結婚について


永遠というもの誰か見たことがあるか。
生涯、一人だけを愛し抜いた人間が果たしてどれだけの数、いるのだろう。一瞬でも永遠に好きかもしれないと思ってしまった一つの恋に破れて、次の恋へ乗り換えた人間が結婚するとき、一体誰に永遠の愛を誓えというのか。
そこに永遠の愛など持ち得なくても神も神父も、誰も新郎新婦を罰せられるものはいないのだ。
「でも土方さんは、永遠の愛がどうとか言っても様になりそう」
「永遠の愛だァ?」
空になったお猪口に新しい酒を注ぎながら、土方十四郎は眉間のしわを一層濃くさせた。
「もう酔ったのかお前」
午後から恋人との非番が被ったのをいいことに、とりあえずこの男と街へ繰り出したまでは良かったのだが、特に行く場所もなく、いつものように屯所の近くの居酒屋の暖簾をくぐって、今に至るのだ。
酒をつまみにマヨネーズを食うこの男と付き合って早三年。結婚願望はこれといって無いが、学生同士の恋愛でもあるまいし、そのような話二人の間で全くと言っていいほど話題に上がってこないのはやはり、彼の方にまだ忘れられない何かがあるからだろうか。
そしてその何かはきっと、限りなく永遠に近い何かなのだろうか。
「酔ってないよ」
「酔ってる奴は皆そう言う」
「土方さんさあ、そろそろ結婚のこととか考えてないの?」
隣でお猪口を持つ手が止まるのが分かった。やってしまったな、とぼんやりと思った。
恐らく彼にとってこの手の話をするには、まだ完全に割り切れていない誰かがいて、それは私の力ではどうしようもないものであって、私が持論を引っさげて首を突っ込んではいけない話であって、彼が私の方にちゃんと振り向くまで、もう少し辛抱強く待つべきであったのだ。
私が酔っ払って右も左も分からずに言ってしまったってことにしてはくれないだろうか。ひとときの譫言ということにしてくれないだろうか。

「お前、そんなこと考えてたんだな」
考えていないと言えば嘘になるが、考えていると言ってもそうではなかった。
「でも私、土方さんに永遠の愛は誓えないなあ」
「…なんでだ?」
「永遠なんて見たことないもの」
そう言えば、くく、と土方は喉の奥を震わせて小さく笑った。そういう仕草も含めて好きだと実感させられるから、一瞬、永遠がないなんて嘘かもしれないと思ってしまうのだ。
「悪いが俺もそれは見たことが無ェな」
「それじゃあ私達、結婚できないね」
「そうだなァ」
いつか、彼じゃない人を好きになって、今彼のことを好きになっているみたいに、彼以外の誰かと永遠を探したりするのだろうか。その次もまたその次も、そうやって誰かを好きになっていくのだろうか。
それは今の私には分からないことであったし、目の前の彼だけを永遠に愛するなんていうことはあまりにも無責任な言葉で、口が裂けても言えなかった。
「永遠なんてものが見つかるとは到底思ってねェが、そうだな、お前を永遠に傷つけることになるとして、その覚悟は出来てる」
一体どうして彼はこんなに不器用なのだろう。
「永遠の愛が無くても、この覚悟だけで結婚することはできると思うか?」
酷く素っ気ないことを酷く優しく言う彼が、あまりにも穏やかな目をしていたものだから、私は思わず首を縦に振ってしまったのだ。


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