転校生と。 | ナノ
今日はいつも通りの時間に起きたはずだった。
しかしテレビをつけてみると一時間後の時間が表示されていて、瞬間的に目覚まし時計の故障を悟った。
絶望的な気持ちで身支度を終え、台所にストックしてあるパンをつかもうとしたらビニール袋が悲しい音を立てた。
今日は朝食抜きである。

それでも私は遅刻だけはすまいと家を飛び出た。
今から走ってバス停に向かえばまだ間に合うはずだ。
飾りっ気のない鞄と寝癖のついた黒髪を振り乱してエレベーターに滑り込む。
思ったより人が多かった。
ビーッと重量オーバーを告げる鐘が鳴り響いて、私は仕方なくエレベーターを出た。

最悪である。

このマンションは住人が多いためこのようなことがよく起こるのだが、よりによって今起こるとなるとなぜか悪意しか感じられない。
仕方なく隣のエレベーターを待って下に下りた。

マンションからバス停までは全力疾走で1分。
バス発車まであと2分。間に合う。
確実に間に合う。
それどころか1分のお釣りがくるのだ。

私は会心の笑みを浮かべた。
最近、実は自分はとんでもなく不幸体質な人間なのではないかと危惧していたのだが、なんてことはない。
ただの偶然の集結である。
昨日、買ったばかりの傘を烏のフンで汚してしまったのも五千円札の入った財布を落としてしまったのも、結局はありふれた日常のアクシデントがたまたま昨日という日に重なってしまっただけだ。

今日のこれもそう。
たまたま、にすぎない。



しばらくするとバス停が見えてきた。

ここのバスは割りかし時間にルーズなきらいがあって、時々遅く来たりするなどと、まちまちなところがあった。
今日は少し早い。
まだ1分近く残っているのに、もうバスが後ろの扉を開いて待っていた。

「のっ、乗ります〜」

誰に言うでもなく呟きながらバスに近づく。
朝から鞄を抱えて走ったものだからもうへろへろだった。
早く席について乱れた髪を整えたい、その気持ちが胸を満たしていた。

だが。

景色が反転した。
バスを捉えていた視界が急に砂利ののった堅いアスファルトに変わった。

何が起こったのか全くわからなかった。

ずきずきと痛むひざから、やっと自分が転んだことを理解すると私はそのままアスファルトに沈み込んだ。


バスはもう跡形もなかった。


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