黒子のバスケ | ナノ
赤司との決別


※帝光編微ネタバレ注意


桃井と赤司は別段、仲がいいということもなく、ましてや特別な関係とはほど遠いところにあった。
ただの選手とマネージャー。
それを越えた恋慕だとか恐怖だとか、そんな感情は抱いたことはなかった。
しかし、今だけはその思いをひしひしと感じざるを得なかった。

「……あ、赤司くん」
「うん?」

「あなた、誰なの」

普段は温厚な赤司からは想像も出来ないような冷たい雰囲気。
冷たい言葉。
それから、すっと細められた赤と黄を湛えた鋭く冷たい瞳。

――ほんとうに、彼?

その思いが桃井の胸中を不安げに駆け巡った。

「……テツヤも桃井も、そんなことが気になるのか」
「うん……」

黒子の名前を聞いて、桃井は更に確信した。
やはり何かがおかしいのだ。
彼は赤司くんだけど、私たちの赤司くんじゃない。

急に、誰もいなくなった体育館がひどく静かでだだっ広く感じ、この世界には2人しかいないんじゃないかと錯覚しそうになった。
赤司は桃井の頬に手を伸ばすと、まるで楽しんでいるかのように微笑んだ。

「僕は赤司征十郎だよ。それ以外に何があるんだ」

ひやり、と冷たい感覚が赤司の指先から頬を伝って体に流れ込んだ。
赤司に射すくめられて、桃井は身動ぎひとつできずに、赤司は変わってしまったんだと心の底からおののいた。

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