赤司との決別 ※帝光編微ネタバレ注意 桃井と赤司は別段、仲がいいということもなく、ましてや特別な関係とはほど遠いところにあった。 ただの選手とマネージャー。 それを越えた恋慕だとか恐怖だとか、そんな感情は抱いたことはなかった。 しかし、今だけはその思いをひしひしと感じざるを得なかった。 「……あ、赤司くん」 「うん?」 「あなた、誰なの」 普段は温厚な赤司からは想像も出来ないような冷たい雰囲気。 冷たい言葉。 それから、すっと細められた赤と黄を湛えた鋭く冷たい瞳。 ――ほんとうに、彼? その思いが桃井の胸中を不安げに駆け巡った。 「……テツヤも桃井も、そんなことが気になるのか」 「うん……」 黒子の名前を聞いて、桃井は更に確信した。 やはり何かがおかしいのだ。 彼は赤司くんだけど、私たちの赤司くんじゃない。 急に、誰もいなくなった体育館がひどく静かでだだっ広く感じ、この世界には2人しかいないんじゃないかと錯覚しそうになった。 赤司は桃井の頬に手を伸ばすと、まるで楽しんでいるかのように微笑んだ。 「僕は赤司征十郎だよ。それ以外に何があるんだ」 ひやり、と冷たい感覚が赤司の指先から頬を伝って体に流れ込んだ。 赤司に射すくめられて、桃井は身動ぎひとつできずに、赤司は変わってしまったんだと心の底からおののいた。 - 3 - [*前] | [次#] |