招待

「……おはよう」

「おはようリクオ君!
…どうしたの? 何だか元気ないような気がするけど。」

「うん…ちょっとね。」


昨晩、見廻りをしていたら殺されかけている男性を見つけた。最近港を騒がしている犯人かもしれない…そう思っていたら、その犯人は門井さんだったのだ。
ボクが妖怪姿になっていたからか…ボクであることに気付いていなかった様子。


「(…今日、学校来るかな…)」


あの後、結局門井さんには逃げられたのだ。
1本の電話がかかり、電話に出ては顔を歪めた彼女…。その後、『気が変わった。帰る。』と二言だけ言い残し、姿消したのだ。
追おうとしたものの、草木に邪魔されそれは叶わなかった。


「イテテ…」


彼女は今日来るだろうか。
来たら…話すべきだろうか。でもまた逃げられるかもしれない。どうする?
昨日できた傷をさすりながら、どうやって彼女と話をするか考えていると…


「おはよう凛ちゃん!」

『おはよう…』


彼女はいつも通りやってきた。
眠た気な目、怠そうな雰囲気、素っ気ない応答。まるで昨日のことが嘘だったのでは、と思えるくらいにいつも通りだった。

結局、その日はいつも通りに過ごすことにした。
昨日できた傷を門井さんにどうしたのかと聞かれたけど、「転んだ」と適当に嘘をついて誤魔化した。

良かったのは、氷麗や他の者達に昨日のことを話さなかったことだ。もし話していれば…きっと今頃、氷麗や青は門井さんにかなり警戒をしていただろう。


「…ハァ…」

『…疲れてるね。大丈夫?
…例の事件、行き詰まってるの?』

「…まぁ…そんなとこ、かな。」


こうやって今も、今までも、素知らぬ顔をして事の成り行きを聞いていたのか。
『大丈夫』って問うのは何故だろう。
ーボクから情報を聞き出すため?
ーそれともボクを本当に心配してる?
ーもし昨日のボクが「奴良リクオ」だと知っていたら…君はそれでも攻撃をしていたのだろうか。
ーあの電話は…誰から?

次々と思い浮かぶ疑問に、ボクは心身ともにモヤモヤしていた。
だから、


「門井さん…あなた、どこか怪我してるの?」

『!! 別に…何もないよ。』

「……!」


そうだ。
いつも通りの日常だけれど、たった1つ…いつもと違うところがある。


「ごめん。ちょっと腕見せて。」

『…! だ、だめっ!! イッ…』

「な…何そのアザ!?」


氷麗の何気ない一言でようやく気付いた。
いつも右手で水筒に入ってる紅茶を注ぐのに…今日は左手だ。授業の時も、右手じゃなく今日は左手でノートをとっていた。
とても些細な変化だけれど、まるで右手をかばうかのようなその一連の行動に、ボクは確信を持てた。
だから断られる前に、無断で彼女の袖を捲り上げたのだが…


「…何、これ…」

『……階段で転び落ちただけ、だから。』

「そんなんじゃこんな酷いアザ出来ないよ!」


赤黒く変色した腕。
そのアザはどうしても階段で転び落ちただけとは考えられない。
昨日学校で会った時、そして昨晩の時も、彼女は右手を庇うような素振りを見せなかった。考えられるのは、昨晩電話があって帰ってからだ…。

家に帰ったのではなかったのか?
あの後、去ってから何があった?


「門井さん…」

『…なに。』

「今日、ボクの家に来て。ちゃんと手当てするから。」

『このくらい大丈…』

「駄目だ。学校が終わったらそのままボクん家に行くよ。氷麗、青、門井さんが帰ろうとしてたときはよろしくね!」

「「はい!/へい!」」


戸惑う門井さんをさておき、彼女を家に来るように招待する。
そして出来ることならば…少しでも彼女が裏で何をしているのかを探りたい。昨晩<仕事>だからあの男性を殺すと言っていたのは彼女だ。
ならば、
その仕事が何なのかをまずは調べよう。



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