近付く真実
「ったく、マジねーわ…」
「それな。
太一さんが死んでからマジ辛ぇよ…」
満月が浮かぶ夜、情報収集のためにフラフラと放浪していれば、耳に入ってきた会話。何となく話の先が気になったオレは明鏡止水で気配を消し、若い男2人の会話に耳をかたむける。
「何で殺されたんだろ…」
「オレ、次のやつを貰うための金、集めてたのに。死ぬなら次のやつを渡してから死んで欲しかったわ。」
「…まぁ、いんじゃね?
次貰う人、もう見付かってんだし。」
「まぁな…それにしても、まさか…<デザイナ>が原因であんな死に方したんじゃねぇよな?」
「そりゃあねぇだろ…あんな変な副作用があってたまるか。」
これは…当たりだな。
<デザイナ>の情報を求めていたにも関わらず、なかなか手に入らなかった情報。それが今、偶然にも手に入ったため、鯉伴はニイッと口角をあげる。
「おい、お前さんら。その<デザイナ>ってのについてちょっと教えてくれねぇかい?」
「!!
な、なんだお前!?」
「誰だっ!!?」
「おっと…そう警戒しないでくれよ。
オレもお前さんらと同じ仲間だ。<デザイナ>が切れたから欲しいんだが…太一さんが亡くなったから貰えねぇだろう?
新しく入手できなくて困ってんだよ。」
せっかく見つけた貴重な情報源なため、逃がすわけにはいかない。肩を竦ませて、困ったように鯉伴は言う。そして、警戒されないように適当に嘘をつけば、2人とも「何だ…」と緊張の糸を解く。
「何だ…アンタも<デザイナ>が欲しいのか。」
「太一さん死んだし、今のところ…他には青木さんからしか貰うしかねぇと思うぜ。」
青木、ねぇ。
そいつのところに行きゃあ、その粉の在処に辿り着けるってことかい。
「ふぅん…
その青木さんってのから貰うにはどうすりゃいいんだ?」
「太一さんと大して変わんねぇよ。普通に金を持ってけばいい。」
「太一さんはかなりぼったくってたが、青木さんはそこまでぼったくらねぇからいいぞ〜。」
「いや、それがそうでもねぇんだよ…
太一さんが死んだことで、太一さんの客も青木さんに行くだろ? そしたら青木さんももう安く売る必要なくなったみたいでよ…、急に最近値上がりしたんだよ。」
「げっ、マジか…じゃあ結局金額はそんな変わんねぇって事かよ。」
2人の会話からして、どうやらその<デザイナ>を手に入れるにはかなりお金を納めなくちゃならねぇらしい。
…お金の準備はしなくてもいいだろう。
取り敢えず、その青木とかいう奴を捕らえればいいだけの話だ。
「青木さんにはどうしたら会えるんだい?」
「青木さんは浮世絵町のー……」
その後、青木という人物に会うために何処に行けばいいのかを聞いた鯉伴。
先程の若者の話によると、青木の家は知られていないが、月曜と木曜に浮世絵町のとある廃屋ビルにて取り引きが行われるらしい。
「…取り敢えず、これ持って帰るか。」
手の平にあるのは、白い粉が入ったいくつもの袋。さっきの若者2人との会話を終えた後、強制的に没収してきたのだ。
ちなみにその男2人は(当たり前だが)抵抗したため、鯉伴の容赦ない拳骨で意識を手放している。
「今日は水曜だし…明日だなぁ、動きがあるのは。」
今日はこの粉を鴆に渡して、リクオに報告したらゆっくり休もう。
そう計画を立てながら帰り道を一人歩む鯉伴だった。
だが、この時には既にもう、他のところで事が動いていたのだった…。
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