イライラするわ

「……アナタ、お昼ご飯それだけ?」

『…充分。』



いつも通りにお昼ご飯を食べていたら、今日は知らない娘が来た。
まだこの高校に来て1年目だけれど、1年生の全員の顔くらいは知っている。でもその娘は、1年生の証である赤色の上靴と赤色の蝶ネクタイをしてるのに、顔に覚えがなかった。
それもその筈。
彼女はリクオ様のクラスに今日転校してきた人なのだから。


「メロンパンに…何? それ。」
『クリームパン…』
「…それに飲み物はミルクティー…。
甘いものだらけじゃないの。」
『甘い物……好きだから。』


はっきり言って、健康に悪そう。
せめてどちらかは焼きそばパンとかサンドイッチとか…菓子パンじゃないものを選ぶべきじゃないかしら。

「お母さんは? お弁当とか作ってくれないの?」

そう聞いたのはリクオ様で、少し心配そうに聞いている。今日だけならまだしも、これが毎日ならきっと健康に悪いとリクオ様も思ったに違いない。


『いない…』

「え?」

『お母さん、いない…』

「……ぁ、ぇっと、その……ごめん…」


返ってきた言葉に慌ててリクオ様が謝るも、彼女は顔色を何1つ変えずに『別に…気にしてない』と言う。
彼女は気にしないかもしれないけれど、聞いてしまった側は気にするもの。
そして優しいリクオ様はやはり気にしているようで、「しまった…」と居心地悪そうな顔をしてご飯をつつく。

ここは…私がリクオ様のために何とかするしかない!


「アナタのそのブレスレット…綺麗な色をしてるわね。」

「…あ、本当だ! 凄く綺麗だよ!」

『……ありがとう。』


…お礼は言われたものの、やはり顔色を全く変えないため、喜怒哀楽が全然分からない。
この娘、ちゃんと感情があるのかしら。必要最低限にしか言葉を発さないし、話したとしても鈍いし…


「(…イライラする……)」

「誰かから貰ったの?」

『……お母さん…』

「……母親の形見ってことか?」


リクオ様に続き、青も彼女に質問する。
彼女が醸し出すこの雰囲気は、もしかすると母親を亡くしたせいなのかもしれない。だとしたら可哀想だけれど…でも、何だか不快だわ…。


『…分からない…』

「はぁ?」

「ちょっ、氷麗っ!」

「!
す、すみません…!!」


しまった、つい口に出してしまったわ。
明らかにイライラしているようなその口調にリクオ様が慌てて咎めるも、やはり彼女は何も気にしていないようで…無表情でいる。


「でも、その…分からないってどうゆうこと?」


リクオ様のその問い掛けに、彼女はお得意の質問をする。


『…どうゆうことって…何が?』

「その、……どうして分からないの?」

『…知らないから』

「知らない? 何を?」

『お母さん…』

「??
お母さん…その…亡くなった、んだよね?」

『知らない…』

「へっ??」

『…お母さん、生きてるかどうか、知らない』

「……何で? いつから??」

『「何で」? ……知らない。
「いつから」? ……気が付いたら。』

「……会ったことも、ないの?」

『……記憶上、ない…』


パクッと残り一口のクリームパンを口に入れ、それを噛む彼女。
リクオ様は混乱気味で箸が止まっているし、青は青で何を考えてるのか…難しい顔をしている。


『……食べ終わったから、行くね。』

「……あっ! うん! その、何かあったら言ってね!!」

『……何かって、何?』

「ぇ、ぇぇっと…こ、困ったこととか!」

『…分かった。多分、ないけど。』


そこは『ありがとうございます』でしょう!?
せっかくリクオ様が親切に言ってくれてるのに! 本当、何なのこの娘は!!
妖気はしないから人間だろうけど、リクオ様に危害を加えるようなら…許さないんだからっ!!



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