「鯉さん、どーだい?
久しぶりに寄ってかないかい?」

「ハハッ、いいねぇ〜。
だがまた次の日にするよ。」

「鯉伴様ぁ〜、1杯どうですかぁ〜?」

「おっ、旨そうな酒だなぁ。今度飲みに来るからとっといてくれ。」

「もっとお顔出しに来て下さいな。」

「悪ぃ悪ぃ。年喰ったのか…最近は昔のように、はしごできなくていけねぇや。」




キラキラと常世の闇に光るのは数々の飲み屋。
妖怪達の経営する飲み屋が建ち並ぶここには、色々な妖怪が堂々と活発に行動している。
そんな飲み屋街を今、
可愛い女妖怪から大人の色気がある女妖怪…全てを魅了するとある男が道を行く。
その男とは言わずもがな…


「今日はこれでも真剣に探し物やってるんでね。」


奴良鯉伴だ。

癖なのか、片目だけ目を閉じるその姿はいつもと変わらない。
ただ1つだけ…変わっている点をあげるとするならば、


「…何だい、お前さんかぇ。
今日は珍しく酔うてないんじゃのぅ。」

「邪魔するぜ、バーさん。
今日は1つ…聞きたいことがあって来た。」


飲み屋街を通ってきたのにも関わらず、お酒大好きな鯉伴が全く酔っていない。
その事からも、バーさんと呼ばれたその老婆も、本日の鯉伴が奴良組の2代目として来たのだと直ぐさま察する。


「…用件はなんだい。まぁ、聞かなくても薄々わかっとるがのぅ? どうせここ最近流行ってる、変な事件についてじゃろうて。」

「流石は情報屋やってるだけあるぜ。
…もう尻尾は掴んであるのか?」

「…さぁて、どうかのう…ヒヒッ」


老婆のニヤニヤとする反応に、勿体ぶらずにさっさと話せと促す鯉伴。
長年の付き合いなのだろう。せっかくの色男なのに、せっかちなのが残念だと老婆も軽口をたたく。
しかし、
そのふざけた雰囲気も次の瞬間には消え、真面目な空気が2人を支配する。


「粉じゃ。」

「粉?」

「死んだ者の共通点よ…皆、粉をやっておる。」

「…麻薬か。」

「従来の麻薬とは違うがな…これも麻薬と言えるやもしれん。」

「…何ていう薬なんだ?」

「………ざいな?」

「あん?」

「………………<でざいな>?」

「…何だその変な名前は。外国語か?」

「知らぬ。最近の若者は異国語を話しておるのか現代語を話しておるのか…区別がつかん故分からんわ。」

「おいおい…最早その名前、合ってんのか?」

「ふん…名前が分からずともこの情報だけでも充分じゃろう。」

「…まぁな。要はその粉の出所を探しゃあいいだけのことだ。
…助かったぜ、ありがとうな。」


ニッと笑い、一升瓶を置く鯉伴。
一方、その置かれた一升瓶を目の前にした老婆は口元を嬉しそうに歪める。
「また何かあったら頼む」
そう言葉を残して鯉伴は去り…さっきまでの真面目な空気は何事もなかったように消え去ったのだった。



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