黒子のバスケ | ナノ
クレイム・パニッシュメント


黄桃じゃないけど黄桃。
陰鬱で救いがなく、裏要素も含まれるので閲覧は自己責任でお願いします。




この世に運命というものはあるのだろうか。それとも、ただ重なり合った偶然から作り上げる、意味のない虚像をそう呼ぶだけなのか。
どちらにしても、今日彼が行った行為は偶然にしろ必然にしろ、確かに消えないものとしてここに留まっていた。

灯りのない、暗い部屋だった。
窓に据え付けられたブラインドが街の燭光を遮り、部屋をより闇に染めていた。
床には乱雑に物が転がり、そのなかには写真などの類いも見受けられた。どれも真夏の向日葵のような爽やかな笑顔ばかりなので、今の憔悴しきった彼がよりいっそう痛ましくみえる。

どうしてこのようなことになってしまったのだろう。
今日幾度目か分からない、果てのない自問をまた丁寧に脳内で繰り返す。
彼がいつも苦心して無理矢理詰め込んでいる数学だとか英語なんかの問題が、今はなんでもなく思えた。
なぜならそれらは答えがあるからだ。今のように自問して自答しなければならないよりかはよっぽどましである。
もはや徒労にしかなり得ないこの己への問いかけは、行動から逃げる男の微かな気休めに成り果てていた。

男は部屋の隅に置かれたベッドに力なく寄りかかった。
外からは遠い雨の音が聞こえる。
冬のこの時期としては珍しい程の長い雨で、そろそろやまないかと皆うんざりしていた。
今日部屋を訪ねてきた彼女もその一人であった。
なんでも、贔屓にしている作家の新作を本屋で探しているあいだに、傘立てに立て掛けていたビニール傘を盗まれたらしい。
酷い雨降りの中で彼女が傘なしに家へ帰るのは困難で、本屋から近い彼の家にお邪魔した次第だ。
訪ねてきた彼女の桃色の髪は、雨粒を健康的に弾いていた。
それだけでも、いつも部活で必ず顔を合わせる彼女とは違う誰かに見えた。


男はここで、忘れていたように開きっぱなしになっていた瞼をゆっくりと下ろした。
完全な暗闇が彼を包み込む。
その冷たく苦しい後悔の底で、再び彼は懺悔した。
彼女と過ごした、初雪のように儚い思い出がにわかに胸をよぎった。
思い出のなかの彼女は笑っていた。
その姿に上塗りするかのように彼女が泣き顔に変わると、彼はそっと目を開いた。
そこにはもはや見慣れてしまった汚れた部屋と、息の詰まるような重苦しさが佇んでいた。

彼は自らの舌で歯列をなぞり、それを唇の裏に這わせた。
唾液が絡んで柔らかく滑り、それは彼に先程の反道徳的な行為を想起させる。
忘れたくても忘れられない、込み上げるような情欲と感じたこともない強い快楽。
その耽美で甘美な世界は、彼の良心をひどく痛めつけた。

ああ、どうして。
少し自嘲的な笑みを浮かべると、彼は誰に言うでもなく呟いた。

「なんていうか、本当馬鹿だよなぁ俺って」

まばゆい金色の前髪を乱暴にかきむしると、床に沈みこむように倒れこんだ。
彼女の血液が染み込んだシーツは、今は片付ける気にはならなかった。

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