冬至のような

ぶん殴りそうになるまでに、肌寒い日に似合う男だった。

朝、白く凍え切ってしまった屯所の縁側で、誰を待つこともなく一人で煙草を吸っていた、彼の横顔が忘れられない。
真偽はいざ知らず、目先の庭ではないどこか遠くを眺めるような、彼の意識には私のことなど微塵も入ることはできないような、そんな目をした彼は、なんだか本当に手の届かない人間になってしまったようで、少し苦手だった。少し苦手であったが、それ以上に、そうする彼の横顔をなによりも綺麗だと思ってしまった。

或いは昼の盛り。朝の喧騒も静まりをみせる時間、この男はただじっと同じ姿勢を保ちながら、次から次へと来る始末書を、同じペースで捌いていくのだ。
時折、口に咥えられた煙草が、じじっ、という鈍い、灰が焼けるような音を立てる度に、思い出したように灰皿に灰を落としていく。その仕草の一つ一つがまるで、穏やかな春の日のそれのようで、じっとそれを見ていた私は彼に声をかけるべく、冷たい廊下に足を一歩踏み出すまで、今が冬であったことを忘れてしまうのだ。

きわめつけは深夜一時。殆どが寝静まった屯所の中で、静かに灯をともして机に向かう彼が、枕も持たず訪ねてきた私を見て、呆れたような、仕方がないような、それでもどこか普段は人に見せない柔らかさを含んだ笑みをこぼすその瞬間が、私は何よりも好きなのだ。
そうして彼が一旦筆を置けば、それは私が入っても良いという合図になるのだ。特に何をすることもない、どうでもいいような話を、面白おかしくオチを考えたりすることもしないで、ただ話してく時間が、私は好きなのである。私の話を聞いている時の彼の表情や、さりげない仕草や、緩やかに灰になっていく彼の煙草や、その香りが。


「何を見てる?」
こういうとき彼は、口が止まった私を責めることも急き立てることもなく、優しく聞いてくる。
「土方さんを見てた」
「そうかよ」
何を言うこともなく、私が彼を見つめるのに飽きてまた話し始めるのを待つように、ゆっくりと私の髪を手でといでいく。
これは恐らく彼なりに最大限に相手を大切にしているという証拠の行為なのだろうと、勝手に想像しては、この男のことをまた勝手に好きになっていくのだから、余計たちが悪い。手のつけようがない。手をつける気もさらさら無いが。
「寒くねえか」
「寒くないよ」
明日も雪が止みそうにない夜、風が障子を揺らす夜のことである。
身体の芯まで凍らせてしまいそうな冬の日の、ただ一人だけ、私を凍らせてはくれない男である。



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