狭い世間
「待たせてごめんね! どうぞ〜」
『お邪魔します…』
ニコニコと家の中へ招き入れる若菜さんに対し、戸惑いを見せながらも取り敢えず家に入る凛。
そして、客間へと向かう2人をコソコソと陰に隠れながら見守る多くの妖怪…
「おい、誰だあれ?」
「若菜さんの知り合いだろ?」
「でもあれってリクオ様の通う学校の制服だよな…」
「…ゲゲッ! 今あの女と目が合った!!」
「嘘だー…気のせいだろー」
天井裏の隙間や庭の木の陰、床下からなど…あちらこちらに妖怪の存在が確認できる。そしてそんな皆の様子を不思議に思ったのだろう…散歩からたった今帰宅したばかりの男が近くにいた小妖怪に尋ねた。
「…隠れんぼでもしてんのかい?」
「あ、2代目! お帰りなせぇ!」
子猫を腕に抱いたその男は2代目奴良鯉伴で、小妖怪に現状を確認した彼はなるほどと頷く。
「浮世絵高校の制服を着た若菜の友達ねぇ…どんな人なのか挨拶でもしてくるか。」
「邪魔するぜ」
「あら! お帰りなさい、鯉伴さん。」
ガラッと客間の戸を開けたのは、言わずもがな鯉伴である。急に現れた鯉伴を若菜はニコリと出迎え、そして楽しそうに凛のことを紹介する。
「鯉伴さん、この子ね、浮世絵高校に通ってるんですって! スーパーでお買い物しててね、なんやかんやで家に連れてきちゃった!」
「…こりゃあ驚いたね。まさかオレん家にお嬢さんがいるたぁ…」
『………あ。あの時の…変な人……』
勿論、客人が凛であると知らなかった鯉伴は驚きに目を見開き、一方の凛は『思い出した』と言わんばかりの反応を示す。そんな2人に若菜は「2人共知り合いだったのね、世間って狭いわね」と楽しそうに笑った。そして、鯉伴の分のお茶を入れ直しに若菜が去ったことで、客間は鯉伴と凛だけになる。
『……へぇ、あの時の子猫、捨ててないんだ。』
「……まぁな。拾ったモンはちゃんと責任持って預かる質なんでね。」
『ふーん。』
「ふーん、て…それだけかぃ。」
スリスリと頭を鯉伴になすり付ける子猫、それをジッと見つめる凛、その凛の様子に苦笑いする鯉伴。気まずいような気まずくないような…何とも言いがたいその雰囲気が流れる客間だったが、
「ただいまー!!」
「お帰りリクオ。今ね、客間に浮世絵高校の可愛い女の子が遊びに来てるわよ♪」
「浮世絵高校の? …カナちゃんじゃなくて?」
「…あっ、そういえば、名前まだ聞いてなかったわ!」
「…母さん!? それ初歩的なことだよ!?」
玄関の方から聞こえてくる若菜とリクオの会話に、一気に客間が笑いで満ち溢れる。
と、言ってもー
「ククッ…若菜は相変わらずだなぁ。
てかお前さんはどんな経緯でここに連れて来られたんだい?」
『……さぁ…牛乳貰ったから?』
笑ってるのは鯉伴だけだが。
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