは嫌でしょうし…」

そんな事にまで気が配れるのはすごいと思う

「嫌ではないが…分かった。あと掃除とかも全然やるぞ。」

調理は私には不向きだけれど

「すみません、僕が忙しい時はお願いします。」

私にはそんな事しか出来ないからな…

「では僕は夕食を作るので、ライトさんは待っててくださいね♪」

母がいなくなり、父も出張で家を空けている今は実質1人暮らしだ。

そこに私がお邪魔しているのだが…

そういえば昨日1人暮らしにはこの家は広すぎる、と言っていた

3人で住んでも広い家に一人ならもっと広い

 だからライトさんがいてくれた方が良いんです。と言っていた


手際よく食材を調理するホープを見て私はセラの言葉を思い出す。

聞いてみたいが聞きたくない。あまりにも矛盾する気持ちに嫌気がさす

もしいると答えが返ってくれば少なからず私はショックを受ける…気がする。

それ以前にいるとしたら私はこの家にいてはいけないだろうな。

今まで守って来たからか?なぜかホープがいなくなるのが悲しい。

逆にいないと言われれば私は安堵するのだろうか…?


でもなぜ…?

こんなにも気になっている


「ライトさん…?」

「…あ…なんだホープ」

「ボーっとして…どうしたんですか?具合でも…」

熱でもあるのか?と心配そうに顔を覗くホープに私は即座に顔を背けた

「別に…」

「…そうですか…夕食の準備ができましたよ」

言われてテーブルの上を見れば美味しそうな料理が並んでいる。

私はどのくらいボーっとしていたんだろう…


苦笑がこみ上げる



いただきます、と言ってから料理に手をつける

今日のメニューはシチューだ。

ホープは料理上手らしく、昨日に引き続き味が良い。

「なぁホープ…」

今まで悶々と考えていた質問を私はホープにぶつけてみる事にした

「なんです?」

「お前は、恋人とかいないのか?」

ホープが困ったような表情を浮かべた

「恋人ですか…?いませんよ。」

いません発言に心がすっと晴れるも次の質問で打ち砕かれた

「そうなのか…じゃあ質問を変える、好きな子とか…は?」

問いかけるとホープはさらに困った顔をした

「そりゃまぁいます。ね…。

それよりどうしたんですか?そんな急に恋の話なんてして…

あなたらしくないですよ?

それに…ライトさんには言えません…」

ホープの言葉に私はうつむいた

「そうか…すまなかった…シチュー美味しかった。食器洗いは私がするから、置いといてくれ」

私はシチューを平らげて、立ち上がり自室に

戻るために歩き出した

「え…?あ…はい…」

後ろで声が聞こえたが振り返らずに部屋に戻りベットに倒れこんだ。


やはりいたのか…気になる女が…

私はシーツに包まり重いため息をついた

高校生にもなったんだ。好きな女がいる位ごく普通の事だ。

私は何にショックを受けている…?別に私がショックを受ける事じゃないのに

それにホープは相当に人気がありそうだし、

今までも女に不自由しなかっただろうな。




―それよりも、ホープの言葉の方が傷ついた

「私らしくない…か…」

単純そうな言葉だが心にぐさりと来た

恋は私らしくない…か。今まで経験がなかったから無知なことは自覚しているが…

ライトさんには言えません なんて面と向かって言われると流石にショックだ。

私はそんなに信用されていなかったのか…

私達元ルシの6人は何でも話せる仲間なはずだったのにな。

私だけ仲間はずれか。

スノウ達には素直に話していたんだろうな。

まぁ、私なんて当然の事か…恋の1つも経験した事のないような女に話しても仕方がないだけだ。

私はまたため息をついた

部屋の窓から月明かりを見上げる。


コンコン…

静かな部屋になり響いたドアのノックオンに私は起き上がった

「ライトさん?寝ちゃいましたか…?」

「起きているが。」

「入っても良いですか?」

私は少し戸惑ったがホープを部屋に入れることを選んだ。もとはホープの家だ

「ライトさん?もしかして怒ってますか?」

「いいや」

怒ってなんかない。

「じゃあ僕何か悪い事しました?」

ホープがこんな事を聞いてくるのは私を気遣っての事だ

「どうして…?」

「夕食の後なんか怒っている風に見えたので…

僕何か気に障るような事をしてしまったかと…

僕の思いすごしなら良いんですけど…

そうでなかったら理由聞いて誤りたいなと思って…」

「大丈夫だ。別に怒ってなどないぞ?」

「そうですか…なら良いんです。」

「……」

「…あの…さっきの話ですけど…なんていうか…」

さっきの話とはあの恋の話の事だろう。

「あれはお前を困らせるために言った訳じゃないし、

お前が無理して答える事でもない…色恋沙汰は私らしくないんだろ…?」

少々棘のある言い方だが変な事を聞いてすまなかった。

そう付け足すとホープがさらに困った顔をした


「僕はそんなつもりで言ったんじゃ…」

実際ホープの言うとおりかもな…

「お前が気にする事じゃない…頑張れよ」

「…どうして…」

「…?」

「どうしてあなたは―」


ホープがいきなり私の体に手を回し強引に引き寄せられた


軽く身を捩れば腕から簡単に抜け出せるのに身動きが取れなかった。





不覚にも私は、


その場所を温かいと思ってしまったのだ。



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