黒子のバスケ | ナノ
私のヒーロー


「ねえ、どういうことなの」

耳元でロッカーの古い扉が鋭い叫び声をあげた。
知らない女の子たちだった。
桃井は少し困ったように視線を下げると、ばれないようにつばを飲みこんだ。

「ねぇ、聞いてんの」

桃井を取り囲む3人のなかでも、一番派手な格好をした少女が低く唸る。
その怒気を孕んだ声音も顔の横に叩きつけられた腕も、桃井を怖がらせるのには充分すぎるほどだった。

「えっと……どちら様……?」

震えないように気を付けながら、恐る恐る声を絞り出した。
しかしこの言葉はピシャリとはね除けられてしまった。
私たちは誰でもいい、それより聞きたいことがあるのだと。
未だどうすればいいのか分からない桃井にとって、それはますますの混乱を巻き起こした。

「端的に聞くよ。青峰くんとはどういう関係?」
「えっ……?」
「だから青峰くんだよ、バスケ部の。一緒に帰ったりして仲良さそうだけどさ、付き合ってんの?」

少女の鋭い眼差しから逃れようと、桃井は俯きを深くした。
女のカンはなくとも、彼女たちが青峰にどんな感情を抱いているかは想像に難くなかった。

「ち、違うよ。大ちゃ……青峰くんは只の幼馴染み」

瞬間、耳元でまたロッカーの弾ける音がした。

「じゃあ何でよ!」
「付き合ってないなら近寄らないで!」

口々に目の前の少女たちがまくし立てた。
どうやら返答を間違えたらしい。
中央を陣取る少女の顔がぐいっと桃井の鼻先に近づいた。
怖い、怖い。
助けて誰か。
大ちゃん……。
恐怖を押し殺すようにぎゅっと目を瞑った。
そのとき。

「おい」

聞きなれた声がした。

「さつきに何してんだよ」

桃井を囲んでいる少女を覆うような背丈に、褐色のよく日焼けした肌。
そこにいたのは間違いなく、話題の中心人物であり元凶でもありそして桃井が計らずも助けを求めた青峰大輝その人だった。

「大ちゃん……」

ふいに、涙がこぼれ落ちそうになった。
青峰が突然現れた混乱と安心で、張りつめていた緊張がゆっくり溶けていくのが分かった。

「さつきは俺の女だ。文句はねぇよな?」

阻むように桃井と少女たちの間に入り、睨み付けるように双眸を尖らせた。
少女たちの表情がみるみる青くなっていく。
桃井は青峰の背中に守られながら、鼓動がだんだん速くなっていくのを感じた。

「大ちゃ、……ってえ!?」

急に腕を引かれたと思うと、桃井はもう少女たちの輪から抜け出していた。
そのまま部室を脱出する。
少女たちがなにか叫ぶ声は、もう桃井の耳には届いていなかった。


しばらく二人で廊下を歩いていると、青峰が忘れていたかのようにぱっと手を離した。

「わりぃ」
「ううん……」
「――ありがとう」
「あぁ?」

前を歩いていた青峰が振り返る。

「大ちゃん、来てくれてありがとう」
「気にすんな。バッシュ取りに戻ったらお前がいただけだ」

青峰はまた桃井に背を向けて歩きだした。
桃井は恥ずかしそうに唇を緩め、そういえば大ちゃんはバッシュをいつも玄関に置いてなかったっけと余計なことを考えるのだった。

- 12 -

[*前] | [次#]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -