メモ2

しまった、と思った。こんなはずでは、なかった。
思うより早いか、虫唾ではない何か、寒気ではない何か、寒気であったらまだ良かったと思った。生暖かい何かが背筋を張って上がった。これはもう暴力だ。咄嗟にそう思った。これは、彼女からの、あまりにも明白な暴力である。背筋を駆け上がった何かが身体中に蔓延して、血管の端から端まで一本一本が燃えている様だった。どうすることも出来ずに勢いよく立ち上がり、暑い、とだけ呟いて、風呂場へ逃げた。気を冷ますように汲まれた水を手で掬って、指の隙間から溢れることにすら気付かずに手を洗った。顔も洗った。頭も洗いたかったけれど、仮にも彼女と話している最中、それは気が咎められて、みっともなく前髪だけが濡れた。
ふと見れば、水面の自分と目が合って、それは見ているこちらが情けないと思ってしまうほどの顔をしていた。胃の底から何か込み上げてくるものを感じたが、喉元まで這い上がってきたきり、口の奥までは出てこなかった。これほど恐ろしい暴力が他にあろうか。もはや、その場で呆然としゃがみ込むことしか出来なかった。身体中が燃えるほど熱い。心臓の音が壁を隔てた彼女にまで聞こえやしかないかと気が気ではなかった。
これが、恋というものか。

[ 18/20 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -